お金の価値は国によって違う!価値がある紙幣とない紙幣の違いは?

我々は普段何気なくお金を稼ぎ、使っています。しかし、お金にはなぜ価値があるのか、どれくらい価値があるのかを真剣に考えた事がある人は少ないのではないでしょうか。

もちろんそのまま暮らしていても生活にほとんど支障は出ませんが、なぜお金という制度が成り立っているのかを考えてみると、経済のニュースがもっと楽しくなります。

お金に価値がある理由は「国や政府の信頼があるから」

そもそも、国(正確には中央銀行)が生産している紙幣や効果というのは、単なる紙や金属片に過ぎません。1万円札の原価は22円で、とても額面金額に見合った価値があるとはいえません。

にも関わらず、我々日本人は1万円札には1万円の価値があると何の疑いもなく信じています。これは日本円に限った話ではなく、ドルでもユーロでも同様です。一体なぜでしょうか。

簡単に言えば、お金を発行している国や政府に信用があるからです。

実は元々、お金というのは民間の金融業者が発行していました。金融業者は金銀をたくさん持っており、それと交換すると約束していたため、紙幣が信頼してもらえたのです。

このような民間企業のやり方を見た政府は、その真似をします。昔の政府が発行した貨幣は、金や銀など、それ自体に価値があるもので作られていました。政府に信頼がなかったため、政府自体が潰えても価値が残るもので作らざるを得なかったわけです。

お金の価値を政府が保証するという考え方

日本でも江戸時代にはそれ自体に価値がある硬貨が流通していましたが、元禄時代になると金銀の産出量が低下し、一方で経済発展により貨幣の需要は増大したことから、慢性的な貨幣不足(デフレ)が生じていました。

貨幣を作るのに必要な金銀が確保できなかったので、デフレに対応できなかったのです。

これを受けて当時の勘定奉行だった荻原重秀は、政府に信用があれば、貨幣自体は価値が無いものでもかまわないと考え、大幅な改鋳を行いました。貨幣の金銀含有量を大幅に減らすことによって、貨幣の流通量を増やそうとしたのです。

当時の人間としては非常に先進的な考えですが、これによって幕府は財政難を乗り切りました。現在ではほぼすべての国や地域にこの考え方が根付いています。

日本円札にも米ドル札にもそれ自体には価値が無いものの、国や政府が信頼されており、価値暴落が起こることはほぼ無いだろうと皆が考えているため、大きなトラブルには発展しないのです。

逆に考えれば、今は普通に流通しているお金であっても、国や政府の信頼がなくなってしまえば、その価値は暴落してしまいます。価値が暴落するといわゆるハイパーインフレが発生します。

単純に考えれば、その貨幣の価値が100分の1になってしまったら、物価は100倍になります。このようなハイパーインフレは国民の生活に大打撃を与えます。だからこそ国や政府は自身の信頼を維持・向上し続けることが大切なのです。

政府の発行したお金が信用されない国

比較的政情が安定している国のお金は国内ではもちろん、国外でも価値のあるものとして扱われますが、政情不安が絶えない国のお金は国内ですら信用されないことがままあります。そのような国では、自国通貨ではなく海外通貨を日常的に取引に使います。

例えばエジプトではエジプト・ポンドという通貨が使われていますが、かつてはエジプト国民にも価値が無いものとして扱われており、エジプト・ポンドでの買い物や、エジプト・ポンドからの米ドルやユーロへの両替が商店や金融機関で断られることがしばしばありました(比較的政情が安定している現在はそのようなケースは少なくなっていますが、依然として経済基盤が脆弱なことには代わりありません)。

世界にはこうした価値がほとんど認められていない・いなかった通貨がたくさんあります。代表的なものを幾つか紹介します。

ソマリア・シリング

ソマリアはアフリカの最東端に位置する国家です。1991年の内戦によって事実上の無政府状態が続いており、現在は正式な政府が存在しているものの一部地域は別の政府が統治しているという不安な状態が続いています。

政情を安定させるためには内戦終結が必要不可欠なのですが、その見通しは立っていません。

中央銀行も中央政府の消滅とともに亡くなっており、それゆえに現在はソマリア・シリングも発行されていません。国内では米ドルやエチオピア・ブルなどの海外通貨が使われています(一応ソマリア・シリングも使えます)。

1996年に発行されたとされる偽札も多く出回っており、米国外交専門誌のフォーリン・ポリシー(電子版)2007年6月12日版では、北朝鮮のウォンやジンバブエ・ドルとともに、世界で最も価値が低い通貨に選定されてしまいました。

なお、ソマリアからの独立を一方的に宣言したソマリランドでは、ソマリランド・シリングという通貨が発行されています。こちらはソマリア・シリングよりは安定的です。

イラク・ディナール

イラクは中東の西部に位置する連邦共和制国家です。世界有数の原油埋蔵国であり、主な産業も石油の輸出ですが、数々の戦争によって産油施設やパイプラインが大きな打撃を受けてしまいました。

加えて湾岸戦争終結後の1991年からは経済制裁のためそれまで使っていたスイスの通貨印刷技術が使えなくなり、粗悪な紙幣が大量に造幣され、高いインフレ率を記録。通貨の価値は暴落してしまいました。

その後2003年にサダム・フセインが失脚すると、新イラク・ディナールの硬貨と紙幣が発行されました。

日本国内では「イラクから米軍が撤退すれば新イラク・ディナールの価値は数十倍になる」などと持ちかけ、明らかに価値に見合わない高額で紙幣を購入させるケースが相次ぎ、日本国内でも問題となりました。

ベネズエラ・ボリバル

ベネズエラは南米最北端に位置する連邦共和制社会主義国家です。ベネズエラで長きに渡り政権を維持してきたチャベス大統領は、徹底的な反米政策を軸に掲げ、反米国家との連携強化を図りました。

社会主義国家であり、反市場原理主義、反新自由主義を掲げて貧困層の底上げを図る政策が行われましたが、結局それらの問題は解決せず、チャベス大統領は2013年3月に亡くなりました。

ベネズエラではかつてベネズエラ・ボリバルという通貨が使われていましたが、2007年6月の時点では世界で最も勝ちの低い通貨トップ5に選ばれるなど、非常に価値の低いものとして見られていました。

その後2008年1月に1000ベネズエラ・ボリバルを1ボリバル・フエルテに交換するデノミネーションが行われました。

デノミネーションは大きなトラブルもないまま無事終了し、現在は多少ですが経済は安定しました。とはいえ貧しい国家であることには変わりなく、現在は石油の輸出産業が主な収入源ですが、石油部門が雇用するのは就労人口の0.5%。貧富の差は依然として大きいままです。

2016年1月にはマドゥロ大統領が経済緊急事態を宣言し、日用品すら不足するという自体に陥っています。

北朝鮮ウォン

北朝鮮は朝鮮半島の北部に位置する社会主義共和国です。1950年の朝鮮戦争の際には当時の二大国家の片方を担っていたソビエト連邦から支援を受けて、韓国に攻め入ります。

当初は北朝鮮側が押し込んでいたのですが、韓国が米を中心とする国連から支持を受けると形勢は逆転。北朝鮮軍は中国の国境まで追い詰められます。その後中国からの軍事支援を受けるものの、戦争は泥仕合となり、1953年に休戦します。

その後は社会主義国家として、韓国とは別の道を歩み始めた北朝鮮ですが、経済力で韓国に大きく差をつけられてしまいます。

おまけに背後にいたソ連が崩壊してしまい、後ろ盾も失います。経済はどんどん悪い方向に向かう一方で金王朝に対する病的なまでの個人崇拝と粛清は収まるところを知らず、その結果北朝鮮ウォンも価値のない通貨とかしてしまいました。

2009年には新北朝鮮ウォンが導入あれ、100分の1のデノミネーションが実施されました。タンス預金の発覚を恐れた北朝鮮市民は外国通貨への交換をするため闇市に殺到し、市場は混乱に陥りました。

新ウォン通貨はわずか2ヶ月で10分の1位の価値に暴落、闇市でも売買が停止し、労働者への賃金支払いも中断する事態になりました。

あまりの大失敗ぶりに、北朝鮮の首相が異例の謝罪を行いました。北朝鮮国民は自国通貨を信用しなくなり、人民元や米ドル、更には日本円などの外貨を求めるようになりました。

なお、北朝鮮ウォンと韓国ウォンは名前が同じだけで全くの別物です。

ジンバブエ・ドル

ジンバブエは元々アフリカの国家の中では豊かな国で、アフリカの穀物庫と呼ばれるほど大規模な農業生産が行われていました。しかし、ムガベ大統領が白人農場の強制収容を勧めると、優秀な白人が次々と国を出ていき、農業技術は失われました。

その後も失政を重ね、2009年1月には非公式ながら年間インフレ率6.5×10108%という数値を達成しました。これはおおよそ1日で物価が2倍になる計算になります。

当然経済は大混乱し、2015年には通貨発行が停止。現在は米ドルや南アフリカランドなどの他の国家の通過による取引が行われています。

世界で最も価値のある通貨は?


このように価値がほぼない通貨もいくらかある一方で、国内のみならず国際的にも価値を認められている、信頼性の高い通貨もいくつかあります。通貨の価値を見分ける上で役立つのが通貨の兌換(交換)できる国の数です。この考えでいけば、世界で一番兌換ができる通貨は米ドルということになります。

米ドル

世界中の信頼を得ている米ドルですが、実はこれを発行しているのはアメリカの中央銀行ではなくFRBという民間銀行です。その為、米ドル札を入念に見渡しても、アメリカ政府やアメリカの文字は見当たりません。

民間銀行が通貨を発行しているというのは日本人からすると違和感がありますが、それが成り立つのが米国という国の恐ろしいところであり、素晴らしいところでもあります。

ユーロ

米ドルについで高い信頼を得ているとされているのが欧州中央銀行の発行するユーロです。ユーロはヨーロッパの複数の国家で使用できる通貨です。

現在は25カ国で使用されており、その内19カ国が欧州連合加盟国です。勘違いされがちなことですが、欧州連合に加入してない国家でも、ユーロを使うことは可能です。

また、ユーロとは別に独自の通貨を採用している国もあります。例えばスイスではユーロが使えますが、一方でスイスの通貨であるスイスフランも使えます。

このように多くの国で使用されているユーロですが、一時期と比べるとややその勢いには陰りがあり、25カ国もの巨大かつ特殊な経済圏で一つの通貨を取り扱うのは危険である、と懸念する経済学者も増え始めています。

ユーロ圏と一口に言っても、経済の規模や景気循環のペースはまちまちです。例えばドイツは好景気だけどフランスは不景気、ということもありえます。

通常、好景気な国家では金融引締めを、不景気な国家では金融緩和を行いますが、ユーロ圏では原則として単一の金融政策を採用しなければならないため、国によって金融政策の方針を変えるということができません。これは柔軟性に欠けますが、だからといって国ごとに違う金融政策を取るのでは不公平ですし、ユーロ圏を築いた意味もなくなってしまいます。

ユーロ圏全体の経済成長率は、低成長に苦しんでいる日本の経済成長率よりも低い状態が続いており、ユーロ圏の解体を訴える経済学者も少なくありません。統合された経済圏は単なる夢物語だったのかもしれません。

通貨安競争はなぜ起こる?

ところで、通貨の価値というのはいつも一定なわけではありません。通貨の価値は上がったり、下がったりします。だからこそ為替レートは毎日、毎時間、毎分変動するのです。

皆さんは通貨安競争という単語を耳にしたことがあるでしょうか。通貨安競争とは、簡単に言えば各国が自国通貨安に誘導しようとしている状態、競争ことです。

具体的には、日本が円安に、米国がドル安に、ヨーロッパがユーロ安に、韓国はウォン安に、中国は人民元安に、と各国が自国通貨をなんとか安くしようとしている状態です。

ところで、自国通貨が安くなるということは、言い換えれば自国通貨の価値が下がるということです。自国価値が下がるのはその国にとっては望ましくないことのように思えますが、実際には多くの国が通貨安競争に参加しています。一体なぜでしょうか。

通貨安は貿易収支を改善する

通貨安の一番のメリットは、貿易収支を改善することです。例えば、日本が自動車を生産して米国に販売する場合について考えます。仮に1ドル=100円の場合、相手に1万ドルで買い取ってもらえば100万円の売上となります。

しかし、1ドル=110円の時に1万ドルで買い取ってもらえば、110万円の売上であります。同じものを同じ1万ドルで売ったにも関わらず、売上に10万円もの差がつくのです。輸出産業が好調になれば貿易収支は改善されます。

通貨安は観光産業を特化する

通貨安が起こると、外国人は自国通貨を買いやすくなります。例えば円が安くなれば、外国人は円を買いやすくなります。

円が買いやすくなれば、より多くの外国人が日本に観光にやってきます。そして安く買った日本円を使って、日本国内で様々な財やサービスを消費するので、観光関連企業の売上、ひいては利益が増加します。

通貨安にもデメリットはあるが、メリットのほうが大きいと考えられている

一方、通貨安のデメリットは、海外製品を購入するのにお金がかかることです。たとえば、1ドル=100円の時は100ドルの商品を1万円で変えますが、1ドル=110円の時は1万1000円払わなければ買えません。

この考え方を推し進めると、通貨安は輸入コストの増加を引き起こす、逆に考えれば通貨高(円高)は輸入コストを抑える効果があると考えられます。

しかし、輸入コストが下がり、海外製品が安く変えるようになると、消費者はそちらに流れるようになるため、国内企業の利益がますます減ります。当然、国内企業の従業員の給料は下がり、売れないので物価も下がるというデフレに突入していきます。

安値競争によって各企業が消耗するのは望ましいことではありません。通貨安にもデメリットはある(通貨高にもメリットはある)のは確かですが、それ以上にメリットのほうが大きいため(通貨高のデメリットが大きいため)、各国家は通貨安競争に臨まざるをえないのです。

通貨安の引き起こし方

では、具体的には通貨安はどのようにして起こせばいいのでしょうか。通貨安の最も簡単な起こし方は金融緩和です。

金融緩和とは簡単に言えば、政策金利の利下げや買いオペ(中央銀行が民間銀行の資産を買うこと)により、市場に流れるお金の量を増やすことです。通常は景気浮揚のために行われる金融緩和ですが、これは結果として通貨安を招きます。

市場にお金が大量に流れると、市場でお金が余ります。余っている、つまり需要が供給を下回っているものは、長期的には価値が下がるのが市場原理です。たとえ通貨が対象でもそれは変わりません。市場内で通貨が余りまくっていれば、自然に通貨安になっていくのです。

通貨の価値は今後もあり続けるの?

通貨が今後も通貨として使えるかどうかは、誰にもわかりません。私個人としては日本円に関しては少なくとも数十年は問題なく価値は維持されると考えていますが、もちろんそれを保証することはできません。

仮に通貨の価値がなくなると考えている方がいらっしゃるのならば、その方には実物資産を持つことをおすすめします。実物資産とは簡単に行ってしまえば、貴金属、不動産など、形がありその物自体に価値がある資産のことです。

こうした資産は仮に通貨の価値が全くなくなっても価値が維持されるので(例えば日本円が紙くずになっても不動産が壊れるわけではありません)、通貨の価値暴落に備えるのには最適であるといえます。

なお、株式や債券はそれ自体に価値があるわけではないので、実物資産ではありません。

一方で、実物資産は流動性が低い(換金しづらい)という欠点もあります。通貨の価値が暴落しなかった場合はただ単に購入に無駄な手数料や維持費用がかかるだけで終わる、ということもあり得るので注意が必要です。

また、不動産の場合はともかく、貴金属はそれを所有することによる利子が得られない(株式や債券は配当金や利回りが、預貯金ならば利息が得られます)という欠点もあります。通貨の価値暴落に備えるにも、それなりにリスクが有るということは理解して置かなければなりません。