債権譲渡という単語は聞き慣れない言葉ですが、債権譲渡の通知が来たからと言って焦ることはありません。債権者が変わったからと言っていきなり取り立てが厳しくなるようなことはまず無いですし、むしろ借金を大きく減らすチャンスだからです。
一方で最近は債権譲渡通知を装った詐欺もあるので、だまされないように注意が必要です。今回は債権譲渡通知が来たときの対処法をお教えいたします。
債権譲渡とはその名の通り債権を他人に渡すこと
債権譲渡とは、その名の通り債権を他人に譲り渡すことです。債権とは簡単に言えば、将来お金を貰える権利のことです。
例えば、カードローンを利用して金融機関から100万円を借りたとします。この場合、金融機関は手元から100万円を失う代わりに、将来100万円+利息を払って貰う権利を手にします。この権利が債権であり、債権を有する人を債権者といいます。
一方、借りたお金を返さなければならない義務のことを債務といい、債務を有する人を債務者といいます。債務者は債権者に対して、当初の契約に基づいてお金を返していかなければなりません。
そして民法第466条で、債権は原則として他者に譲り渡してもいいと定められています。つまり、債権を他人にあげたり、売ったりしてもいいのです。
例えば、金融機関が持っている債権を別の金融機関に譲り渡すことは何の問題もありませんし、国債(国からお金を受け取れる債権を証明するチケットのようなもの)を他の投資家から買ったり、あるいは他の投資家に売ったりするも自由です。
また、債権譲渡は原則として元の債権者(譲渡人)と、新たな債権者(譲受人)の合意があれば成立します。つまり、債権者は債務者に断りを入れることなく、債権を他人に譲ったり売ったりしてもいいのです。
一部の債権は譲渡ができず、また当事者間で債権譲渡禁止の契約を結んだ際にも譲渡はできなくなりますが、それ以外の債権は自由に売り買いできるのです。
金融機関は債権債権回収業者に譲渡することがある
消費者金融や銀行といった債権者は、自身が持っている債権を他者に売り渡すことがあります。金融機関が持っている債権の中には、回収が難しくなった債権もあります。
例えば、倒産しそうな企業や自己破産しそうな個人に対する債権はなかなか行使しようとしてもできません。このように、債権の中でも将来回収できる可能性が特に低いものを不良債権と呼びます。
金融機関としては、こうした債権をいつまでも持っていても意味がありません。そこで、債権回収業者という業者に格安で売り渡すのです。債権回収業者はその債権を買って、回収します。
債権回収業者は債権の回収に特化した事業者なので、金融機関が回収できなかった債権も回収できる可能性があります。
債権譲渡は金融機関と債権回収業者の双方にメリットがあるシステム
例えば、銀行が持っている1000万円の不良債権を10個、合計1億円分持っているとします。これをこのまま持ち続けても、帰ってくる可能性は極めて低いです。
そこで、この不良債権を1個につき50万円で10個とも債権回収業者に売ってしまうのです。銀行はほとんど回収できる見込みのなかった1億円分の不良債権が500万円になったので、とりあえず満足です。
一方、債権回収業者は1億円分の債権を500万円で買えてのでやはり満足です。仮に購入した10個の債権のうち2個を回収できれば2000万円が手に入るわけで、トータルで1500万円のプラスです。
銀行はほとんど戻ってくる見込みのなかったお金をわずかとは言えお金を回収でき、債権回収業者は大きな利益を出せ、双方が満足、というわけです。
債権者が変わった場合、債務者のもとには債権譲渡通知が届く
債権者が変わった場合、通常債務者のもとには債権譲渡通知が送られてきます。債権者が変わったのでこれからはこの人に払ってくださいね、という通知です。
債権譲渡にあたり債務者の承諾は必要ありませんが、債務者に連絡しないと債務者が元の債権者(譲渡人)に支払いをしてしまうかもしれないため、実務上は必ず連絡を行います。それを受け取った場合、債務者は新たな債務者(譲受人)に支払いをしていきます。
債権譲渡の通知が譲受人から来ている場合は要注意
債権譲渡通知は通常、譲渡人から送られてきます。譲渡人から送られてきた通知はまず本物ですから信じても構いませんが、譲受人から送られてきた場合は要注意です。全く関係のない第三者が、勝手に譲受人を名乗って送ってきている可能性があるからです。
その場合は、念のために譲渡人の方に電話を入れて、本当に債権を譲渡したのか確認しましょう。それまでは譲受人を名乗る相手にお金を払ってはいけません。
債権譲渡通知が本物だった場合の対処法
さて、債権譲渡通知書が本物だった場合は、その通知書に書かれている譲受人に返済をしていくことになります。債権回収業者は消費者金融や銀行と違って債権回収を専業とする業者なので、頻繁に督促状を送ってきます。
とはいえ督促業務は法律で細かくルールが決められており、まともな債権回収害者は違法な取り立てをしません。まともな消費者金融や銀行はまともな債権回収業者に債権を譲渡するはずですから、そこまで気構える必要はありません。
とはいえ債権を相手が持っていることは事実なのですから、もちろん借金を返さなければなりません。しかし、それは難しいでしょう。
そもそも譲渡人は債権の回収がほぼ不可能だとわかっているからこそ債権回収業者に債権を売ったわけですからね。債権回収業者もそのことは重々承知です。
だからまず、最初に支払督促申立書で「今の債務をすべて払って下さい」と言ってきます。もちろん、それが不可能なことは分かった上でです。
もし債務者に支払い能力があるのなら、譲渡人は譲渡などせず自分で回収します。これは債務者に「一括返済はできませんが、減額してもらえれば払えます」と言わせるためのジャブのようなものです。
そして、債務者と債権者が話し合った上で、どれくらいの金額ならば払えるのかを調整して、返済をしていきます。このように、私的な話し合いで債務を減らして貰う手続きを任意整理と言います。
債権回収業者としても、自己破産で債権がなくなってしまうと困る(債権を買うのに使ったお金がすべて無駄になる)のは困りますし、もともと債券が全額回収できるなどとは全く思っていないので任意整理には応じてくれるはずです。
任意整理は個人で行うこともできますが、弁護士を立てたほうがより確実です。弁護士費用はかかりますが、それ以上に債務を圧縮する効果のほうが高いです。債権回収業者の基本スタンスは「金がなさそうな相手なら粘らずにさっさと手打ちにする」「裁判は面倒だからしたくない」の2つです。
というわけで、債務者は「お金がないこと、支援してくれる人もいないことを訴える」「交渉がまとまらなければ裁判もやむなしと考えていると伝えること」が基本戦略となります。
もちろん、実際に裁判をすることになったら債務者も大いに困るのですが、債権回収業者も大いに困るので普通はそこに行き着きません。
債務がいくらまで圧縮できるかはケースバイケースですが、通常、債権回収業者は債権を額面の2%程度の金額で買っています。
したがって、債権回収業者はこれに利益を上乗せしようとしてきます。2%以下で交渉に応じてもらえることは殆どありません。通常は4~8%程度での解決を目指すことになります。支払いは分割が認められる場合が大半です。
任意整理が決裂した場合
任意整理は任意の話し合いですから、双方が納得しなかった場合は決裂することも十分にありえます。だからこそ任意整理は慎重に、債権者にある程度歩み寄る姿勢を見せつつも裁判を匂わせて圧縮幅を大きくするというテクニックが必要になります。
仮に任意整理が決裂した場合は、訴訟に発展することがあります。訴訟は任意交渉では決裂した交渉を裁判所で決着させる意味合いが強く、裁判官が判決を下した場合は債権者は債務者の財産を差し押さえられるようになります。
ただし、実際には裁判官はそれより先に和解を勧めてきます。和解とは訴訟の途中で話し合いで解決することです。任意整理という話し合いで解決しないから訴訟になったのに若いなんて成り立つのか、と思われるかもしれませんが、債権回収業者が途中で不利を感じた場合は折れる可能性が高いです。
和解に当たっては裁判官が債務者と債権回収業者のそれぞれから話を聞き、妥協点を探しながら結論を出します。和解が成立した場合、その和解内容に沿って支払いを行います。
個人再生や自己破産などの手段もある
あるいは、個人再生や自己破産などに切り替えるという手もあります。個人再生も自己破産も裁判所を通じて行う手続きであり、個人再生では原則として借金が5分の1に、自己破産では0になります。
話し合いではなく裁判所の強制力を持って行われる手続きなので、債権者の了承を得なくてもできるのが最大のポイントです。
一方で個人再生や自己破産をすると官報という国の機関誌に名前が掲載される、自己破産の場合は原則として20万円以上の財産が没収されるなどのデメリットもあります。(参考:借金の債務整理の種類とそれぞれのメリット・デメリット)
怪しい債権回収業者の見分け方
債権の回収は通常、弁護士でなければ行えません。しかし、債権回収業者の社員が全員弁護士というわけではありません。
ではなぜ債権回収業者が違法にならないかというと、「債権管理回収業に関する特別措置法」という法律で、一定の条件を満たした株式会社ならば弁護士でなくても債権回収を行っても良い、と定められているからです。
これはバブル崩壊後、不良債権が急速に増大したことに伴い、弁護士だけでは債権回収ができなくなってしまったためにできた法律です。
なお、債権回収業者が満たさなければいけない主な条件は以下のとおりです。
- 資本金が5億円以上である。
- 暴力団とか変わりがないことが証明されている。
- 取締役の内、少なくとも1人が弁護士である(弁護士は弁護士会が推薦する)。
- 法務大臣から許可を得ている。
これらの条件を満たしていない違法な業者から連絡が来た場合は、弁護士もしくは警察などに連絡しましょう。
まとめ
- 債権は譲渡できるため、金融機関は不良債権を安価で債権回収業者に売ることがある
- 債権回収業者は最初に一括返済を求めてくるが、それが無理なことは承知している
- 弁護士を立てて任意整理に望めば、交渉次第では額面の5%程度まで債務を減らせる
債権譲渡通知が送られてきたら、慌てず騒がずに送信者を確認し、それが本物だとわかったら弁護士に相談することが、最も円満に解決するコツです。