取引がいつも現金で行われるとは限りません。むしろ実務上は商品の引き渡しから代金の支払いまでにはかなりのタイムラグが発生することのほうが多いです。
このようなときには手形を使った取引が便利ですが、もらった手形が現金になるまでにはタイムラグがあります。
その場合は手形割引という金融機関のサービスを利用すると、手形をすぐに現金化できます。ただし手形割引にも幾つかデメリットが有るため、注意が必要です。
なぜ取引から支払いまでにタイムラグが生まれるのか?
企業は売上はすべて現金で受け取りたいと考えています。現金でもらったほうがすぐに資金繰りが改善しますし、債権が不良債権化するリスクもなくせるからです。
しかし、支払いはなるべく遅らせたいと考えています。すぐに支払うと資金繰りが悪化しますし、現金をすぐに用意できない場合もあるからです。
そのような相反する都合があるため、実際の取引では現金払いと後払いが混在しています。取引金額が少ない時は現金払いとなることが多いですが、取引金額が多くなると即金で支払うのは難しくなるため、後払いとなることが多いです。
掛取引(売掛金)と手形取引(受取手形)の違い
後払いの方法には、掛取引と手形取引があります。掛取引による債権を売掛金、手形取引による債権を受取手形と言います。
掛取引は原則として、口約束だけでも発生します。身近なところで言えば、顔なじみである程度の無理が効く飲食店に行って、「給料が出たらお金払うから付けておいてくれる?」と約束するだけでも成立します。簡単に成立する分、法的拘束力は低いです。
もちろん、実務上は売掛金をいつまでに支払ってくださいという書面を用意することが多いのですが、法的拘束力は受取手形と比べるとどうしても弱くなってしまいます。
一方、手形取引は決められた書式にしたがって手形を発行する取引で、掛取引よりも遥かに高い法的拘束力があります。手形にはいつまでに誰がどこの口座にいくら支払う、ということが記載されています。
手形を交わすのは非常に面倒くさいですが、そのかわり売上を取りっぱぐれる可能性がほぼなくなります。
そのため、取引金額が大きくなりそうな場合、未回収期間が長い場合、相手がお金をきちんと払うか信頼できない場合(取引期間が短い相手など)の場合は手形取引をするのが一般的です。逆に取引金額があまり大きくない場合、未回収期間が短い場合、取引相手が信頼できる場合は掛取引で済ませるのが一般的です。
受取手形にはそれ自体に価値がある
受取手形にはそれ自体価値があります。もう少しわかりやすく言うと、受取手形を現金と似たような感じで使うことができるのです。受取手形は何日か後に確実にお金を払ってもらえる権利なので、決済に使用することも可能です。
受取手形を現金の代わりに使う(受取手形で何かを買う)ことを、裏書譲渡と言います。裏書譲渡をした場合、債権は他社に移ります。
受取手形は担保になる
そして、受取手形は金融機関から融資を受ける際の担保にすることも可能です。これを手形割引と言います。こうすれば、手形をすぐに現金化することも可能です。
現金がどうしても必要だけれど、受取手形しか手元にないという場合は、受取手形を金融機関に持っていって、金融機関相手に裏書譲渡をすればいいわけです。
必ず融資してもらえるわけではない
しかし、手形割引はいつでも必ずできるわけではありません。手形の割引も融資の一種であり、融資は双方の合意がなければ行えないからです。
まず、普段取引をしていない金融機関では、基本的に手形割引はできません。手形割引をは原則として取引先の金融機関にお願いする必要があります。
また、手形その物がきちんと償還される(回収できる)可能性が低い場合は、手形割引はできません。振出人(受取手形を発行し、お金を払うと約束したほう。債務者)の信頼度が低い場合は注意が必要です。
ただし、振出人の信頼が低くても額が少ない場合は手形割引に応じてもらえることも在るため、ケースバイケースと言えます。
受取手形は額面金額よりも安い値段でしか売れない
受取手形は原則として、額面金額(そのまま持っていれば将来受け取れる金額)よりも低い値段でしか融資してもらえません。例えば額面金額が100万円となっている手形でも、97万円とか95万円でしか売れないことになります。
これはなぜかというと、利息が発生するからです。手形割引に応じる銀行は手形を担保に資金の融資を行っているようなものなので、それに見合った金利を設定する権利があります。
償還日と金利によって発生する利息を予め差し引いてお金を払うわけです。この金利を手形割引率ということもあります。
手形割引をする立場からすれば、手形割引率は当然低いに越したことはありません。手形割引率は金融機関によってまちまちなのでなんとも言えませんが、一般的には金利が低い順に「都市銀行」「地方銀行」「信用金庫」「信用組合」となっています。
また、最近は手形割引を専門とした業者(株式会社日商、日本保証など)もありますが、こうした業者の金利はまちまちです。
割引手形が不渡りを起こしたら買い戻さなければならない
手形割引をして、その後受取手形に書いてあるとおりに支払いが行われなかった場合、つまり不渡りを起こした場合、金融機関は手形割引の依頼人に対して手形の買い戻しを請求することができます。
また、不渡りを起こしていなくても、将来不渡りを起こす可能性が大きいと金融機関が判断した場合も、買い戻しを請求することができます。
手形割引をする立場からすればなんだか随分虫の良い話だと思われるかもしれません。自分の判断で受取手形を買い取っておきながら、償還されないとこちらに請求するとは、八つ当たりのようにも思えます。
しかし、手形割引は本来は買取ではなく融資の一種です。金融機関は受取手形を買い取っているわけではなく、あくまでも受取手形を担保に利息を差し引いた分を融資しているだけなのです。
だから担保である受取手形が担保の役割を果たさなくなったときには、当然割引依頼人に対して支払いを請求することができるわけです。
買い戻した受取手形は依然として有効だが、支払いは期待できない
不渡りを出した受取手形を金融機関から買い戻した場合、その受取手形自体の効力はそのまま維持されます。つまり、本来はその受取手形を使って支払いを請求することができるわけです。
しかし、不渡りを出した企業が簡単に請求に応じてくれるとは思えません。というか、応じたくても応じられないでしょう。
6ヶ月以内に2回不渡りを出した会社は、行取引停止処分という制裁を受けることになります。これは多くの中小企業にとっては倒産を意味します。あなただけが不渡手形を掴まされている場合は回収のチャンスはありますが、他に同様の立場の人がいる場合、回収は極めて難しくなるといえるでしょう。
他の債権者も回収に動くことになるため、もたもたしていると1円たりとも回収できなくなってしまいます。不渡りが発生したら、すぐに強制回収のための手続きを進めましょう。
まずは仮差押を
不渡りを出した企業が任意で支払いを行う可能性は極めて低いです。また、たとえ裁判で勝ったとしても、相手に支払い能力(財産)がなければ回収仕様がありません。
そのため、すぐに仮差押(裁判で勝ったときに備えて、相手の財産を仮に差し押さえること。財産隠しや不当な処分を抑制する)を行いましょう。仮差押は債務者の合意なしに行えます。
万が一に備えて経営セーフティ共済などの活用を
債権を正常に回収できない場合に備えたい場合は、経営セーフティ共済や損害保険会社の取引信用保険に加入しておくといいでしょう。
経営セーフティ共済なら無利子で融資が受けられる
経営セーフティ共済とは、取引先が倒産したことによって債権の回収ができなくなった場合に、今日最近の貸付が受けられるサービスです。貸付なのでいずれ返済しなければなりませんが、資金ショートは回避できます。
貸付金は50万から8000万円で、5万円単位で設定できます。ただし、回収困難と鳴った債権額、もしくは掛け金総額の10倍以上の金額を借りることはできません。
返済期間は5000万円未満ならば5年、5000万円以上6500万円未満なら6年、それ以上の場合は7年です。
共済金の貸付は無利子ですが、今日最近の貸付額の10分の1に相当する金額が払い込んだ掛金から控除されます。担保、保証人は必要ありません。
取引信用保険は債権が回収できない場合に保険金が受け取れる
取引信用保険は、民間の損害保険会社などが販売している保険です。売掛金が回収できなかった場合は、保険金で損失を穴埋めすることができます。貸付ではなので、返済する必要はありません。また、夜逃げなどの場合でも保険金が受け取れます。
保険料は取引先企業の売上高の0.1~0.4%程度になることが多いです。また、必ず債権を全額回収できるわけではない(取引先ごとに限度額が設定される)ので注意が必要です。
また、限度額いっぱい通りに支払われないこともあります。債権が回収できなくなった場合にどの程度保険金が受け取れるかの見積もりはほとんどの保険会社が無料で行ってくれるので、気になる方は事前に相談しておきましょう。
まとめ
- 掛取引よりも手形取引のほうが確実に回収できる
- 受取手形は融資の際の担保になる(手形割引)
- その場合、利息が発生するため受取額は額面金額より少なくなる
- 取引先が不渡りを起こした場合は、受取手形を買い戻さなければならない
- 取引先が不渡りを起こした場合はすぐに仮差押をするべき
- 経営セーフティ共済や取引信用保険でリスクヘッジができる
受取手形はより確実に債権を回収するためには欠かせないものですが、それでも100%債権が回収できるとは限りません。万が一の自体に備えて、必ずリスクヘッジを行いましょう。