借金生活中に妊娠してしまう人は少なくありません。ひとえに避妊に対する意識の低さが原因ですが、妊娠してしまった後でそのことを責めても仕方ありません。
問題は妊娠~出産~育児にどれくらいの費用が掛かるかです。今回は妊娠~出産~育児にかかる費用と、それに対する様々な助成制度をまとめてみましたので、借金がある方もない方も参考にしていただければと思います。
妊娠から出産までにかかる費用は平均50万円?
最近は妊娠や出産に必要なことに国や自治体から助成が出ることも多くなりましたが、それでもすべてを助成で賄えるわけではありません。自分で子供を生むわけですから、ある程度のお金は自分で用意する必要があります。
出産時にかかる費用は個人差や地域差が大きいので一概には言えませんが、平均で約50万円の費用が掛かるとされています。ちょっと多めに70万~80万程度用意しておくと安心かと思います。妊娠から出産にかかる具体的な費用は以下の通りです。
妊娠検査費 3000円~5000円
妊娠が確定した場合は、定期的に妊娠検査を受ける必要があります。妊娠検査費には健康保険が適用されないため、原則として全額自己負担です。1回あたりの費用は平均で3000円~5000円程度、細かい検査を行う場合は1万円を超えることもあります。
国は妊娠検診を15回~16回行うように推奨しています。仮に1回5000円とした場合、15回検査を受けた場合の妊娠検査費は7万5000円です。決して小さな額とは言えません。
しかし、最近は妊娠検査に対して助成を行っている自治体も少なくありません。母子手帳と一緒に無料券や補助券といったチケットが配布され、それを使うと検査が無料、もしくは割引になります。
自治体によっては14回分の無料券が配布されるため、ほぼ自己負担なしで妊娠検査を受けることもあります。大きな自治体、若い人が多い自治体ほど助成は多いですが、例外もあります。助成制度について詳しく知りたいという場合は、地元の市区町村までご相談ください。
分娩入院費 14万円
分娩入院費は健康保険が適用されないので、原則として全額自己負担となります。分娩入院費は病院の種類や、個室か大部屋かなどに左右されますが、平均費用は56万円です。
以前はもう少し安かったのですが、最近は個室を選択する人が多いため費用は上昇傾向にあります。ただし、現在は子供一人につき42万円が支給される「出産育児一時金」という制度があるため、実質的な平均負担額は56万円-42万円=14万円です。
この制度を活用すれば、場合によっては黒字になることすらあります。ただし、出産育児一時金制度は何らかの健康保険に入っていなければ支給されないので注意しましょう。
出産育児一時金の支給を受ける場合は、母親が会社員や公務員の場合は加入している健康保険組合や共済組合に、自営業や自由業の場合は国民健康保険(自治体)に、専業主婦などの場合は配偶者の健康保険に申請してください。
なお、出産育児一時金の支払われ方は直接支払制度(健康保険から病院や産院に直接支払われる)が一般的ですが、この制度を導入していない病院もあるので事前に確認しておきましょう。
マタニティ・グッズ 5万円
妊娠中はどんどんおなかが大きくなり、以前着れていた服も着れなくなるのでそれに対応した服が必要になります。
場合によっては妊娠用抱き枕、つわり対策のグッズ、葉酸サプリ(葉酸にはダウン症の確率を下げる効果があるといわれています)なども必要になるかもしれません。こうしたグッズをどれだけ充実させるかはその人次第です。
1人しか産む気がないという場合は割り切って節約してもいいですが、いずれ2人目、3人目が欲しいという時はその時に備えてちょっといいものを用意しておいた方が、今後の妊婦生活が快適になるかもしれません。いずれにせよ、最低でも5万円は用意しておくべきです。
ベビー用品 10万円
初めての子供という場合は当然、ベビー用品を1から用意する必要があります。ベビー用の肌着、服、おむつ、ミルク、哺乳瓶、爪切り、おもちゃなどは必須です。
自動車に乗る場合はチャイルドシートが必要になりますし、外出用のベビーカーや抱っこひもなども欠かせません。特にチャイルドシートは赤ちゃんの安全を守るものであるため、お金をかける人も少なくないようです。
ベビー用品はレンタルで安く済ませれば10万円程度ですが、自分でいいものを用意すると50万円を超えることもあります。最低でも10万円かかるということを覚えておきましょう。
行事費 10万円
赤ちゃんが生まれたら様々な行事を行うことになります。具体的には帯祝い、お七夜、お宮参り、お食い初めなど……こうしたことを全くしない家庭もありますが、こだわる家庭もあります。平均的な費用は10万円ほどです。
出産費用合計(一例) 50万円
さて、ここまでの出産費用を合計してみましょう。
- 妊娠検査費は14回の無料検診がある自治体ならば実質的には無料ですが、ここでは5万円かかるとします。
- 分娩検査費は平均値の56万円から、42万円を引いて14万円とします。
- マタニティグッズは最低値が5万円ですが、ちょっと張り込んで8万円とします。
- ベビー用品は最低値が10万円ですが、ちょっと張り込んで15万円とします。
- 行事費は平均通り10万円とします。
この場合、合計費用は5万円+14万円+8万円+15万円+10万円=52万円となります。平均額50万円とほぼ一致していますね。
子供を一人育てるのにかかる費用は3000万円!?
さて、当然ですが子供は産んだら終わりではありません。そのあとには長い長い育児が待っています。育児にかかる費用は養育費と教育費の二階建てになっています。
養育費とは子供の食費、衣料費、お小遣い代、私的所有物代などです。出産から22年間の養育費は、平均で1640万円になるとされています。
その上に積まれるのが教育費、すなわち学校などに収めるお金です。仮に小中高がすべて公立で、大学は国立に進学した場合でも、1015万円ほどの費用が掛かるとされています。養育費と合わせると合計額は2655万円です。
小学校から高校までは公立で、大学は私立にした場合は約1370万で、養育費と合わせると合計は3010万円となります。
小学校から大学まですべて私立で、大学は私立の医科大学という場合は、なんと教育費は総額で4643万円になります。養育費と合わせると実に6283万円、都内にそれなりの一軒家が買えるほどの値段です。
子育てにはかくもお金がかかるものなのです。借金があるけど出産したいという方は、まずはこのことについてしっかりと向き合う必要があります。
妊娠~出産~育児時の金銭的負担を減らす様々な方法
上記のとおり妊娠~出産~育児には多額の費用が掛かりますが、最近はそれを軽減する制度も少なくありません。そうした制度をいくつか紹介します。
妊娠検査費助成、出産育児一時金
すでに説明済みなので詳細は省略します。
妊娠検査費助成:出産・子育て便利帳「妊娠から出産まで」 東京都福祉保健局
妊婦健康診査にかかる公費負担の助成回数は、14回です。ただし超音波検査の助成回数は区市町村によって異なるため、お住まいの区市町村へお問い合わせ下さい。
出産育児一時金:子どもが生まれたとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
高額療養費制度
健康保険を利用して治療を行い、その費用が一定の額を超えた場合に、超過分を返してもらえる制度です。
妊娠や出産には基本的に健康保険は適用されませんが、つわりや流産、早産、子宮頚管無力症、死産、帝王切開、無痛分娩の麻酔などには健康保険が適用されることがあります。こうした治療を受けた場合は、高額療養費制度が利用できないか医師に相談してみましょう。
参考:高額な医療費を支払ったとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
医療費控除
1年間で1世帯の医療費の支払いが10万円、もしくは所得の5%のうちどちらか低い方を超えた場合、その越えた金額を所得から差し引き、所得税を下げることができる制度です。
この場合の支払いとは自己負担のことです。妊娠や出産には基本的に健康保険がきかずに、全額自己負担となるため10万円はすぐに超えてしまいます。医療費控除の手続きは税務署で行います。
リンク:No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|所得税|国税庁
傷病手当金とは
仕事をしていて、なおかつ勤務先の健康保険に加入している場合には傷病手当金が支給されることがあります。具体的には妊娠悪阻や切迫流産、切迫早産などのトラブルで仕事に復帰できずに有休を使い切ってしまい、それでも仕事に復帰できない場合に支給されます。
3日を超えて無休で休んだ場合、4日目以降に日給の3分の2の額が支給されます。たとえば日給が1万円で、15日無休で休んだ場合、1万円×(15日-3日)×2/3=8万円を受給することができます。手続きは勤務先の担当窓口、もしくは健康保険の担当窓口で行います。
リンク:病気やケガで会社を休んだとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
出産手当金
加入している健康保険から支給される手当金です。正社員、パート、アルバイトなどで健康保険に加入していれば誰でも受給できます(国民健康保険は対象外)。
産休を取った場合、日給の3分の2が出産手当金として健康保険から支給されます。たとえば、日給が9000円、産休を100日取った場合、9000円×100日×2/3=60万円を受給することができます。
なお、出産手当金を受け取っている場合、条件を満たしていても傷病手当金は受け取れないので注意が必要です。手続きは勤務先の担当窓口、もしくは健康保険の担当窓口で行います。
リンク:出産手当金について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会
育児休業給付金
出産後も働きたい女性が、育児で働けない間受け取ることができる給付金です。育児休暇中は給料が出ないので、その穴埋めをするのが育児休業給付金の役割といえます。支給額は育児休暇開始から180日目までが月給の67%、それ以降は月給の50%となっています。
健康保険(国民健康保険は除く)に加入しており、なおかつ育児休業後に働く意思がある場合のみ受給できます。手続きは勤務先の担当窓口、もしくは健康保険の担当窓口で行います。
リンク:育児休業給付 – 厚生労働省
児童手当
子供にかかる生活費を支援する制度です。0歳以上、中学卒業までの児童がいる家庭に、毎月一定の額を給付します。通常は出産と同時期に手続きを行います。
支給額は0~3歳未満までが1万5000円、3歳~小学校6年生までが1万円(第2子まで)もしくは1万5000円(第3子以降)、中学生が1万円となっています。なお、所得制限にひっかかる(年間所得が約960万円以上)の場合は年齢にかかわらず一律5000円となります。
リンク:児童手当について |厚生労働省
児童扶養手当
シングルマザー、シングルファザーを対象とした手当です。ひとり親の家庭に対して、自治体から支給されます。また、両親のどちらか一方に政令で定める障害(視力、聴力、上肢機能の欠損など)があった場合も支給されることがあります。
支給額は全額支給の場合は児童1人の場合は4万2000円/月、児童2人の場合は4万7000円/月、それ以降は一人増えるごとに3000円の増額となります。なお、所得が多い場合は一部減額されることがあります。
リンク:児童扶養手当について|厚生労働省
乳幼児医療費助成
各自治体が設けている、乳幼児の医療費を助成する制度です(自治体によって多少名前が違います)。子供が健康保険に加入している場合、その医療費の一部もしくは全額を自治体が助成してくれます。
助成額や内容、助成が受けられる年齢などは自治体によって異なりますので、詳しくはお住いの市区町村までお問い合わせください。
借金があっても妊娠して大丈夫?
現代日本にはこのように様々な助成制度がありますが、それでも出産をトータルで考えるとやはり赤字になります。経済的なことだけを考えるのならば、子供は産まないに越したことはありません。
借金はあるけれどそれでも子供が欲しいという場合は、やはり妊娠する前に借金を全額返済してしまったほうがいいでしょう。本当に妊娠したい、子供が欲しいと思っているのならば借金の返済もできるはずです。
そもそも、借金があるのに無計画に妊娠するというのは責任ある大人の態度ではありません。もしどうしてもお金が足りないという場合は、債務整理も視野に入れたほうがいいでしょう。無理して返済を続けるとそれがストレスとなり、子供に悪影響を与える恐れもあります。