不動産のより正確な価値を知るためには、不動産鑑定士に依頼するのが一番です。彼らはプロフェッショナルなので、より正確な不動産の価値を把握できるはずです。
より正確な価値がわかれば知らず知らずのうちに不動産屋に相場より安い価格で買い叩かれる心配もなくなりますし、なによりも安心して売買に望むことができます。
近隣の似たような土地と比較する、国や都道府県が発表している公示価格・基準価額を参考にするという方法もありますが、不動産というのは基本的には一点ものですから、それらのデータでは正確なデータを出すのは難しいです。その点不動産鑑定士は一点ものを机上・現地で調査・鑑定するため信頼性は高いです。
しかし、不動産鑑定士と一口に言ってもその質はピンきりで、安くても十分いい仕事をしてくれるような不動産鑑定士もいれば、高い割に仕事が適当な不動産鑑定士もいます。
もちろん、安くて質がいまいちな不動産鑑定士、高い代わりに非常に誠実に仕事をしてくれる不動産鑑定士もいます。今回は少しでも安く、なおかついい仕事をしてくれる、コストパフォーマンスの高い不動産鑑定士を探す方法法をお教えします。
目次
不動産鑑定士は全国に7800人!
不動産鑑定士は、不動産の鑑定評価に関する国家資格を所有するプロフェッショナルです。不動産鑑定士試験は非常にハイレベルであり、鑑定評価理論だけではなく、民法、経済学、会計学といった様々な分野に関する高度な知識が要求されます。
試験は短答式試験(倍率5倍程度)と論文試験(倍率10倍程度)から成り立っており、毎年の合格率は2%程度です。
非常に厳しい不動産鑑定士試験を突破した不動産鑑定士は全国で7800人です。不動産鑑定は不動産鑑定士の独占業務であり、不動産鑑定士以外の者が不動産の鑑定評価を行うと刑事罰が下ります。
不動産鑑定士の仕事は非常に正確
不動産の大まかな実勢価格を知りたいのならば不動産会社の査定でもよいではないかと思われるかもしれませんが、不動産鑑定士の鑑定と不動産会社の査定ではその正確性が全く違います。
不動産会社は査定の依頼を受けると、周辺の取引価格などを参考に査定を行いますが、査定の形式、内容は原則自由であり、査定方法は業者によって異なります。
精度の低い査定結果が返ってくることも少なくなく、実際に不動産を売りに出したときに初めてそのことに気がついて困惑することもしばしばです。
一方、不動産鑑定士は鑑定の依頼を受けると、より多角的な視点から調査や分析を行います。鑑定評価の手順にはマニュアルのようなものがあり、そこから理論的に導き出された価格は不動産会社の査定と比べて非常に信頼性が高いものです。
不動産鑑定士が下す不動産鑑定評価は、官公庁や企業、金融機関での資料、あるいは相続税申告などの資料として使うことができます。
それだけ不動産鑑定士の仕事が高く評価されているということです。
なお、不動産鑑定を受けた際に発行される書類には、不動産鑑定評価書、価格調査書、意見書等があります。それぞれ書類ごとに説得力や証明力などが異なり、また料金も異なります。一番説得力・証明力が高いのは「不動産鑑定評価書」で、以下「価格調査書」「意見書」と続きます。
不動産鑑定の費用は10万円~15万円
不動産鑑定の費用は対象となる物件の広さ、鑑定の目的などにも左右されるので一概には言えません。一般的には大きな不動産ほど鑑定費用も高くなる傾向がありますが、一般的な大きさの一軒家の場合、10万円~15万円にとどまることが多いです。
これだけの費用を出して鑑定を受けることにどれほどメリットがあるのかと思われるかもしれませんが、買い叩かれる心配の少なさ、そして安心感を考えると決して高い買い物ではありません。
不動産鑑定士はインターネットで探すのが一般的
不動産鑑定を受けるにあたって最初に行わなければならないのが不動産鑑定士探しです。不動産鑑定士は普段あまり目にしない人たちであるため、どうやって探せばいいのか、と思われるかもしれませんが、基本的な探し方は弁護士や司法書士などとあまり変わりありません。
まず、知り合いに弁護士や税理士、会計士などの士業がいる場合は、その人に紹介してもらうという方法があります。士業の先生方と不動産鑑定士は密接な関係にあることも多く、信頼できる不動産鑑定士を紹介してもらえる可能性が高いです。
しかし、世の中の殆どの方は士業の人と知り合いでないでしょうから、この方法は使えません。その場合はインターネットで探すのが一番効率的でしょう。
インターネットで探す場合は、その鑑定士が信頼できるものであるかどうかを見極める必要があります。
- 無料相談を行っているかどうか
- 費用は明確かどうか
- 依頼者=素人にもわかりやすい言葉で説明されているか
- 不動産鑑定士の経歴は明記されているか
など、様々な視点から不動産鑑定士を評価してください。特に無料相談を行っているかどうかは非常に大切です。複数の不動産鑑定士に無料相談をして、その中から最も信頼できそうな人を選ぶというのが最もいいでしょう。
不動産鑑定士・鑑定事務所は地元で選ぶ
不動産鑑定士は7800人いますが、その内約3分の1が東京都に集中しています。しかし、不動産鑑定士は東京の鑑定士ではなく、地元の鑑定士の中から選ぶべきです(東京が地元の場合は東京の鑑定士の中から選びます)。
例えば岩手の物件を鑑定して貰う場合、東京の非常に優秀な鑑定士よりも、岩手の平凡な鑑定士のほうがより正確な鑑定結果を導き出せる可能性が高いからです。地元のことを知っているということは、それだけで大きなアドバンテージになるのです。
最初の問い合わせはメールで行う
不動産鑑定士に問い合わせを行う際には、電話よりもメールの方がいいでしょう。不動産鑑定というのは非常に難しいものなので、いきなり問い合わせられても不動産鑑定士といえども即答できないケースがほとんどだからです。
メールで物件情報を詳細に伝えれば不動産鑑定士も余裕を持って対応することができます。
無料相談で良い不動産鑑定士を見極めるポイント5つ
問い合わせで好感触を得られたら無料相談を受けに行きます。良い不動産鑑定士・悪い不動産鑑定士を見分ける方法としては、以下の様なものがあります。
不動産鑑定の実務経験は豊富か
不動産鑑定士を選ぶ一番のポイントはやはり実務経験の豊富さ、つまり今までに行ってきた鑑定の量です。たくさんの実績を抱えている人ほど信頼できます。不動産鑑定には一般鑑定評価と簡易鑑定評価がありますが、その合計が200以上あればかなり信頼できると言っていいでしょう。
不動産関連の実務経験は豊富か
不動産鑑定は机上で行われることが多いため、不動産鑑定の実務経験は豊富でも、賃貸や売買などの契約に関しては経験がないという不動産鑑定士も少なくありません。
不動産鑑定だけでなく、不動産関連の実務経験の豊富な不動産鑑定士を選べば、より正確な仕事が期待できます。
具体的な費用の提示があるか
不動産鑑定料金は、不動産の種類や規模によって異なります。また、国土庁長官告示(不動産鑑定業者が不動産の鑑定評価業務に関して請求することができる報酬の基準)に基づいて、不動産鑑定業者が定めているため、どの不動産鑑定士に依頼しても大して料金に差はつきません。
しかし、初回の無料相談時に明確な費用を提示してこない不動産鑑定士は大いに問題があります。必ず費用を明示してくれるところを選びましょう。なお、一般的な戸建住宅の場合、鑑定費用は10万円~15万円になることが多いです(後述の不動産鑑定評価書を受け取る場合)。
こちらの話を聞いてくれるか
不動産という財産は殆どの人にとって最も高額な財産です。この財産の評価をろくに話も聞いてくれない不動産鑑定士に任せることはできません。依頼の内容を正確に把握し、親身に対応してくれる不動産鑑定士を選びましょう。
人間性に問題がないか
不動産鑑定士は豊富な知識を持っていますが、それゆえに知識にあまりに偏りすぎた偏屈な人も存在します。もちろん聖人に依頼する必要はないですが、最低限の社会常識、人間性すら備わっていない不動産鑑定士は、どんなに優秀そうでも避けたほうがいいでしょう。
不動産鑑定にあたって必要な書類について
不動産鑑定を行うにあたっては、様々な書類が必要になります。不動産鑑定士によっては書類の一部を依頼に人に変わって取得してくれることもありますが、そうでない場合もあります。不動産鑑定の際に必要となる書類には以下のような物があります。
全部事項証明書(登記簿謄本)
全部事項証明書(登記簿謄本)は、その不動産の所有者や権利、床面積などが記載された書類です。鑑定してもらう不動産には所有者が忘れかけているような権利がついていることもあるので、取得の際に必ず確認しましょう。取得費用は土地、建物ともに1つにつき1000円前後です。
全部事項証明書は原則として管轄内の法務局で取得しますが、場合によっては管轄外の法務局で取得することも可能です。詳しくは法務局までお尋ねください。
住宅地図
住宅地図とは、ゼンリンや日本特殊地図協会、刊行社などの民間企業が発行している不動産の場所や状況などが記された地図のことです。地図会社により精度に差があるため注意しましょう。
初めて依頼する場合は業界最大手で日本全国を網羅しているゼンリンに依頼するのが無難です。取得費用は500円前後です。
公図
公図とは、土地の形状を表した地図のことです。土地の形状や地番、道路、水路や隣接地との位置関係などが記載されています。取得費用は500円前後です。こちらも法務局で手に入るので、全部事項証明書と一緒に取得するといいでしょう。
地積測量図
その土地の面積や形状などが記された測量図です。地積測量図、公図、住宅地図などを使って、現地の照合を行います。法務局で取得でき、取得費用は500円前後です。
建物図面
建物がある場合は、建物図面を取得します。法務局で取得でき、取得費用は500円前後です。
固定資産税評価証明書
固定資産税評価書は、建物にかかる固定資産税を計算するもととなる固定資産税評価額が記載された書類です。市役所の窓口や出張所、証明書発行コーナーなどで発行できます。取得費用は400円前後です。
契約関係書類
建物の売買契約に関する書類です。
その他書類
鑑定してもらう不動産や不動産鑑定事務所によっては、これ以外にも書類の提出を求められる可能性があります。必要な書類についてわからないことがある場合は、その都度不動産鑑定士まで問い合わせて指示を仰ぐといいでしょう。
不動産鑑定を受ける際のポイント
必要な書類が終わったら、いよいよ不動産の鑑定を行います。不動産鑑定の中枢をなすのが現地調査です。土地や建物などを不動産鑑定士が実際に見て、構造、利用状況、管理状態などを確認します。場合によっては、所有者の立会が必要になることがあります。
また、役所での書類確認も思います。建物を取り巻くルールである用途地域や建ぺい率、高度制限などに引っかかっていないか、役所に置かれている資料を見ながら確認します。
また、近隣の不動産の取引事例や賃貸事例なども鑑定に影響を及ぼします。周りの物件が高額で取引されていれば、当然その物件も高額な査定がつきやすくなります。
なお、不動産の価格を決める要因には、
- 一般的要因
- 地域要因
- 個別的要因
の3つがあります。
一般的要因
一般的要因とは、不動産全般の価格に影響を与える要因のことで、具体的には以下の様なものがあります。
- 日本経済の景気水準
- 不動産を取り巻く税制
- 不動産の需要と供給のバランス
地域要因
地域要因とは、その不動産がある地域に関連した要因のことで、具体的には以下の様なものがあります。
- 都市計画区域に該当するか否か
- 市街化区域と違いか調整区域のどちらに該当するか
- 地域の人口増減率
- 最寄り駅からの距離
- 周辺の治安
個別的要因
個別的要因とは、その不動産に関連した要因のことで、具体的には以下の様なものがあります。
- 不動産を支える地盤の状態
- 不動産と道路の接道状況
- 隣接している不動産との兼ね合い
- 土壌汚染の有無
- 上下水道の整備状態
- 建築年数
- 建築面積、延床面積
- 建物の構造(木造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造など)
これらの3つの要因が複雑に絡まりあって、評価額が決まります。
作成された書類を受け取る
鑑定が終了したら、作成された書類を受け取ります。不動産鑑定士に作成してもらえる書類には
- 不動産鑑定評価書
- 価格調査書
- 意見書
などがあります。上に行くほど信頼性が高く、なおかつ依頼にかかる費用も高く、調査期間も長くなるものと考えてください。
前述の通り、一般的な一戸建て住宅の不動産鑑定評価書を受け取るには10万円~15万円程度の費用がかかります。価格調査書はその6割ぐらい、意見書は4割ぐらいです。税務署や裁判に資料として提出できるのは不動産鑑定評価書のみです。
不動産鑑定評価書は通常、一番頭に鑑定評価額が記載されています。その後に鑑定評価の基本的事項や評価決定の理由の要旨などが記載されていますが、評価額を知りたいだけの場合はこちらについてはほとんど読む必要はありません。ただし、価格の種類だけはきちんと見ておきましょう。価格の種類には
- 正常価格(市場価値を表示する適正な価格)
- 限定価格(取引当事者が限定され、その結果決定する価格)
- 特定価格(不動産投資信託などで証券化された不動産などの価格)
- 特殊価格(寺社仏閣など、市場における取引を前提としない価格)
があります。通常は正常価格となっているはずです。
まとめ
- 不動産鑑定士の資格は国家資格であり、保有者の信頼性は非常に高い
- 不動産鑑定士はインターネットで探すのが一般的
- まずはメールで問い合わせる
- 不動産鑑定だけでなく、不動産関連業務の実務経験も豊富な不動産鑑定士を選ぶ
- 必要な書類については不動産鑑定士の支持を仰ぐ
- 価格の種類はきちんと確認する
不動産鑑定は決して安いものではありません。だからこそ信頼できる不動産鑑定士を選ぶように気をつけたいものです。