不動産売買で仲介業者を変更する際の注意点まとめ

不動産を売買するときには、仲介業者を介して取引相手を探すのが一般的です。しかし、仲介業者と一口に言ってもそのサービスの質はピンキリであり、中にはろくでもない業者(あるいはろくでもない担当者)が紛れ込んでいるのも事実です。

そんなときには所定の手続きを踏むことによって、仲介業者を変更できます。

しかし、何も考えずに仲介業者を変更してしまうと、後で思わぬ不利益を被る可能性があります。例えば解約するしないで仲介業者と揉めたり、知らぬ間にブラックリストに掲載されたり……。

今回の記事では仲介業者を変更するメリットや注意点、具体的な変更の方法について解説いたしますので、これから不動産を売る、あるいは買う予定がある方は是非参考にしてください。

仲介業者を通じて不動産を売買する場合は必ず「媒介契約」を結ぶ

買い主や売り主が仲介業者と結ぶ契約を、専門用語で「媒介契約」といいます。媒介契約を結ぶ際には、買い主や売り主が仲介業者にどのような業務をどれくらいの仲介手数料で依頼するかを明記した「媒介契約書」を取り交わします。

媒介契約はさらに「専属専任媒介契約」「専任媒介契約」「一般媒介契約」に分けられます。いずれも相手方の買い主または売り主との契約が成立して初めて手数料が発生します。仲介を依頼しただけでは手数料はかかりません。

通常の業務で発生する費用は仲介業者持ちですが、依頼者の希望で実施した特別な広告活動にかかった費用などは別途依頼者が持ちます。

専属専任媒介契約とは

専属専任媒介契約は、1社だけに仲介を依頼する契約方式です。ある仲介業者と専属専任媒介契約を結び、別の仲介業者とも裏でこっそり媒介契約を結ぶことは認められません。

また、専属専任媒介契約では、自己発見取引も認められません。自己発見取引とは、買い主や売り主が自分で契約相手を見つけ、仲介業者を通さずに契約する取引のことです。

これができないため、契約する際には必ず仲介業者を通すことになります(自分で発見した取引相手に仲介業者を紹介し、仲介業者を通して契約するのは問題ありません)。

3つの媒介契約の中で最も縛りが強いですが、指定された物件をすぐにレインズ(指定流通機構。仲介業者が参照できるデータベース)に5日内に登録してもらえる、1週間に1回業者から販売活動の報告が受けられる、競争がないので仲介業者が腰を据えて優良な取引相手を探してくれるなどのメリットもあります。

レインズへの登録と販売活動の報告は仲介業者の義務であり、それがない場合は契約を解除できます。契約期間は3ヶ月以内と定められています。仮に3ヶ月を超える契約をした場合も、越えた部分については無効となります。

専任媒介契約とは

専任媒介契約は、専属専任媒介契約と同じく、1社だけに仲介を依頼する方式です。仲介業者と専属専任媒介契約を結び、別の仲介業者とも裏でこっそり媒介契約を結ぶことは認められません。

ただし、こちらは自己発見取引が可能です。レインズへの登録は7日以内、販売活動の報告は2週間に1回、契約期間は3ヶ月以内です。専属専任媒介契約とは細かい違いがいくつかあるのみで、大きな違いはありません。

一般媒介契約とは

一般媒介契約は、複数社に仲介を依頼できる方式です。一般媒介契約だけならば、3社と契約しようが5社と契約しようが10社と契約しようが全く問題ありません。

自己発見取引もできるため、契約者に取っては最もメリットが大きいように見えますが、一方でレインズへの登録や販売活動の報告が業者の義務ではなくなっています。また、契約期間の上限も定められていません(ただし、行政の指導は3ヶ月以内となっています)。

また、仲介業者が取引相手探しのための行動がすべて無駄に終わる可能性(他の不動産業者に顧客を取られる可能性)考えて、積極的に行動しない可能性もあります。

一般媒介契約はさらに、明示型と非明示型にさらに分類できます。明示型はある不動産会社と契約する際に、他にどこの不動産会社と契約しているのかを明示する契約です。非明示型はそれを明示しない契約です。業者にとっては、競争相手が目に見える明示型のほうが仕事がやりやすいようです。

ただし、明示型で契約する場合は、すべての不動産会社に同じ売却条件を提示する必要があります。A社には3000万円で売りたいと言い、B社には2800万で売りたいと言ってはいけません。

それぞれの媒介契約のメリットとデメリット

買い主は通常、一般媒介契約を結びます。専属専任・専任媒介契約の「1社としか契約できない」という縛りは、買い主に大きな不利益をもたらす可能性が高いためです。もちろん、買い主が望めば専属専任・千人媒介契約とすることも可能ですが、それをするメリットがあまりありません。

一方、売主の場合はどれを選んでも一長一短です。専属専任・専任媒介契約は1社としか契約できないため、最初に外れの業者を選んでしまうと最終的な契約相手が見つかるまで時間がかかったり、不利な条件での契約を提示されたりするリスクが高いです。また、悪意のある囲い込みが行われる可能性があります。

専属専任・専任媒介契約に伴う悪質な囲い込みの実態

囲い込みとは、外部の仲介業者に情報を提示せず、買い主も自分で見つけて仲介手数料を両者から取って倍儲けようとする行為のことです(このような行為を両手取引と言います)。

本来、両手取引はできない(レインズに物件情報を掲載しなければならないため)のですが、レインズは仲介業者だけがアクセスできるものであるため、こっそり行われることがあります。

レインズの運営側も不正防止のために登録証明書の発行などを行っているのですが、中には登録証明書の発行を受け、それを売り主に見せてからレインズ上の情報を書き換えたり、情報を削除したりするような悪質な業者も存在します。

これを防ぐためには、自らレインズ情報を確認するしかありませんが、レインズには仲介業者しかアクセスできません。

ただし、売主の場合は、登録証明書に記載されているIDとパスワードを利用すれば、自分が売り出している物件の情報の確認だけはできます(他の物件を見たり、自分の物件の情報を書き換えたりすることはできません)。

物件の情報(ステータス)は

  • 公開中
  • 書面による購入申し込みあり
  • 売り主都合で一時紹介停止中

の3種類があります。「公開中」となっている場合は正しく登録されており、問題ありません。しかし、購入希望車が見つかっていないのに「書面による購入申し込みあり」となっていたり、何もしていないのに「売り主都合で一時紹介停止中」となっていたりしている場合は、仲介業者が意図的に情報を隠している可能性があります。

ログインできない場合は、一度登録された情報がすでに削除されている可能性が高いです。すぐに仲介業者に連絡して理由を尋ねましょう。

専属専任・専任媒介契約にはこんなメリットも

一方で、悪質な仲介業者に当たらなければ、高く売れる・安く買える可能性が高いです。

仲介業者は他社に顧客を取られる心配がないため(専任媒介契約の場合は自己発見取引の可能性がありますが、実際にそうなることはめったにありません)、腰を据えて優良な(高く買ってくれる・安く売ってくれる)取引相手を見つけてやすくなります。

一般媒介契約はこれとは逆の性質を持っています。複数の仲介業者に依頼できるため両手取引のリスクは少なくなりますが、他社に顧客を取られる心配があるため、そもそも仲介業者が熱心に動いてくれない可能性が増します。

どちらも一長一短なので、自身の重視するポイントを満たしてくれる契約方法を選ぶといいでしょう。

仲介業者を変更するメリット

仲介業者を変更することにより得られる主なメリットは以下の3点です。

  • 高く売れる可能性が高まることがある
  • 新たな契約相手にたどり着く可能性がある
  • 担当者を変更できる

安く買える・高く売れる可能性が高まることがある

仲介業者によって(あるいは仲介業者の担当者によって)、最終的な契約金額には差がつきます。優秀な仲介業者・担当者は安く買えたり、高く売ったりできるようにあれこれ工夫してくれます。

一方でそのような工夫がない仲介業者・担当者は、「いい物件だから」という理由で買い主に高い価格で妥協するように勧めてきたり、あるいは売り主に希望売却価格を下げるように提案してきたりします。

確かに実際に高い金額に見合ういい物件もありますし、希望売却価格を下げるのも戦術の一つではありますが、それしかできないような担当者は優秀とはいえません。そのような場合は、仲介業者を変更することによって、安く買える・高く売れる可能性を高められます。

新たな契約相手にたどり着く可能性がある

仲介業者と一口に言っても、地域密着型の中小の仲介業者と、全国に展開する大手の仲介業者では、その販売手法や保有する顧客情報に大きな差が有ります。ど

ちらがいいとか悪いとかそういうことではなく、両者は同じ業種であっても別々のアプローチで成約数を増やそうとしているのです。規模や営業スタイルが大きく違う仲介業者に変更すれば、今まで見つけられなかった新たな契約相手にたどり着けます。

担当者を変更できる

仲介業者自体が良い会社でも、そこで働く担当者全員が優秀であるとは限りません。また、優秀であっても人間的にどうしても好きになれないという人もいるでしょう。

そのような担当者に当たってしまった場合、仲介業者を変更すれば、自動的に新しい担当者をつけてもらえます。仲介業者は買えずに担当者だけを変更してもらってもいいのですが、手間がかかるためおすすめはしません。

仲介業者を解約するデメリット

上記のようにメリットも大きい仲介業者の変更ですが、一方でデメリットも少なからず存在します。主なデメリットは以下の3点です。

  • 最初の仲介業者よりも低レベルな仲介業者に当たってしまう可能性がある
  • ブラックリスト入りの可能性がある
  • 手続きに手間がかかる

最初の仲介業者よりも低レベルな仲介業者に当たってしまう可能性がある

仲介業者を変更したからと言って、必ず前よりも高レベルな仲介業者にたどり着けるという保証はどこにもありません。逆に前の仲介業者よりも低レベルなところにあたってしまうことも十分に考えられます。

最初に当たりの仲介業者を見つけられていれば、そもそもこのようなリスクを犯す必要もなくなります。最初の仲介業者選びはより慎重に行いましょう。

ブラックリスト入りの可能性がある

不動産業界は一見広いようで実は狭く、しかも業者間同士の結び付きが強い世界です。仲介業者を何度も変更していると、そのことが不動産業界全体に広まってしまう可能性があります。そうなった場合、面倒な客だと判断されて、どの仲介業者とも契約できなくなるかもしれません。

大小様々な仲介業者が入り乱れる都市部ならばその心配はあまり大きくありませんが、仲介業者の絶対数が少ない地方で頻繁に仲介業者を変えるのはリスキーな行為です。

手続きに手間がかかる

一度解約して新たに別の仲介業者と新規に契約するのは、同じ仲介業者との契約を更新するのよりも面倒です。

仲介業者を変更した方がいいケース

仲介業者の変更にはメリットだけでなくデメリットもあります。そしてそのデメリットは決して小さいものではありません。仲介業者を変更するのは、以下のような大きな事情を抱えているときに限るべきです。

  • 売り主に対して値下げをやたらと勧めてくる
  • 売り主に対して物件の買取を勧めてくる
  • 担当者との意思の疎通が十分にできない
  • 媒介契約違反をしている

売り主に対して値下げをやたらと勧めてくる

販売価格が相場に対してあまりにも高すぎる場合に値下げを行うのは適切な戦術であり、間違いではありません。しかし、適切な価格で売り出しているにも関わらず、更に値下げを勧めてくるような仲介業者は変更した方がいいでしょう。

特に、明確な理由なく値下げを勧めてきてきている場合は要注意です。両手取引を実現するために、買い主の意向を強く聞いて値下げしようとしている可能性があります。

仲介業者は契約金額に応じた手数料を受け取るのだから、契約金額は高いほうがいいのでは?と思われるかもしれませんが、それは間違いです。担当者は契約金額よりも契約件数で評価されるため、むしろ彼らは値下げを好みます。

売り出し価格が適切なものであるかどうかを理解するためには、最初に相見積もりを取ることが大切です。見積もりの平均値が概ね適切な売り出し価格と考えてば大きな間違いはないでしょう(ただし、媒介契約を勝ち取るためにわざと高めの査定金額をつける仲介業者もあります)。

売り主に対して物件の買取を勧めてくる

仲介業者は不動産会社でもあるため、自ら物件の買取をすることがあります。仲介の場合は別の個人や法人と物件のやり取りを行いますが、買い取りの場合は不動産会社と物件の売買を行います。しかし、買取はできるだけ避けたほうがいいです。

物件の買取は仲介と違って、必ず契約が成立することが大きなメリットです。仲介のように理想的な相手が見つかるまで待つ必要は全くありませんし、仲介手数料もかかりません。

また、買い取りの場合は瑕疵担保責任が免除されるため、買い取り直後に物件に何らかの欠陥が見つかったとしてもその責任を負う必要は全くありません(仲介の場合は1年間の瑕疵担保期間が設定されます)。

しかし、買取価格は仲介による契約価格(市場価格)と比べてかなり低くなる場合が大半です。どれくらいの価格になるかはケースバイケースですが、一般的には市場価格の60~70%になることが多いです。

例えば市場価格が2000万円の場合、買取価格は1200万円~1400万円ぐらいになります。仲介手数料が無料であることを差し引いても、金銭的にはかなり損な契約であるといえるでしょう。

どうしても売れないときに買い取りをするのは致し方ないことですが、媒介契約を結んだ直後から買い取りを勧めてくるような業者は変更した方がいいでしょう。

担当者との意思の疎通が十分にできない

担当者がこちらの質問に対して明確な答えを返さない場合は、業者ごと変更してしまったほうがいいでしょう。

こちらからの質問をはぐらかしたり、言葉巧みに丸め込もうとする仲介業者・担当者は信頼できません。わからないならわからない(ので調べて後日報告する)と答えてくれるのがいい仲介業者・担当者というものです。

なお、専属専任・専任媒介契約の場合、担当者は売り主に対して定期的に販売活動の報告を行うことが義務付けられていますが、その方法までは決められていません。

電話でも、メールでも、郵便でも、対面でもルール上はOKです。しかし、できることならば対面で話してくれる業者が望ましいです。合わせて形の残るメールをくれる業者ならば最高です。

媒介契約違反をしている

レインズに物件を登録していない、あるいは削除した、専属専任・専任媒介契約を結んだのに販売活動の報告がない、といった場合は相手に非がある解約となりますので、行政機関や専門家に相談した後に解約しましょう。

仲介業者の変更は契約期間満了後に行うのがベスト

専属専任・専任媒介契約の契約期間は3ヶ月以内と定められています。一般媒介契約には契約期間に関する決まりがありませんが、行政の指導では3ヶ月以内とされており、実務上は3ヶ月以内での契約となることがほとんどです。

また、いずれの契約形態でも、3ヶ月より短くなることも殆どありません。「契約期間は3ヶ月」と考えておけばだいたい間違いないでしょう。

この契約期間が終了すれば、買い主・売り主は自由に仲介業者を変更できます。契約更新は双方の合意が必要になるので、仲介業者が更新を求めてきたとしても、こちらがそれに応じなければいいだけの話です。中途解約は色々と面倒なことになるので、できる限り避けたほうが無難です。

一般媒介契約は自動更新に注意

一般媒介契約は例外的に、特約で契約の自動更新を付帯させられるので注意が必要です。自動更新特約に合意した場合、契約期間終了後にまた自動的に契約が始まってしまいます。将来仲介業者を変更する可能性がある場合は、契約時に特約を付帯しないように仲介業者に伝えましょう。

契約期間中の中途解約解約も可能だが、場合によっては費用を請求されることも

契約期間中であっても、双方の合意があれば中途解約は可能です。ただし、自己都合での解約、仲介業者に明確な非がない場合、売り主に対して費用償還の請求をされる可能性があります(買い主は特に何もされません)。そちらの都合で一方的に契約を解除するのならば、今まで使った広告費はちゃんと払ってください、というわけですね。

実際にはそうならないことが多いですが(仲介業者には請求する権利があるものの、実際には請求しないことが多いためです)、トラブルを避けるためにも、自己都合での中途解約は避け、3ヶ月を待ったほうが無難です。

一方、仲介業者に何らかの非があることが明確である場合、契約義務違反があった場合は、買い主・売り主の方から解約することが可能です。

しかし、仲介業者に非があることを明確に証明するのは簡単ではありません。例えば囲い込みなどはそれが実際に行われていることを証明するのが非常に難しいです。面倒でなおかつ急いでいないという場合は、契約期間終了まで何もせずに待っていてもいいでしょう。

仲介業者の対応に不信な点がある場合は、国土交通省、都道府県庁、市区町村役場などの行政機関や、弁護士、宅地建物取引業保証協会などの信頼できる相手に相談して、指示を仰ぎましょう。

仲介業者変更の手順

自動更新特約が付帯している一般媒介契約を結んでいない限り、通常は放って置いても3ヶ月経てば契約は終了します。終了直前に仲介業者から更新するかしないか尋ねられるでしょうが、更新しないと答えればOKです。

更新しない理由を告げる必要もありません。解約できたら、後は最初に媒介契約を結んだときと同じように次の仲介業者と契約すればOKです。

まとめ

  • 仲介業者に仲介を依頼する際には媒介契約を結ぶ
  • 媒介契約には「専属専任媒介契約」「専任媒介契約」「一般媒介契約」の3種類がある
  • 媒介契約は通常3ヶ月で、特例がない限り自動更新は行われない
  • 仲介業者の対応に疑問がある場合は行政機関や専門家に相談を
  • 値下げや買い取りを執拗に勧めてくる仲介業者は要注意
  • 中途解約をすると場合によっては費用を請求されることも

仲介業者の変更はそれなりにリスクが伴うものであるため、考えなしに行ってはいけません。一番いいのは最初からあたりの業者を見つけることです。

それでも仲介業者の対応に疑問点がある場合は、行政機関や専門家に相談するのも有効な手段の一つですし、急がない場合は契約切れを待っても構いません。