700万円もの借金をする人はめったにいないと思われるかもしれませんが、そのイメージは正しくありません。金融広報中央委員会のまとめたデータによれば、借金のある世帯は全体の39.8%であり、その平均額は1461万円となっています。
全世帯の約40%が借金をしており、しかもその平均額は700万円を大きく越えているのです。
実際には借金の多くが住宅ローンなのですが、自動車ローンや奨学金を抱えている人も少なくありません。借金額が多くても返済ができているうちはいいですが、失職したり、年収が下がったりするととたんに苦しくなります。
借金の総額が100万円や200万円ならば多少年収が減っても返済を第一に考えるべきですが、700万円もの借金がある場合は債務整理も検討すべきです。
債務整理にもデメリットがあるため、借金が減らせるからという安易な理由で選択してしまうのはよくありませんが、意地でも全額返済する、というのも考えものです。今回は借金が700万円あり、返済が苦しいときにはどのように対応すればいいのかを考えていきます。
銀行や消費者金融のカードローンだけで借金が700万円になることはほぼない
借金と聞くとカードローンをまっさきに思い浮かべる方が多いかと思いますが、カードローンだけで借金が700万円に達するということはまずありえません。
まず、消費者金融の場合は総量規制(年収の3分の1以上貸し出してはいけない)という規制の対象になるため、顧客が700万円を借りるにはその3倍、2100万円以上の年収が必要になります。これだけの年収がなければ、そもそも700万円借りられません。
一方、銀行は総量規制の対象ではありませんが、やはり本人の返済能力を超えるような無茶な貸し方はしません。銀行は消費者金融と比べて審査も厳しく、カードローンだけで700万円もの借金を負うことはほぼ不可能です。
700万円の借金ができる最大の理由は住宅ローンです。住宅ローンは700万円を大きく越えて、数千万程度の借入になることが珍しくありません。また、奨学金は通常300万円程度になることが多いですが、人によっては1000万円を超えることもあります。
700万円返済シミュレーション
700万円を返済するのにはどれくらいかかるのかシミュレーションしていきましょう。700万円もの借金となると金利はそれなりに低くなるはずですので、ここでは金利1.0%、2.0%、3.0%、という3つのケースを想定します。
また、毎月の返済額は3万円、5万円、7万円、10万円と想定します。すると、返済にかかる期間は以下のようになります。
毎月の返済額\金利 | 1.0% | 2.0% | 3.0% |
3万円 | 21年8ヶ月 | 24年8ヶ月 | 29年3ヶ月 |
5万円 | 12年5ヶ月 | 13年4ヶ月 | 14年5ヶ月 |
7万円 | 8年9ヶ月 | 9年2ヶ月 | 9年8ヶ月 |
10万円 | 6年1ヶ月 | 6年3ヶ月 | 6年6ヶ月 |
表を見ていただければ分かる通り、金利1.0%というかなり有利な条件で借り、毎月10万円返済を行っても、6年1ヶ月もの期間がかかることがわかります。
毎月の返済額を減らしたり、金利が高くなったりした場合は、更に返済期間が伸びます。700万円もの借金を返すのは相当大変であることがわかります。
これだけの借金を返すのは簡単なことではありません。今は収入があっても、将来もその収入が続く保証はどこにもありません。もし支払いが苦しくなってきた場合には、無理せず債務整理を検討した方がいいでしょう(もちろん、返済できる場合は返済するに越したことはありません)。
借金が700万円ある場合の適切な債務整理の方法は?
債務整理には
- 任意整理
- 特別調停
- 個人再生
- 自己破産
の4つがあります。詳しい解説は別記事(参考:借金の債務整理の種類とそれぞれのメリット・デメリット)でも解説していますが、よりわかりやすく、大事な部分をかいつまんで言うとだいたい以下のようになります。
- 任意整理:債権者と債務者(もしくはその代理人の弁護士や司法書士)が話し合って借金を減らす。主に将来の利息をカットする。
- 特別調停:裁判所を通す任意整理のようなものだが、任意整理と比べると手間がかかる上にメリットも少なく、選ぶ価値はほぼない。
- 個人再生:裁判所を通した手続きで、借金が最大で10分の1まで減る。借金額が700万円の場合は5分の1まで減る。デメリットは任意整理よりも大きい。
- 自己破産:裁判所を通した手続きで借金は原則0円になるが、財産処分などのデメリットも大きい。
現状、特別調停を選ぶ意味はほぼないので、実質的な選択肢は任意整理、特別調停、自己破産の3つになります。この中でどれを選ぶのが最善なのかは一概には言えません。その人の持っている財産や職業によって左右されるからです。最終的にどれを選ぶかは弁護士と相談して決めるべきですが、大まかな傾向としては以下の様ようなことがいえます。
住宅や土地、自動車などの高額な財産を持っていない場合
この場合は、自己破産が最もおすすめです。自己破産の最大のデメリットは、その時点での価値が20万円以上の財産は原則として処分の対象になる(現金など、生活再建に必要なものは対象にならない)ことです。
逆に言えば、そのような価値のある財産をもともと持っていない場合は、何も処分されない、つまりデメリットがないということになるので、借金の減額幅が最も大きい自己破産が最善の選択肢となります。
なお、自己破産したときに処分の対象となりやすいのは「不動産(住宅と土地)」「自動車」の2つです。賃貸住まいで自動車も所有していないという場合は、何も処分されない可能性が高いです。
住宅を残したい場合
この場合は、個人再生がおすすめです。個人再生には住宅ローン特則と呼ばれる特例があります。
この特例を利用すると、住宅ローンは従来通り支払いながら、その他の借金を整理できます。その他の借金を整理できれば、住宅ローンの返済も楽になります。
ただし、住宅ローン特則は、住宅ローンがあれば誰でも利用できるというわけではなく、
- 住宅の建設もしくは購入に必要な資金を借りている
- 住宅に住宅ローン以外の抵当権設定登記や差押登記がない
- 住宅に、住宅ローン債権(または保証会社の求償債権)を被担保債権と
- する抵当権が設定されている
という3つの条件を満たす必要があります。
また、住宅ローン特則を利用した場合、当然ながら住宅ローンは今後も返済し続ける必要があります。住宅ローンしか借りていない場合、住宅ローンの返済が厳しい場合は、自己破産を選ばざるを得ません。
士業や警備員など、特定の職業に就いている場合
この場合は個人再生が選べるのならばそちらがベストですが、自己破産でも問題ないことが多いです。
自己破産のデメリットの1つに、自己破産の手続き期間中は一定の資格が制限されることが上げられます。手続き中は、その資格を用いた職業に就けなくなるのです。
手続きは数ヶ月で終わり、その後は再びその資格を用いた職業につけるようになりますが、手続き中に収入が途絶えてしまうのが大きな難点です。そのため、できるならば個人再生を選ぶことをおすすめします。
ただし、資格が制限されても他に収入源が確保できそうな場合は、自己破産でも問題ありません。
制限される資格は全部で100以上ありますが、その中でも代表的なものは以下のとおりです。
- 公認会計士
- 税理士
- 司法書士
- 公安委員会委員
- 公正取引委員会委員
- 宅地建物取引業者
- 証券会社の外交員
- 商品取引所会員
- 貸金業者
- 警備員
- 質屋
収入がない場合
収入がない場合は、そもそも自己破産以外の債務整理を選べません。
任意整理と個人再生はどちらも借金を減らすための手続きです。借金を減らすとは言い換えれば、借金が残る、すなわち手続き後も返済を続けるということです。
収入がないと手続き後に返済ができないとみなされるため、任意整理も個人再生も選べません。自己破産だけは原則として借金を0にする手続きですので、収入がなくても選べます。
収入はあるが、返済が少しだけ苦しいという場合
この場合は任意整理がおすすめです。任意整理は最もデメリットが少なく、裁判所に出かける必要もなく、手続きも短期間で済みます。財産の処分や資格の停止もありませんし、周囲にもバレづらいです。
任意整理は利息をカットする手続きですので、少額の借金だと効果を余り発揮しませんが、700万円も借金があるトカットできる金額もそれなりに大きくなります。
借金の理由がギャンブルや浪費などの場合
この場合でも、基本的には自己破産がおすすめです。
自己破産には「免責不許可事由」と言うものが有ります。免責不許可事由とは読んで字のごとく、免責、つまり借金をなくすことが認められなくなる事由のことです。これに当てはまる行動を取っていた場合、自己破産を申請しても認められない可能性があります。
そして、免責不許可事由の一つに「浪費または賭博、その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ,又は過大な債務を負担したこと」というのが有ります。これだけ見ると、ギャンブルや浪費で借金を作った人は自己破産が出来ないようにも見えます。
しかし、実際にはそれでも自己破産できるケースが大半です。免責不許可事由に該当しても、裁判所の最良で免責を認める「裁量免責」という制度があるからです。
免責不許可事由がある場合であっても,諸般の事情を考慮して,裁判所が免責を許可してよいと判断すれば、自己破産は可能です。実際の現場では、ギャンブルや浪費が原因の借金であっても、90%以上の人は裁量免責が認められます。
多額の税金を滞納している場合
この場合は最も深刻です。滞納した税金は、例外的に自己破産でもチャラに出来ないからです。自己破産してもなくならない借金を非免責債権と言います。非免責債権には以下のようなものがあります。
- 税金、保険料など
- 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償
- 未払いの給料
- 罰金
- 養育費
- 親族の生活費
非免責債権は免責不許可事由と違い、裁判所の裁量によって例外的に免責が認められることはありません。
とはいえ、無い袖はそもそも振れません。未払いの税金を大量に抱えている場合はどうすればいいのでしょうか。
この場合、最もやってはいけないのは「放置」です。放置すると延滞税がどんどん膨らんでいってしまい、非免責債権自体がどんどん大きくなってしまいます。
まずは必ず市役所などに相談に行くべきです。気が進まないのはわかりますが、気が進まないからと言って逃げ続けると自体はますます悪い方向に進みます。
市役所としても、逃げ回る税金滞納者に対しては強行的な態度ででざるを得ません。こちらから誠意を見せに行けば、対応はかなり柔らかくなるはずです。
市役所では税金をどうしても払えないことを告げて、一緒に対処法を考えてもらいます。多くの場合は税金の分割払いを提案されるはずです。分割払いの約束をして、きちんと返済していきましょう。
分割払いすら出来ないという場合は、差し押さえなどの処分をとめてもらいます。滞納処分をすることによってその人の生活が著しく圧迫される場合、滞納処分を停止できるというルールがあるからです。
また、住宅ローンが残っている自宅がある場合は、任意売却にかけることをおすすめします。任意売却とは、住宅ローンの残債があり、なおかつその住宅の売却額が残債よりも少なくなりそうな場合(住宅を売っても返済しきれなそうな場合)でも、住宅を売れる仕組みのことです。
任意売却は競売よりも売却金額が高くなりやすい上、売却の一部を税金の支払いに充てられることが多い(必ず充てられるとは限りません)ためです。
残債がない住宅や自動車などを保有している場合は、それを売却して税金の支払いに当てるといいでしょう。
まとめ
- 借金が700万円あると、その返済はかなり大変
- 返せなそうな時は無理して返済を続けず、債務整理を検討した方がいい
- 債務整理は原則、「任意整理」「個人再生」「自己破産」の3つの中から選ぶ
借金が700万円ある場合は、債務整理まで視野にいれることをおすすめします。弁護士ともよく相談して、今後の身の振り方を決めましょう。