借金をチャラにする二通りの方法

この世の中では基本的に「借金は何があっても期日までに返す」のが原則です。この原則を皆が守らなければ、世の中はめちゃくちゃになってしまいます。しかし、どんな原則にも例外というものはあるもので、ある手段を使えば、借金をチャラにすることも可能です。

じゃあ常にその手段を使えば借金し放題じゃないか、と思われるかもしれませんが、もちろんそんなことはありません。借金をチャラにする方法は確かにあるのですが、それにはリスクやデメリットが伴うからです。

本記事では借金をチャラにする方法と、それに伴うリスクやデメリットなどを解説したいと思います。

※自己破産せずにこちらで借金を減らすこともできます。

借金をチャラにする方法は「自己破産」と「消滅時効」の二通り

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借金をチャラにする方法は二通りあります。「自己破産」と「消滅時効」です。それぞれにメリットとデメリットがありますが、よりローリスクなのは自己破産です。

自己破産は裁判所を通した債務整理

自己破産は債務整理の一つです。債務整理とは借金を合法的に減らしたり、あるいは無くしたりするための手続きのことです。債務整理にはほかに「個人再生」や「任意整理」などがありますが、借金をチャラにできるのは「自己破産」だけです。

自己破産は、借金の返済が不可能であることを裁判所に認められることによって成立します。借金の返済が不可能であるかどうかの判断は状況に左右されますが、過去には130万円の借金で自己破産が認められたケースもあります。

もちろん、年収や年齢、現在の財産、職業によって左右されるので注意が必要です。

自己破産は「同時廃止事件」と「管財事件」に分けられる

自己破産は財産や免責不許可事由(後述)により、「同時廃止事件」と「管財事件」に分類されます。

同時廃止事件は債権者に配当できるめぼしい財産がないや免責不許可事由がない時には「同時廃止事件」、債権者に配当できるめぼしい財産があるときや免責不許可事由がある時には「管財事件」として扱われます。

管財事件になった場合は破産管財人が指定され、債務者の財産を管理・処分することになります。

自己破産の5つのデメリット

借金を合法的にチャラにすることができる数少ない手段である自己破産ですが、もちろんその裏には数々のデメリットがあります。

1. 財産をもてない

一番のデメリットは、所有している財産を債権者に配当する義務が課せられることです。

住宅、自動車、その他高価な財産(その時点での価値が20万円以上のもの)については、破産管財人を通じて処分しなければなりません。ただし、99万円以下の現金については当面の生活費として処分の対象外とすることができます。

2. 信用がなくなる

二つ目のデメリットは、周囲からの信用を失うことです。借金が返済できなくなる理由は様々であり、その中には同情すべきものもたくさんあるでしょう。しかし、そんなことは自己破産をしていない人には関係ありません。

自己破産をしていない人間には、自己破産をした人間はひどく無責任で、自分の人生に対して責任を負っていないように見えるものなのです。世間からの風当たりが冷たくなることは覚悟しておいたほうがいいでしょう。

また、社会的な信用を失うだけでなく、金融機関からの信用も失います。自己破産をしたことは信用情報機関を通じて金融機関で共有されます。その情報が削除されるまで(5年~10年程度)、金融機関での新たな借り入れは一切できなくなると思っておいたほうがいいでしょう。

もっとも、借金癖がある人間にとってはこれは逆にありがたいことといえるかもしれません。借金ができなければ借金をすることはないわけですからね。

3. 就けない仕事ができる

三つめのデメリットは、一部の資格が制限されることです。世の中には「特定の資格がなければ就けない仕事」がいくつもありますが、そうした仕事に一定の期間(手続きが完了するまで)つけなくなってしまうのです。以下は資格が制限される職業の一例です。

  1. 弁護士
  2. 公認会計士
  3. 税理士
  4. 司法書士
  5. 宅地建物取引業者(宅建)
  6. 質屋
  7. 風俗営業者
  8. 生命保険募集員
  9. 建設業者
  10. 警備員

4. 官報に名前がのる

四つ目のデメリットは、政府が発行する機関誌「官報」及び本籍地の「破産者名簿」に名前が記載されることです。ただ、これはほとんどデメリットとは言えないのが実際のところです。

官報は都道府県庁所在地にある「官報販売所」で販売されており、インターネット上で閲覧することもできますが、実際に官報を見る人などほとんどいないからです。

5. 一定期間自己破産が出来ない

五つ目のデメリットは、自己破産が一定の期間できなくなることです。自己破産をすると原則として、今後7年間は自己破産ができないことです。

短期間での自己破産を認めてしまうと、「借金をする⇒自己破産をする⇒借金をする⇒自己破産をする……」の繰り返しによって何度でも簡単に借金をチャラにすることができてしまうからです。

借金額≧年収×2ならば自己破産も視野に

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たとえば、借金が1000万円ある人でも、年収が5000万円あれば自己破産をする必要は全くありません。

それだけ稼ぎがある人間は社会的信用が相当あるはずですから、自己破産をすると経歴に傷がついてしまいますし、何より年収の範囲内に借金が収まっているので返済もそれほど難しくないからです。

しかし、借金が500万しかない人でも、年収が150万だったらば自己破産を考えたほうがいいかもしれません。年収が150万しかなければ借金返済に回せる金額は微々たるものにしかならず、元本がなかなか減っていかないからです。

借金の額が年収を2倍したものより多いという場合は要注意水準といえます(もちろん金利などにも左右されますので一概には言えません)。

また、財産をどのくらい持っているかも一つの判断基準となります。前述のとおり自己破産では、20万円以上の財産、および99万円を超える現金については処分となります。

財産を持っていない人にとってはこれは何のデメリットにもならないので、自己破産を選んだほうがいいでしょう。

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自己破産手続きの流れ

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自己破産手続きは通常、司法書士弁護士の手を借りることになります。基本的には彼らの言うとおりにしていれば問題ないのですが、自分が今何をやっているか全く把握できていないというのは少し問題なので、おおざっぱな流れだけでも理解しておきましょう。

まず、自己破産の手続きを弁護士に依頼するか、司法書士に依頼するかという問題についてですが、これは基本的には弁護士をお勧めします。費用が安いのは司法書士ですが、自己破産においては弁護士でなければ裁判所での「審尋(後述)」ができないからです。

誰に依頼するか決めたら、いよいよ自己破産を行っていきましょう。

STEP1 地方裁判所に書類を提出

まずは地方裁判所に書類を提出するところから始めます。

必要な勝利は免責申立書(免責してもらうための書類)、陳述書(健康状態、家族構成、借金に至った経路などを記入する書類)、破産申立書(自己破産を申し込むための書類)、債権者一覧表、保有している資産の記録、家計の状況がわかる書類(確定申告書等)などです。

何が必要になるかは時と場合によっても異なるので、詳しくは弁護士や司法書士に相談してください。

STEP2 裁判所の審尋

審尋とは、裁判所と弁護士が行う面接のことです。審尋には弁護士のみが出席し、債務者の出頭は必要ありません。

審尋が終わったらいよいよ破産手続きをすることになりますが、今後のルートは所有財産があるかないかで変わってきます。所有財産がある場合はSTEP3-1に、ない場合はSTEP3-2に進んでください。

STEP3-1 管財事件

処分できる財産がある場合は管財事件として扱われ、破産管財人が割り当てられます。手続き開始から1週間後ぐらいに管財人事務所で破産管財人との面接が行われますので、債務者は弁護士同伴で出席する必要があります。

面接では破産管財人から借金の内容、財産の種類などについて聞かれますので、それに答えていってください。基本的には質問に答えていくだけなので難しいことはありませんが、ここで虚偽の回答をすると免責不許可となることがあるので、正直に答えましょう。

管財事件から数か月後に、裁判所で裁判官や破産管財人出席の元、債権者集会が開かれます。債権者集会とは、債権者に対して破産手続きに関する情報を開示し、収支や財産などの報告を行う会合です。財産の配当もこの場で行われます。

なんだかイメージ的に罵声が飛び交っているようなシーンを想像される方も多いかと思いますが、個人の債権者集会はものの数分程度で終わります。債権者(金融機関)もこのような事態には慣れているので静かなものです。これが終わったらSTEP4に進みます。

STEP3-2 同時廃止決定

処分できる財産がない場合は、同時廃止が決定します。同時廃止決定は、破産手続開始決定を合わせて行われ、同時に免責審尋期日が決まります。債務者がやらなければならないことは特にありません。これが終わったらSTEP4に進みます。

STEP4 免責審尋

免責審尋とは、債務者を免責させるのが妥当かについて審査するための裁判官との面接です。

債務者は弁護士同伴の元、裁判所に出頭します。基本的には質問に答えていくだけなので難しいことはありませんが、ここで虚偽の回答をすると免責不許可となることがあるので、正直に答えましょう。

たいていの場合は免責尋問の1週間後に免責許可決定が送付されます。許可が下りてから1週間たつと、免責許可が確定して自己破産手続きが完了します。

自己破産に関するQ&A

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最後に、自己破産にまつわる様々な疑問にQ&A方式回答していきたいと思います。

自己破産すると家族にはどのような影響が出る?

自己破産は個人が行う手続きです。したがって、たとえば夫が自己破産をしたからと言って、妻や子供に不利になることはありません。

この場合、夫は自己破産後一定の期間借り入れができなくなりますが、妻や子供は(収入が十分にあるなどの条件を満たせば)借り入れをすることは可能です(金融機関によっては家族に自己破産者がいる場合は融資を実行しないこともあります)。

ただし、自己破産者がマイホームや自動車などの大きな財産を持っている場合はそれが処分されるため、間接的に家族が何らかの被害をこうむることもあります。

また、いわゆる闇金から借り入れをしている場合は、家族に対して悪質な取り立てが来ることもあります。そのような場合はすぐに弁護士や警察に相談してください。

連帯保証人がいる場合はどうなる?

自己破産を行った場合、自分自身の借金はチャラになります。しかし、連帯保証人が要る場合は、そのチャラになった借金がそのままのしかかることになります。自己破産は個人単位で行われるものであり、連帯保証人が追っている保証債務はまた別のものだからです。

身内の人間を連帯保証人にしないほうがいいといわれている理由はそのためでもあります。一人が自己破産をすることによって、連鎖的に自己破産が発生することもあり得ます

家族に借金がある場合、本人に代わって自己破産を申請することはできる?

できません。現在の法律では、家族が自己破産を代理で行うことは認められていません。たとえ借金まみれになっていて返す当てが全くなさそうに見えても、本人にその意思がない限りは自己破産はできないのです。

まあ当然と言えば当然ですよね。代理手続きを認めてしまうと、仲の悪い家族を勝手に自己破産させようとする人が出てくるかもしれないですし。

もし本人が重い病気や障害でどうしても裁判所に行けないという場合は、後見人制度を利用することをお勧めします。後見人とは禁治産者(知的障害などの障害がある人)に代わって財産を管理する人のことです。詳しくは弁護士にご相談ください。

自己破産したら選挙権がなくなるって本当?

嘘です。なぜか世間では自己破産したら選挙権がなくなるといわれていますが、まったくのでたらめであり気にする必要はありません。

自己破産後も選挙に行けますし、立候補もできますし、当選すれば議員や市長になることだってできます。

自己破産したら今までの賃貸物件に住めなくなるの?

基本的には出ていく必要はありません。不動産会社や大家さんがあなたが自己破産していることを知る可能性はまず0です。彼らは官報なんて見ないからです。万が一何かの事情で知られてしまっても、家賃さえ払っていれば当然何の問題はありません。

ただし、自己破産するほど困窮していれば、当然滞納が発生することもあります。このような場合は自己破産とは関係なく、滞納を理由に退去を迫られることがあります。ただしその場合でも強制退去には複雑な手続きがあるので、数か月は住めると思って間違いないでしょう。

自己破産したら生活保護費は差し押さえになる?

なりません。生活保護費を差し押さえることは禁止になっているからです。また、失業保険や年金なども差し押さえ禁止の対象となっています。

自己破産したら生命保険は解約しなければならないの?

生命保険は金融商品の一種なので、原則として解約しなければなりません。加入している生命保険の解約返戻金が20万円以上見込める場合については、原則生命保険を解約して返戻金を債権者に分配するようになっています。

掛け捨てで解約返戻金がない場合などについては、自己破産後も変わらず加入し続けることができます。

自己破産に必要なお金はどれくらい?

自己破産に必要なお金は、その時点での財産の状況や債権者の数に大きく左右されます。自己破産の手続きで必ず支払わなければならないお金は「収入印紙」「切手」「予納金」の3つです。

収入印紙は申請書に貼る印紙です。金額は全国どこでも1500円で統一されています。

切手は裁判所から債権者に対して送る郵便切手代金です。債権者の数にもよりますが、1万円程度見積もっておけばまず足りるでしょう。

予納金同時廃止事件となるか、管財事件となるかで大きく変わります。処分する財産がない場合は同時廃止事件となり、予納金は3万円程度で済みます。処分する財産がある場合は管財事件となり、予納金は最低でも50万円になります。

加えて、弁護士や司法書士に依頼する場合には、彼らに対する報酬も支払わなければなりません。自己破産の手続きは個人でも行えますが、まったくの無知だという場合は専門家に任せたほうが早いでしょう。

費用はどんな弁護士・司法書士に依頼するかによって多少変わりますが、弁護士ならば「25万~50万円」、司法書士ならば「15万円~30万円」程度を見込んでおくといいでしょう。

自己資金を準備できない場合はどうする?

最近の弁護士や司法書士は分割払いに対応してくれることも多いので、まずは相談してみるところから始めてみましょう。法テラスでは無料相談を受け付けています。

弁護士や司法書士の選び方は?

弁護士や司法書士にも得意分野・苦手分野というものがありますので、誰に頼んでも同じというわけにはいきません。自己破産に強い弁護士・司法書士かどうかを見分ける方法はとても簡単で、過去に携わってきたプロフィールを確認すればいいだけです。

多少手間はかかるかもしれませんが、この日と手間がのちの手続きをぐっと楽にします。

勤務先に内緒で自己破産できる?

自己破産をしても、勤務先に連絡がいくことは通常ありません。官報には記載されてしまいますが、勤務先の人が官報を見て、あなたの名前を発見する可能性はほぼ0に等しいです。ただし、職場に借金がある場合などはこの限りではありません。

自己破産すると会社を解雇されるって本当?

自己破産により解雇される可能性はありません。仮に就業規則「自己破産されたものは解雇されても異議申し立てをしない」と書いてあっても問題ありません。

就業規則よりも上位のルールである労働法で、そのような就業規則を作ることは禁止されているからです。実際に解雇されたら訴えを起こしてください。

ただし、前述の通り自己破産の手続き中は職業と資格が制限されることがあります。その場合は一時的に職を失う可能性があることは覚悟しておきましょう。

自己破産が認められても消えない借金があるって本当?

自己破産をすると基本的に借金はすべてチャラになりますが、いくつか例外があります。

まずは税金。市民税、県民税、所得税、固定資産税、自動車税、国民年金、健康保険などは免除されません。したがって、自己破産寸前であってもこれらの税金は優先的に支払う必要があります。

続いて公共料金。水道料金や電気料金、ガス代なども免除してもらうことはできません。

そのほか、罰金養育費損害賠償費用従業員への給料なども免責は認められないので気を付けましょう。なお、このような自己破産しても免責が認められない債務を「非免責債務」といいます。

外国人でも自己破産できる?

外国人でも日本で自己破産をすることはできます。外国人特有の手続きなどもありません。ただし、日本で自己破産をした場合でも、祖国で作った債務も免責になります。当然、祖国に残してある財産は処分となるので気を付けてください。

自己破産後に得たお金はどうなるの?

自己破産後に得たお金や財産(新得財産)が差し押さえられたり、処分されることはありません。新得財産とは「破産手続き開始決定」後に得た財産の全てです。

たとえば、2月15日に破産開始手続き決定が下りた場合、2月20日にもらった給料は新得財産となり自由に使うことができますが、1月20日にもらった給料は処分の対象となります。

免責が認められない可能性はどれくらい?

自己破産ができなくなる事由を免責不許可事由といいます。免責不許可事由に該当した場合、基本的には自己破産が認めれません……ただし、現実的には免責不許可事由があっても裁量免責(裁判所の裁量による免責)が認められることも多々あります。

よほどひどい内容の借金でない限りはまず免責になるといってもいいでしょう。

免責不許可事由にはどのようなものがあるの?

免責不許可事由には様々なものがありますが、ここではその中でも代表的なものをいくつか紹介したいと思います。

  1. 裁判所に対して虚偽の財産状況を報告した
  2. 過去7年以内に自己破産をしている
  3. 特定の債権者だけに返済を行った
  4. FXやギャンブルが原因で債務を作った

免責不許可になった場合はどうすればいい?

免責不許可になった場合に債務者が取れる行動は大きく3つに分類できます。「即時抗告」か、「任意整理」か「時効を待つ」かです。

即時抗告とは、免責不許可になったことを不服として上級裁判所に抗告する方法です。この場合は上級裁判所でもう一度免責が妥当かどうかの判断が行われます。

ただし、下級裁判所で免責不許可となった場合は上級裁判所でもやはり免責不許可となるケースが多いので、あまりおすすめはできません。

任意整理とは自己破産をあきらめて、債務者と協議を行って借金の額を減らしてもらう手続きです。自己破産と違い借金がチャラになるわけではありませんが、裁判所を通さずに話し合いだけで解決できるのが魅力です。

時効を待つ場合について起こることはさらに記事の下で解説したいと思います。

借金の時効は「5年もしくは10年」

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世の中の様々な犯罪には時効があります。借金は犯罪ではありませんが、実は借金にも時効があります。

最後に借金を返済してから一定期間が経過したうえで、ある条件を満たすと借金がなかったことになるのです。長年権利を主張しない者は保護する必要がないという考えに基づく、ちょっと変わった制度です。

民法において、債権の時効は10年間とされています。つまり、特別な事情がない限り、借金は10年で消えるというわけです。

ただし、商行為によって生じた債権、つまり金融機関からの借金に関しては、例外的に5年で消えることになっています。個人から借りた場合は10年法人から借りた場合は5年で消えると考えていただければ、ほぼ問題ありません。

時効は中断する

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借金の時効が成立すると何より困るのは、お金を貸していた側、つまりは債権者です。借金の督促をいくら続けても無視し続けていれば借金がチャラになってしまうというルールは、債権者側にあまりにも不利です。

しかし、現在の法律には、債権者側が条件を満たせば時効のカウントをストップ、若しくはリセットできる制度があります。この制度があるおかげで債権者は過剰なリスクを負わずに済んでいるのです。

債権者が時効を中断させる方法は全部で3つ。「請求を行う」か「差し押さえ、仮押さえ、仮処分のいずれかを行う」か、「債務の承認をさせる」のいずれかです。

請求を行う

債権者が債務者に対してお金を支払えという「請求」を行った場合、時効のカウントはストップします。といっても、口頭、手紙、ファックスなどの法的な手段ではない方法による請求はここでは含まれません。

支払督促、訴訟などの法的な手続きのみが「請求」と認められます。「請求」が行われると、時効のカウントはリセットされます。その時点で4年11ヵ月29日経っていたとしても、振出しに戻ってしまうのです。

ちなみに、内容証明郵便で「督促」を行った場合、時効のカウントは一時的にストップしますが、リセットはされません。6か月以内に裁判を起こすか、差押え、仮差押え、仮処分のいずれかを行わない限りは、またカウントが再開されます。

差押え、仮差押え、仮処分のいずれかを行う

差押えとは、強制執行とも呼ばれる手続きです。たとえば、裁判で判決が出たにもかかわらず、債務者が支払いを行わなかったとします。この場合、債権者は差押えをすることができます。

差押えとは裁判所を通して、強制的に相手の財産から債権を回収する行為のことです。差押えの対象は給料だけではなく、その他の財産も差押えることができます。

仮差押えとは、差押えができない場合に取られる手段です。差押えは相手に財産があって初めて成立する制度です。たとえ裁判で勝っていて、差押えができる状況にあっても、相手が財産を一切持っていなければ全ては無意味です。

裁判で争っている最中に相手の財産がなくならないという保証はどこにもありません。そんなときに行うのが仮差押えです。

仮差押えは債務者の財産を、裁判に勝つ前から差押えておく制度です。仮差押えは債務者に知られないように行うことができます。仮処分についても、細かい違いはありますが大体同じものと持っていただければかまいません。

差押え、仮差押え、仮処分のいずれか一つが行われたときは、時効はリセットされてしまいます。

債務を承認させる

債務者が自身に債務があることを認めた場合、時効は中断されます(債務の承認)。具体的には、債務を債務者が1円でも返済すると、債務の承認となり時効はリセットされます。債務の承認については、5年もしくは10年の期間が経過した後でも適用されます。

そのため、金融機関はあの手この手を使って返済させようとしてきます。まあ、当然と言えば当然の話です。彼らは貸したものは返してくださいと言っているだけですからね。

ちなみに、この5年10年のカウントは一般的に「最後に返済した日の次回返済日の次の日」を起点に行われます。

時効を援用するにはもうひと手間必要

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差押え諸分野請求などを受けずに5年もしくは10年しのげたとしても、ただそれだけで時効が適用されることはありません。時効を認めさせる場合は、時効援用という手続きを行わなければならないのです。

時効は、それによって利益を受ける人、つまり債務者が特別な意思表示をして初めて確定するという性質を持っています。ではその意思表示は具体的にどのように行えばいいかというと、一般的には「内容証明郵便&配達証明」を使用する人が多いようです。

電話や口頭などの証拠が残らないものを使ってしまうと、あとで金融機関側に「受け取ってない」「聞いていない」などととぼけられる可能性があります。しかし、内容証明郵便&配達証明を使えば、そのような心配はありません。

内容証明郵便とは、「誰が、誰に、いつ、どんな内容の手紙を送ったか」について、郵便局が証明してくれる手紙です。あくまでもその手紙を送ったという事実を証明してくれるだけであり、書いてある内容が正しいと証明してくれる類のものではないので注意が必要です。

ただし、内容証明郵便ではその郵便が相手方に確かに届いたことを証明してもらうことができません。金融機関側に「書いてある内容は正しいのかもしれないけれど、受け取ってないのでわからない」と言われたらそれまでです。

したがって、内容証明郵便を送る際には併せて、相手が手紙を受け取ったこととその日付を郵便局が証明してくれる配達証明」を利用する必要があります。

内容証明郵便は用紙や筆記用具などについては定められていません(ワープロソフトも可)ですが、1枚あたりに書ける文字数は520文字以内という制限があります。

縦書きの場合は20字×26行、横書きの場合も20字×26行以内に収めておけば問題ありません。もちろん、この文字数以内でぴったり収める必要はなく、文字が少ない場合については何の問題もありません。

文字数のカウントが面倒くさいという場合は、市販の内容証明郵便用の用紙を使うといいでしょう。マス目があらかじめ印刷されているため、そのマス目にはみ出さないように書けばOKです。

また。内容証明郵便は同文の内容を3通作成する必要があります。1通は相手用、1通は郵便局用、1通は自分で保管する用です。バラバラに手書きで作成してもいいですが、カーボン用紙を使ったり、ワープロでコピーしたりしてもOKです。そのほか

  1. 日本語を使用しなければならない(外国人でも日本語を使わなければならない)
  2. 平仮名、カタカナ、漢字、数字以外、句読点、カッコ、記号の文字は使用してはいけない(英字は固有名詞以外に使用してはならない)
  3. 句読点や記号も1文字と数える
  4. 訂正する場合は、訂正する箇所を二本線で消す。塗りつぶさず、訂正前の文字が見えるようにする
  5. 訂正した場所には「●字削除」「●字加入」などのように、訂正した文字数を記入し、印鑑を押す

などの決まりがあります。書き方で迷った場合は、郵便局の職員の方に尋ねてください。

時効までの期間どうやって逃げ切るか

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時効援用までの手順がわかったところで、ここからは時効までの逃げ切り方を考えてみたいと思います。まず、借金から時効まで逃げ続けるためには、夜逃げがほぼ必要不可欠です。夜逃げできないくらいなら、借金を踏み倒そうなんて最初から考えないほうがいいです。

しかし、たとえ夜逃げに成功しても、業者は定期的に住民票を調べるので、住所をうつすことができなくなります。住民票を移せなければいろいろな不利益が生じますし、罰金も発生します。

それ以上に大変なのが勤務地を変えなければならないことです。引っ越ししても勤務地が同じならば簡単に見つかってしまうので意味がありません。

長年構築した今の仕事場の人間関係、地位などをすべてかなぐり捨てるのはかなりハイリスクな行為といえます。今と同程度の職場が見つかる可能性はどこにもありません。それでも逃げたいという場合は、どうぞ逃げて下さい。決してお勧めはしませんが……

逃げ切った後はどうなるか

たとえ逃げ切ってめでたく時効を迎えたとしても、その後の人生はいばらの道が待っています。消滅時効が援用されるといわゆるブラックリストに掲載されることになります。あなたが借金をして、それを踏み倒したことはほぼすべての金融機関に知られてしまうわけです。

当然、新たに借り入れをすることはできません。住宅ローンも自動車ローンも組めなくなるので、何かを買い物する際にはすべて現金一括で支払わなければならなくなります

それどころか、クレジットカードすら作れなくなってしまいます。時効は過去の清算ができる代わりに、未来に新たな障害を残す諸刃の剣の制度といえます。

時効の適用はあくまでも最終手段と考えるべき

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もちろん、時効で借金がチャラになるのは大きなメリットですが、それによって失うものもかなり大きいのが現実です。何のリスクもなく借金がチャラにできるほど世の中は甘くはないということです。あくまでも時効援用は最終手段と考えてください。

それでも返せないものはどうしようもないじゃないか、というのならば、前述の自己破産をお勧めします。

こちらを選べば夜逃げもする必要もないですし、生活の再建も比較的簡単に行うことができます。借金で首が回らなくなりかけている方には、自己破産をすることを強くお勧めします。

※自己破産せずにこちらで借金を減らすこともできます。