「空き家対策特別措置法」という法律を知っているでしょうか?平成27年の5月に完全に施行され、わたしたちにも大きく影響しうる可能性がある法律です。
とくに、現在空き家を所有している人、これから空き家を相続する予定がある人などは要注意です。周囲に迷惑をかける可能性がある空き家だと判断されると、行政から改善指導や命令を下されてしまいます。
場合によっては行政代執行の対象になり、空き家を強制的に撤去されたうえに、その撤去費用が請求される可能性があるためです。
また、周囲に人が住んでいないゴミ屋敷や、放置しておくと危険な空き家がある人にとっては、そのことを行政や自治体に報告することで適切な対処を行政に行ってもらえます。
空き家対策特別措置法とは具体的にどんな法律なのか?どんな空き家がこの法律の対象になるのかを見ていきましょう。
空き家対策特別措置法の対象になる空き家とは?
空き家の状況改善や撤去に関する法律といっても、全ての空き家がその対象になるわけではありません。そんなことをしたらクレームの嵐でしょうし、行政も手がいくらあっても足りません。
この法律の対象になるのは、「特定空き家等」とみなされた空き家です。ちなみに「空き家」の定義は以下の通りです(空家等対策の推進に関する特別措置法より引用)。
これに該当する住居のうち、さらに以下のものにあたる空き家が「特定空き家」として判断されることとなります。
2 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
3 適切な管理が行われないことにより、著しく景観を損なっている状態
4 その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
具体的な例で言えば、ゴミ屋敷やあまりに古い空き家などですね。ゴミ屋敷は上記の2、3、4に当てはまる可能性がありますし、古い住居は1にあてはまる可能性があります。
では、特定空き家として判断を下すのはどのタイミングで、どのように行われるのでしょうか?
特定空き家の可能性がある空き家には行政が様子を見にくることも
いきなり特定空き家であると判断されるのはまれで、多くの場合、行政や自治体が実情を把握するために訪問してきます。もちろん、前もって空き家の所有者には連絡を入れたうえで、です。
空き家対策特別措置法が施行されるまでは、この実態調査すら行えませんでした。空き家といえど誰かの所有物である可能性がありますから、その本人の意向を無視して調査をすることはできなかったのです。
しかし、この法律のおかげでほぼ強制的に調査を行うことが可能になりました。もし、この調査を不当に断ると罰金などの罰則が科せられることがあります。
そして、調査を行ったあと、その空き家が周囲に悪影響を与えうると判断された場合には特定空き家として認定され、行政指導の対象になります。
行政や自治体が訪問してくるタイミングですが、地域住民のクレームがあった場合に多いようです。もちろん、クレームがなくても調査を行うことはありますが、訪問の連絡が来た=周辺住民からクレームがあったと考えておきましょう。
行政の対応は段階ごとに厳しくなる
特定空き家として判断されると、行政からの指導が入ります。この空き家にはこういった問題があったから、できるだけ早期に改善するように、といった具合ですね。
このくらいなら無視してもいいか、と思うかもしれませんが、行政の対応は次第に厳しいものになっていきます。また、指導の段階ではとくにペナルティはありませんが、段階が進むにつれて大きなペナルティが課されるようになっていきます。
以下から、行政の対応を段階ごとに見ていきましょう。
指導や助言
一番初めの段階ですね。調査の結果、こんな問題点が見つかったので、早急に改善してくださいね、といった内容のものです。
もちろん、いきなり空き家を撤去しろ、なんて言われることはまずありませんから安心してください。問題があった箇所を改善すればそれでOKなケースが大半です。
ただ、一時しのぎのために適当な対応をしたり、そもそも改善していないのに対処しましたと報告しても無駄です。ほとんどの場合、再調査が行われるので、そういった嘘はすぐにバレてしまいます。
この指導や助言を受けたにもかかわらず、適切な対処を行わなかった場合、次の「勧告」が行われます。
勧告
勧告といっても、指導や助言の場合と内容はほとんど変わりません。ただ、ここからは明確なペナルティが課されるようになります。
勧告を受けると、固定資産税の特例措置を受けられなくなってしまいます。固定資産税といえば、所有している建物や土地に課税される税金ですね。
この税は建物と土地のそれぞれに課税されるのですが、所有している土地に建築物があった場合、土地に対する課税額は最大で6分の1まで減額されます。
控除額の細かい条件についてはここでは割愛しますが、要は、勧告を受けると固定資産税の特別控除を受けられなくなり、今までの数倍の税金が課せられる可能性があるのです。
この特例を受けるために空き家のまま所有している人もいるでしょうから、この措置は非常に厳しいものと言えます。
指導、助言から勧告に至るまでの期間は明確にされていませんが、その旨の連絡があった場合は早急に対応すべきだと言えるでしょう。
命令
勧告を受けてもいまだ改善を行わない場合、次は「命令」というステップになります。この段階になるといよいよ改善のための猶予期限が設定されます。
この猶予期限は改善が完了するまでのタイムリミットです。期限までに改善をスタートすればいいというものではないので注意しましょう。
この命令を受けても何のアクションを起こさず、期限を超えてしまった場合、ついに行政代執行の対象になってしまいます。
代執行
行政代執行は、こちらの意思に関わらず強制的に行われるものです。ただ、無条件で強制撤去というわけではなく、あくまで問題点を改善するために行われます。
代わりにやってくれるのならラッキーでは?なんて思うかもしれませんが、決してそんなことはありません。というのも、対応にかかった費用はすべて後から請求されるためです。
代執行による作業のためには専門の業者を呼ばなくてはならないので、多くの場合は自分で対応した場合よりも高額な費用がかかってしまいます。自分の手で行えばタダ、もしくは格安で済んだのに、その何倍もかかってしまった、なんて可能性も十分あるわけです。
相談すれば考慮してくれることも
問題を改善しなければ行政執行されるといっても、所有者にはそれができない事情があるかもしれません。たとえば、改善のための費用が用意できないとか、老齢のために自身で作業ができない、などですね。
こういった場合は早めに行政や自治体に相談しましょう。指導や助言の段階で相談するのがベターです。行政も鬼ではありませんから、事情を話せばある程度条件を融通してくれたり、改善の猶予期限を延長してくれたりします。
代執行まで進んでしまうと一方的に手続きを進められてしまいますから、遅くとも命令の段階までにはアクションを起こすようにしましょう。
現在、空き家がある場合はどうすればいい?
現在、空き家を所有している、もしくは相続予定がある場合はどうすればいいのでしょうか。今後、そこに住む予定があれば問題ないでしょうが、放置するだけではいずれ老朽化が進み、特定空き家として判定されてしまうかもしれません。
定期的にメンテナンスを行えばその可能性を減らすことはできますが、メンテナンスをするにお金がかかりますし、これからずっとそれを行っていくのも負担が大きいでしょう。
そこで、こちらができる主な対策は2つです。一つは相続放棄をしてしまうこと。もう一つは解体、もしくは売却してしまうことです。
相続放棄をする
空き家といえど立派な財産ですから、所有者が亡くなった場合にはそれを相続する権利が生まれます。もちろん、建築物だけでなく土地も相続対象に含まれるので、空き家の立地や面積によっては非常に大きな価値がある可能性もあるでしょう。
ただ、相続した場合は、特定空き家として判定された場合、正式な所有者として対処することが義務づけられてしまいます。住居、土地に大きな価値があるならまだしも、大した価値もないのにこういったリスクを負うのは勘定に合わないと感じる人もいるでしょう。
このようなケースでは相続放棄を選択するのも手です。相続放棄の手続きを行うと、相続権は他の親族に移動し、最終的に全員が相続放棄した場合、その土地や建築物は国のものとなります。
この場合、もし特定空き家として判定されたとしても、すでに自分は所有者ではありませんから、対応を迫られることもありません。行政の自己負担という形で対応するケースが多いようです。
しかし、相続放棄の手続きはややこしく、手続きが完了したからといって完全に所有権がなくなるわけではない場合もあります。相続放棄を行う場合は専門家のアドバイスを受けながら進めていったほうがいいでしょう。
解体、売却してしまう
土地の所有権は残したいという場合は、空き家を解体してしまうのも選択肢の一つです。解体費こそかかるものの、特定空き家として判定されるリスクを完全にゼロにできます。
また、更地にしたあとは駐車場として再利用するなど、利用方法はいくつかあります。この方法なら収入も生まれますし、ただ空き家として放置しておくよりよっぽどいいかもしれませんね。
しかし、土地の上に住居がなくなったことによって、固定資産税の特別控除が受けられなくなることに注意です。先述したように、条件を満たせば最大6分の1までの控除が受けられるので、これがなくなった結果、固定資産税が跳ね上がる可能性があります。
解体前には解体にかかる費用、そしてそのあとにかかる費用などを入念に計算しておくことをおすすめします。
空き家も土地も必要ないなら、いっそのこと売却してしまうのもアリです。売却益も手に入りますし、以降は固定資産税を支払う必要もありません。
メリットが大きい不動産売却ですが、立地条件や土地の形状、面積によっては買い手が見つからない可能性があることも考慮しておきましょう。
都市部や都市圏であれば引く手あまたかもしれませんが、地方になるほど引き取り手が見つかりにくくなっていきます。
さらに、空き家対策特別措置法の施行によって、空き家を売却しようと考える人はこれから増えていくでしょうから、ますます売却競争が激しくなるかもしれません。
競争が激しくなれば売却価格は下がってしまいますし、そもそも買い手がつかない可能性も十分考えられます。売却を検討しているなら、なるべく早めに動き出したほうがいいかもしれませんね。
まとめ
空き家特別対策措置法の施工により、空き家の所有者には大きな責任が生まれました。現在、空き家を所有している人、相続予定のある人は空き家をどうするかについて考えておく必要がある言えます。
現時点での主な対策は、定期的にメンテナンスをする、解体する、売却する、相続放棄をする、などです。
どの方法を取るにしても、自分一人の力では難しいので、業者や専門家に手助けしてもらうことが重要です。
また、すでに空き家が周辺に迷惑をかけかねない状況にあるのなら、行政から連絡が入る前に適切に対処しておきましょう。