近年、不動産投資の新たな形として注目を集めているサブリース契約。従来の不動産投資と比べて一見ハードルが低く、だれでも気軽に取り組める印象がありますが、もちろん投資である以上リスクはついて回ります。
今回はサブリース契約の持つ意味と、そのメリット・デメリットについてまとめましたので、現在不動産投資を検討している方は参考にしてください。
サブリース契約は簡単に言えば「物件の又貸し」
サブリース契約とは、大家が管理会社に対して物件を貸し出し、更に管理会社が入居者に物件を貸し出すという契約です。要するに物件の又貸しです。
この場合、大家は管理会社に対して物件を貸し出します。物件の総合的な管理(入居者募集、建物清掃、設備点検など)は管理会社が行います。
一方、大家が管理会社に対して物件の管理を委託し、得られた賃料の中から一部を管理報酬として支払う契約は「管理委託契約」「賃貸管理契約」などといいます(この記事では管理委託契約という呼び名で統一します)。
こちらでは、大家は入居者に対して物件を貸し出します。物件の総合的な管理(入居者募集、建物清掃、設備点検など)は管理会社が行います。
サブリース契約と管理委託契約の違い
サブリース契約と管理委託契約の主な特徴を表にまとめると、以下のようになります。
大家が契約する相手 | 物件管理を行う主体 | 管理会社に対する報酬システム | 収益性 | |
サブリース契約 | 管理会社 | 管理会社 | 満室時の想定賃料の10~20%が管理会社の取り分になる | 低いが安定しやすいとされている |
管理委託契約 | 入居者 | 管理会社 | 得られた賃料の一部(通常は5~10%程度)を管理会社に支払う | 高いが安定しづらいとされている |
表だけではすこしわかりづらいかと思うので、具体的に説明します。
サブリース契約は管理会社と、管理委託契約は入居者と契約する
サブリース契約では、大家は管理会社に対して物件を貸し出す契約を結びます。管理会社はそれよりも高い金額で入居者に貸し出すことによって、収益を出します。
例えば、大家が管理会社に対して月30万円で物件を貸し出し、管理会社が35万円の賃料収入を得られれば、利益は5万円となります。仮に管理会社の賃料収入が20万円になっても、40万円になっても、大家が得られる利益は30万円で固定されます。
一方、管理委託契約では、大家は入居者に対して物件を貸し出す契約を結びます。そして、それとは別に管理会社と、管理委託契約を結びます。管理会社は大家の代わりに物件の管理を行い、大家はその見返りに得られた家賃収入の一部(通常3~7%程度)を管理会社に支払います。
例えば、大家の得られた家賃収入が30万円、管理委託報酬が5%だった場合、管理会社の利益は30万円×5%=1万5000円となります。大家の得られた家賃収入が40万円なら、管理会社の利益は2万円です。
サブリース契約の賃料設定は満室想定時の80~90%が基本
大家と管理会社がサブリース契約を結ぶ際、その賃料は物件の満室想定時の80~90%に設定されることが多いようです。
例えば、1戸当たりの賃料相場が10万円、10戸の物件の場合、満室になれば賃料は100万円ですので、サブリース契約時の賃料は80万円~90万円となります。仮に85%だった場合、賃料は85万円となります。
管理会社がこの物件で利益を上げるためには、入居率85%超を目指す必要があります。仮に入居率が100%になれば利益は100万円-85万円=ですが、90%だと90万円-85万円=5万円にしかなりません。80%だと80万円-85万円=-5万円、つまり5万円の損失となってしまいます。
一方、大家の方は入居率が100%だろうが90%だろうが80%だろうが関係なく、毎月85万円の利益を得られます。つまり、入居率の変動リスクを負わなくて済むのです。
一方、大家と管理会社が管理委託契約を結ぶ場合、管理委託報酬は大家が得られた家賃の3~7%程度です。ここでは5%と仮定して考えます。
上記の物件を管理委託契約で運用した場合、入居率が80%ならば大家の得られる賃料収入は80万円で、その5%に当たる4万円が管理会社の取り分となるので、大家の得られる取り分は実質76万円になります。サブリース契約を結んだときよりも低いですね。
入居率が90%ならば、大家の得られる賃料は90万円で、その5%に当たる4万5000円が管理会社の利益となり、大家の取り分は85万5000円となります。サブリース契約を結んだときよりも高いですね。
そして、管理委託契約では、入居率が大家の取り分を大きく左右します。つまり、大家が入居率の変動リスクを追うことになるわけです。反面、入居率が高い場合は、サブリース契約よりも取り分が多くなります。
サブリース契約と管理委託契約の収入比較表
上記の物件について、サブリース契約と管理委託契約で運用した場合の大家の得られる利益を入居率ごとに比較してみました。(上記の物件は10戸ですが、入居率は1%区切りで計算しています)
入居率 | サブリース契約時の大家の収入 | 管理委託契約時の大家の収入 | どちらのほうがお得か |
85% | 85万円 | 80万7500円 | サブリース契約 |
86% | 85万円 | 81万7000円 | サブリース契約 |
87% | 85万円 | 82万6500円 | サブリース契約 |
88% | 85万円 | 83万6000円 | サブリース契約 |
89% | 85万円 | 84万5500円 | サブリース契約 |
90% | 85万円 | 85万5000円 | 管理委託契約 |
91% | 85万円 | 86万4500円 | 管理委託契約 |
92% | 85万円 | 87万4000円 | 管理委託契約 |
93% | 85万円 | 88万3500円 | 管理委託契約 |
94% | 85万円 | 89万3000円 | 管理委託契約 |
95% | 85万円 | 90万2500円 | 管理委託契約 |
入居率が90%を超えた場合、管理委託契約のほうがお得になります。逆にそれに満たない場合は、サブリース契約のほうがお得になります。
サブリース契約の以外な落とし穴
サブリース契約と管理委託契約はどちらも一長一短ですが、現在はどちらかと言えばサブリース契約のほうが人気のようです。確かに、サブリース契約は入居率の変動に受け取れる賃料が左右されることがないという大きなメリットがありますが、一方でデメリットも少なくありません。
国民生活センターがサブリース契約の問題点について、Webなどで注意喚起を行っています。サブリース契約は一見安定しているようで、落とし穴がいっぱいあるのです。(参考資料:国民生活センター「不動産サブリース問題の現状」)
契約期間と賃料固定期間は同じではない
サブリース契約を掲げる大手の不動産会社は「30年一括借上げ」を歌っているところが多いです(企業によっては20年だったり35年だったりします)。これだけを見ると、一見契約を結んでしまえば30年間はずっと変わらない賃料が得られる仕組みになっているようにも思えます。
しかし、この「30年」というのはあくまでも最長の契約期間であって、賃料固定期間ではありません。
そうした不動産会社のWebサイトをよく見ると「賃料は一定の期間毎に見直し」と書いてあることが多いです。一定期間は多くの管理会社では2年、相当サービスがいいところでも5年です。
つまり、殆どの不動産会社では、2年に1回賃料の見直しが行われるわけです。最初は月10万×10戸=100万円だったけれど、3年目からは月9万8000円×10戸=98万円にするからね、などと更新期間になってから言われてしまうわけです。
そして、サブリース契約は、オーナー側に正当な理由がない限り、中途解約できません。東京地裁2012年1月20日判決で、司法がそのような判断を下しています。大家は大幅な減額にも応じるしかなく、安く借り叩いた管理会社の利益は増える、という仕組みがあるわけです。たとえ解約できた場合でも、賃料の4ヶ月分ほどの違約金を取られるケースが少なくありません。
もちろん、建物は経年劣化するものですから、ある程度賃料が引き下げられるのは仕方ありません。しかし、その引き下げ額があまりにも大きいことや、容易に中途解約が出来ないこと、そしてそのことが大家に十分に伝えられていないことなどが問題視されているのです。
最初の2年間だけはやたらと賃料が高い理由
サブリース契約では、最初の2年間だけはやたらと賃料が高く設定されることが多いです。理由は簡単で、そうした方が表面利回りが良くなり、お客さんが集まってくるからです。
例えば、本来は月10万円×10戸=100万円の収益力がある物件を建てられる土地があるとします。管理会社のグループ会社であるハウスメーカーは、あなたの土地ならば月11万円×10戸=110万円は稼げますなどと言って高いマンションを建てさせます。
そして、最初の2年間は管理会社が月11万円×10戸=110万円で借り上げ、3年目以降に一気に賃料を下げるのです。それ以降も経年劣化でどんどん家賃は下がっていきます。
最初の2年間も思ったほど稼げない理由
サブリース契約には一般的に、免責期間というのが定められています。免責期間とは、管理会社が家賃を保証しない機関です。もっとわかりやすくいうと、入居率に関係なく、管理会社から家賃が払われない期間です。免責期間は30日~180日です。例えば免責期間が90日の場合、最初の3ヶ月は満室になろうが全くの無収入になってしまうわけです。
仮にサブリース契約を結んで月11万円×10戸=110万円の家賃を確保しても、最初の3ヶ月は無収入になります。そのため、最初の2年の実質的な収入は110万円×(24ヶ月-3ヶ月)=2310万円となります。
一方、免責期間のない管理委託契約を結んだ場合、家賃を本来の収益力である月10万円にすれば、最初の2年間の家賃収入は月10万円×10戸×24ヶ月=2400万円、手取り収入はそこから管理委託費用=2400万円×5%=120万円を引いた2280万円となります。つまり、サブリースでも管理委託契約でも大して差は出ないのです。
もちろん、実際には管理委託契約で最初の2年間入居率が常に100%となることはまずないのですが、サブリースが最初の2年間も際立って有利でないことはお分かりいただけたかと思います。
サブリース契約だと入居者の質が落ちる?
サブリース契約では、管理会社が入居者の審査を行います。サブリース契約では入居率が管理会社の取り分に大きく影響されるため、少しでも入居率をあげようとします。
その物件が高品質で、高い家賃を設定しても入居率が維持できるものならばいいのですが、そうでない場合管理会社は入居率アップのために個々の賃料を下げようとします。すると高い賃料が払えず、質のいい物件に住めない、マナーも守れず所得も少ない低品質な入居者が物件に集まるようになります。
低品質な入居者が中心になると、それを嫌った平均近く、もしくはそれ以上の層は離れていきます。ますます低品質な入居者が集まるようになり、賃料がどんどん下がり、物件の資産価値は下落していきます。
物件の価値が下落すると、入念に管理するメリットがなくなるため、管理会社の扱いはずさんになり、物件の傷みは加速していきます。サブリース契約終了後に帰ってくる物件は老朽化が進んでおり、売れない貸せないで行き詰まることになります。
管理会社が本当に30年間も持つの?
サブリース契約を行う管理会社はある程度規模の大きい会¥ところが多いですが、だからといって安心はできません。
すべての企業には倒産リスクがあります。それでも契約期間が3年や5年ならばまず問題ないかと思いますが、30年後も倒産していないと自信を持ってお話することは出来ません。
管理会社はサブリース契約でたんまり儲けているはずだから父さんの心配は少ないのでは?と思われるかもしれません。たしかにサブリース契約自体は管理会社の安定した収益源なのですが、管理会社は他の業務も行っています。
例えば建設会社と管理会社がグループ企業である場合、建設会社の受注が悪化すれば当然管理会社にも悪影響が及びます。また、管理会社が転売目的で勝った不動産が売れ残り、過剰在庫が原因で倒産することもあります。
2008年にはキョーエイ産業という広島県の大手管理会社が倒産していますが、その際には上記の理由が原因で倒産したと報告されています。(参考:東京商工リサーチ 倒産速報)
サブリース契約を結ぶ際の注意点
ここまでさんざんサブリース契約をこき下ろすような記述を繰り返してしまいましたが、サブリース契約には前述の通り、入居率のリスクを負わなくていいという大きな長所があります。
面倒な管理をすべて任せたいというときには、選択肢の一つに入ります。ただし、その場合でも以下のことは必ず確認する必要があります。
賃料の見直し期間を確認する
サブリース契約においてもっとも重要なのは、賃料の見直し期間です。30年家賃保証を謳っていても、その賃料が2年に1回見直しということになっているような管理会社には十分な注意が必要です。
残念ながら殆どの管理会社は2年に1回の見直しとなっていますが、大東建託パートナーズなど一部の管理会社は5年に1回となっています。
契約賃料を検討する
管理会社が不当に高すぎる賃料を提示していないかを事前に確認することは非常に重要です。周囲の周辺相場などから、管理委託契約にした場合の手取り収入を予想し、そこからさらにサブリース契約を結んだ場合の賃料を想定するといいでしょう。
管理会社の経営状態を確認する
管理会社の経営状態は、管理会社が自ら公表している決算書類(財務諸表)からある程度分析することが出来ます。財務諸表の中でも代表的なものは賃借対照表(BS)と損益計算書(PL)です。
貸借対照表はある時点での会社の財産の状態を明らかにするものです。表の左側には資産(厳禁や売掛金、不動産など会社に所属する財産)、右側には負債(銀行からの借入や社債などの借金)と資本(資本金や利益剰余金など、会社の純粋な持分。資産から負債を引いたもの)が記載されています。
状態が良くない管理会社は借金をして売れない在庫をたくさん抱えている傾向があるため、不動産の資産が多く、なおかつ負債も多く、資産に対する純資産の割合(自己資本比率)が少ない傾向があります。
損益計算書は1年の会社の経営成績、利益や損失がどれくらい出たのかを明らかにするものです。利益には
- 売上総利益:売上高から売上原価を引いた利益。多いほど「安く仕入れて高く売る」が実現できている。
- 営業利益:売上総利益から営業にかかった費用(人件費や家賃など)を引いたもの。多いほど本業で儲けられている。
- 経常利益:営業利益に本業以外での利益(受取利息や配当金など)と損失(支払利息や保証料など)を加味したもの。企業の毎年の収益力を表す最も重要な指標です。
- 税引前当期純利益:経常利益から、突発的な利益(有価証券や固定資産の売却益)や損失(有価証券や固定資産の売却損、火災による損失など)を加味したもの。その1年の税引前の純粋な利益。
- 当期純利益:税引前当期純利益から法人税を差し引いた、最終的に会社に残ったお金。
の5つがあります。損益計算書で1番大切なのは、経常利益です。税引前当期利益や当期純利益が黒字でも、その原因が突発的な利益(有価証券でたまたま儲けられたなど)であり、経常利益がマイナスになっている場合は、突発的な利益が期待できない来季以降は赤字に転落する可能性が高いです。
まとめ
- サブリース契約は入居率にかかわらず管理会社から一定の賃料が入る契約
- サブリース契約は一定期間ごとに賃料の見直しが入る
- サブリース契約は最初の2年間だけ高賃料ということも多い
- サブリース契約を結ぶ場合は、賃料の固定期間や管理会社の経営状態などを確認する
サブリース契約にはメリットもありますが、なんの考えもなく結んでいい契約ではありません。管理委託契約との差を理解し、本当に自分にとって得なのかを考えてから契約しましょう。