会社の無借金経営はメリットばかりではない?

家計の規模で見た場合、経営は無借金で行うに越したことはありません。家計は収益を上げるための組織ではないため、一度借金を作ってしまうとそれを返済するのが難しくなってしまうからです。

しかし、企業の場合は話が少し変わってきます。もちろん、無借金経営も決して悪いことではないのですが、業種や事業規模によっては積極的に借金をした方がいいケースもあります。今回は無借金経営のメリットと借金のメリット、それぞれを見ていきたいと思います。

無借金経営のメリットは安定性と信頼が得やすいこと

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無借金経営のメリットの一番のメリットは、借金の返済で経営が圧迫されないことです。有利子負債の利息の支払いもないので、経営が非常に安定します。

また、無借金経営であることは取引先からの信頼を得る上でも有効です。

副次的な効果ではありますが、経営者や財務担当者の気持ちを楽にさせるというのも無借金経営のメリットといえるかもしれません。

実際には多くの企業が借金をしている

しかし、日本の企業はどこも無借金経営をしている、もしくはそれを目指しているのかというと、決してそんなことはありません。例えば、2014年末時点で有利子負債が多い企業のトップ10は以下のようになっています。

  1. トヨタ自動車
  2. ソフトバンク
  3. 東京電力
  4. 日産自動車
  5. ホンダ
  6. 三菱商事
  7. 関西電力
  8. 住友電力
  9. 三井物産
  10. 日本電信電話グループ(NTTの持株会社)

いずれも有名な大企業ばかりです。中でも1位のトヨタ自動車の有利子負債額は約17兆6000億円と、2位のソフトバンクの8兆7800億円の倍以上の金額になっています。こんなに借金があって大丈夫なのか、と思われるかもしれませんが、大切なのは借金の額ではなく、それを返せる見込みがあるかどうかです。

これらの企業は借金を返せる見込みがあるからこそ、多くの金融機関や個人投資家などからお金を借りられたのです。では、貸し手はどうやって返済能力を測っているのでしょうか。

貸借対照表と損益計算書で企業の経営状態がわかる?

企業は毎年決算報告で貸借対照表と損益計算書を公表しています。貸借対照表はその企業の資産、負債、純資産がどのようなバランスになっているかを示すもの、損益計算書は1年の利益を示すもので、どちらも借り手の返済能力を調べる上で有効です。

貸借対照表によれば、2015年3月31日時点でのトヨタは約19兆円もの有利子負債を抱えている一方で、15兆円もの金融債権を抱えています。金融債権とは簡単に言えば金貸しによる債権です。

つまり、トヨタはたくさん借金をしているけれど、たくさんお金を貸してもいるのです。また、純資産(資産から負債を除いた会社の純粋な持ち分)が17兆円(全資産の35%)あり、損益計算書の当期純利益(経費や税金などをすべて引いたい最終的な利益)が2兆円あることなどを考えると、経営状態は健全であるといえるでしょう。だからこそトヨタはこんなにも借金ができたのです。

借金は投資をするために必要

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そんなに金融債権をたくさん持っているのならば、それを回収して有利子負債を減らせばいいのでは、と思われるかもしれません。

たしかに有利子負債が減ればそれだけ利息の支払いも減りますが、有利子負債を減らすことが必ずしもいいこととはいえないのです。有利子負債が増えても、その利息以上に高い利回りを挙げられればトータルではプラスになるからです。

例えば、見込み利回りが5%、必要資金が10億円の事業があったとします。しかし、今手元にはお金がありません。この場合はどうするべきでしょうか。仮に事業を見送れば、利益率は0%です。しかし、金利1%で10億円を借りてビジネスに取り組めば、利益率は差し引き4%となります。

むろん、確実に利回り5%が見込める事業など実際にはありませんが、借金をしたほうが効率的に稼げる場合も往々にしてあるのです。

特にトヨタのような大企業は信頼があるうえ融資額も多くなりやすいので、必然的に融資を受ける際の金利は低くなります。こうした企業は借金を背負ってでも事業を拡大したほうが利益につながることが多いのです。

借金は金融機関との信頼構築にも有用

先日、「クレジットヒストリー(クレヒス)の上手な作り方!これで審査も安心」という記事を公開しました。この記事ではクレジットヒストリー、借金履歴が一切ない人は借金を返済した実績がないため金融機関がお金を貸したがらず、クレジットカードが作りづらいということをお話しています。

企業の場合も同様で、借金履歴が一切ない、つまり無借金経営の企業には金融機関はお金を貸したがりません。

今は無借金経営が達成できている企業でも、将来事業拡大や経営悪化時に融資を受けたくなることがあるかもしれません。その時にスムーズに借りられないと困ります。

財務の健全性を害しない範囲で普段から融資を受けておき金融機関と信頼関係を構築しておくことは、経営上非常に有用であるといえます。

無借金経営は善ではないし、悪でもない

zen

ここまでどちらかと言うと借金を肯定する内容になってしまいましたが、もちろん無借金経営も悪いことではありません。問題なのは借金の有無ではなく、効率的に収益を上げることです。

借金をしたほうが効率的に稼げるのならばすればいいですし、借金をしないほうが効率的に稼げるのならばしなければいい、というだけの話です。経営者の方は、効率を常に考えるべきなのです。