公務員は自己破産をすると免職されるのではないかと心配されている方に朗報です。公務員は自己破産をしても原則免職されることはありませんし、そもそも自己破産のことを周囲に知られることすらほぼありません。公務員にも自己破産の権利があるのです。
目次
そもそも公務員って何?
公務員とは名前の通り、公務を仕事とする人たちの総称です。国の公務に従事する人を国家公務員、地方の公務に従事する人を地方公務員と言います。
例えば国土交通省や総務省、財務省などの国の役所に努めている人は国家公務員で、都道府県庁や市区町村役場などに勤務している人は地方公務員になります。
警察官には地方公務員と国家公務員がいますが、国家公務員はいわゆるキャリア組と呼ばれるごく一部の人たちだけで、残りの全ては地方公務員です。いわゆる街のおまわりさん、交番にいる警察官は全員地方公務員と思っていただいて構いません。
また、国会議員も公務員ですが、かれらは上記の公務員とは違う「特別職」にカテゴライズされています。主な特別職公務員には内閣総理大臣を筆頭とする国務大臣、外交官、裁判所職員(ここまで国家公務員)、都道府県知事、市区町村と湯、臨時や嘱託の職員(ここまで地方公務員)などがあります。
特別職公務員は官庁や都道府県庁、地区町村役場で働く一般職公務員とは待遇や給与などが違います。
自己破産をしても99.999%以上の公務員は仕事を続けられる
一方、自己破産には資格制限という制度があります。自己破産の手続きを始めてから免責が認められるまでの間、一定の期間中は一部の資格が制限されてしまうわけです。手続き中に制限される資格は以下のとおりです。
制 限 法 条 | 資 格 者 |
---|---|
あ 行 | |
アルコール売捌規則第40条 | アルコール普通売捌人 |
位階令第6条 | 有位者 |
宇宙開発委員会設置法第7条 | 委員会委員 |
卸売市場法第17条 | 卸売業者 |
沖縄振興開発金融公庫法第33条 | 公庫の役員 |
か 行 | |
科学技術会議設置法第7条 | 会議々員 |
割賦販売法第33条 | 割賦購入あっせん業者 |
環境衛生金融公庫法第31条 | 公庫の役員 |
貸金業の規制等に関する法律第6条 | 貸金業者 |
外国証券業者に関する法律第5条 | 外国証券業者 |
簡易郵便法第3条の2 | 簡易郵便局長 |
行政書士法第55条 | 行政書士 |
漁船損害等補償法第24条 | 漁船保険組合の組合員 |
金融先物取引法第19条 | 金融先物取引所会員(法人) |
原子力委員会及び原子力安全委員会設置法第5条 | 原子力委員及び原子力安全委員 |
競馬法第23条の13 | 地方競馬全国協会の役員 |
競馬法執行規則第3条 | 調教師又は騎手 |
検察審査会法第5条 | 検察審査員 |
警備業法第3条 | 警備業者 |
警備業法第7条 | 警備員 |
警備業法第11条の4 | 警備員指導教育責任者等 |
警備員の検定に関する規則第5条 | 警備員等の受検 |
建築基準法第80条の2 | 建築審査会の委員 |
建築士法第23条の4 | 建築士事務所開設者 |
建築設備資格者登録規定第6条 | 建築設備資格者 |
建設業法第8条、第17条 | 一般建設業、特定建設業 |
建設業法第25条の4 | 建設工事紛争審査会の委員 |
下水道処理施設維持管理業者登録規程第6条 | 下水道処理施設維持管理業者 |
公害等調整委員会設置法第9条、第10条 | 委員長及び委員 |
公安審査委員会設置法第7条、第8条 | 委員長及び委員 |
国家公務員法第5条、第8条 | 人事官 |
公証人法第14条 | 公証人 |
公認会計士法第4条 | 公認会計士、公認会計士補 |
鉱業登録令第51条 | 共同鉱業権者 |
国民金融公庫法第29条 | 公庫役員 |
公営企業金融公庫法第36条 | 公庫役員 |
国際観光レストラン登録規程第5条 | 国際観光レストラン |
港湾労働法第12条 | 港湾労働者雇用安定センター |
公害紛争処理法第16条 | 都道府県公害審査会の委員 |
さ 行 | |
司法修習生に関する規則17条 | 司法修習生 |
司法書士法第4条 | 司法書士 |
信託法第5条 | 受託者 |
商法第85条 | 合名会社の社員 |
商法第147条 | 合資会社の社員 |
商法第354条の2、第208条 | 株式会社の取締役 |
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第31条 | 公正取引委員会の委員長及び委員 |
商工会議所法第15条 | 会議所会員 |
商品取引所法第24条 | 商品取引所会員 |
商品取引所法第57条 | 商品取引所役員 |
商品投資に係る事業の規則に関する法律第6条 | 商品投資販売業 |
商品投資に係る事業の規則に関する法律第32条 | 商品投資顧問業 |
住宅金融公庫法第32条 | 公庫の役員 |
信用金庫法第17条 | 信用金庫等の役員 |
商工会法第32条 | 商工会の役員 |
社会保険審査官及び社会保険審査会法第24条、第25条 | 社会保険審査会委員 |
社会保険労務士法第5条 | 社会保険労務士 |
証券取引法第32条 | 証券業 |
証券取引法第64条の2 | 証券取引外務員 |
証券取引法第156条の4、第156条の10 | 証券金融会社の役員 |
証券投資信託法第7条 | 信託会社 |
税理士法第4条 | 税理士 |
船主相互保険組合法第17条 | 船主相互保険組合 |
測量法第55条の6 | 測量業者 |
た 行 | |
宅地建物取引業法第55条 | 宅地建物取引業 |
宅地建物取引業法第18条 | 宅地建物取引主任者 |
たばこ事業法第13条 | 製造たばこの特定販売業の登録 |
たばこ事業法第17条 | 製造たばこの特定販売業者 |
地価公示法第15条 | 土地鑑定委員 |
地質調査業者登録規程第6 | 地質調査業者 |
地方教育行政の組織及び運営に関する法律第4条、第9条 | 教育委員会委員 |
著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律執行規則第13条 | 仲介人 |
中小企業指導事業の実施に関する基準を定める省令第4条 | 診断を担当する者 |
中小漁業融資保証法第16条 | 漁業信用基金協会会員 |
中小企業金融公庫法第31条 | 公庫の役員 |
中小企業信用保険公庫法第27条 | 公庫の役員 |
通関業法第6条 | 通関業 |
通関業法第31条 | 通関士 |
鉄道事業法第6条 | 鉄道事業、索道事業 |
抵当証券の規則等に関する法律第6条 | 抵当証券業者 |
土地家屋調査士法第4条 | 土地家屋調査士 |
土地収用法第43条 | 土地収用委員及び予備委員 |
な 行 | |
日本中央競馬会法第13条 | 日本中央競馬会の役員 |
日本弁護士連合会、外国法事務弁護士記章規則第6条 | 外国法事務弁護士 |
日本銀行法第13条の4 | 政策委員会任命委員 |
日本輸出入銀行法第43条 | 日本輸出入銀行の役員 |
日本開発銀行法第42条 | 日本開発銀行の役員 |
農水産業共同組合貯金保険法第19条 | 農水産業共同組合貯金保険機構運営委員会委員 |
農林漁業金融公庫法第30条 | 公庫の役員 |
は 行 | |
陪審法第13条 | 陪審員 |
廃棄物の処理及び清掃に関する法律第7条 | 一般廃棄物処理業者 |
廃棄物の処理及び清掃に関する法律第14条 | 産業廃棄物処理業者 |
廃棄物の処理及び清掃に関する法律第14条の2 | 特別管理産業廃棄物処理業者 |
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第4条 | 風俗営業を営もうとする者 |
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第24条 | 風俗営業の営業所管理者 |
風俗環境浄化協会に関する規則第4条 | 調査員 |
不動産の鑑定評価に関する法律第16条 | 不動産鑑定士、不動産鑑定士補 |
不動産の鑑定評価に関する法律第25条 | 不動産鑑定業者 |
不動産特定共同事業法第6条、36条 | 不動産特定共同事業を営もうとする者 |
弁護士法第6条 | 弁護士 |
弁理士法第5条 | 弁理士 |
補償コンサルタント登録規程第6条 | 補償コンサルタント |
北海道東北開発公庫法第34条 | 公庫の役員 |
保険業法第15条の3 | 株式会社たる保険業の取締役 |
保険業法第60条、第62条 | 相互会社たる保険業の取締役、監査役 |
保険業法第279条 | 生命保険募集人及び損害保険代理店 |
ま 行 | |
前払式証票の規則等に関する法律第9条 | 第三者発行型前払式証票の発行者 |
民法1009条 | 遺言執行者 |
や 行 | |
有限会社法第32条 | 有限会社の取締役 |
ユネスコ活動に関する法律第11条 | 国際委員会委員 |
有価証券に係る投資顧問業の規制に関する法律第7条 | 投資顧問業 |
預金保険法第19条 | 預金保険機構運営委員会委員 |
ら 行 | |
旅行業法第6条 | 旅行業務取扱主任者 |
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律第6条 | 一般労働者派遣事業者 |
労働保険審査官及び労働保険審査会法第30条、第31条 | 労働保険審査会の委員 |
かなり表が長くなってしまいましたが、このうち公務員に該当する資格は「人事官」「国家公安審査委員会の委員長と委員」「公正取引委員会の委員長と委員」の3つだけです。
つまり、これ以外の公務員は自己破産手続きをしてもそれが原因で資格を制限される可能性はないということです。
たとえ官公庁のトップである事務次官であっても、あるいは内閣総理大臣であっても、自己破産をしながら職務を続けることは可能です(実際に内閣総理大臣が自己破産をしたら間違いなくニュースになるでしょうが……)。
なお、人事官人事院を組織する国家公務員の特別職で、定数は3人しかいません。公安審査委員会は法務局の外局の一つであり、委員長が1人、委員が6人です。
公正取引委員会は内閣府の外局で、委員長が1人、委員が4人です。つまり、自己破産をすると資格が制限される公務員は全部で15人しかいないというわけですね。
現在、日本には約400万人の公務員が居るので、全体の99.999%以上の公務員は自己破産をしても資格が制限されない、ということになります。
もちろん、家族や親族が自己破産をしても、難の問題もありません。そもそも、家族や親族とは言え結局は他人なのですから、それで仕事に支障が出るはずもないのです。
ただし、自身が自己破産に至った原因が「全体の奉仕者」たる公務員にふさわしくないものであると判断された場合は、懲戒の対象となることがあります。
といっても、浪費やギャンブルなどで懲戒の対象になることはまずありません。公務員の立場を利用して犯罪を行い、損害賠償を返済していたら返せなくなった、というのならば話は別ですが……。
共済組合からお金を借りている場合は要注意!
公務員のための相互扶助組織に、共済組合というものがあります。共済組合は組合員である職員が負担する掛金を財源とし、年金や貸付などを行っています。この貸付、基本的には銀行がやっているものとあまり変わりありませんが、金利が民間の銀行よりも安く設定されているため非常に便利です(原則2.66%)。
貸付の対象も自動車、住宅、子供の進学や就学、療養と幅広いうえ、借りる人が身分の安定した公務員だけなので与信審査も簡単といったメリットもあります。
しかし、共済組合からお金を借りると、当然共済組合が債権者になります。その状態で自己破産をすれば、当然債権者である共済組合にも連絡が行きます。
共済組合にバレるからと言って必ずしも職場にバレるとは限りませんが、共済組合と公務員の職場は距離が近い(役所だと総務や事務が共済組合の支部長を努めていることが少なくない)ため、バレる可能性はそれなりに高いです。
なお、自己破産はすべての債務をいっぺんに整理するものなので、共済組合だけを整理の対象外とすることはできません。
共済組合にもバレずに債務整理手続きをしたいのであれば、先に任意整理を考えたほうがいいかもしれません。任意整理は借金を選んで整理できるので、共済組合からの借り入れだけ返していくことも可能です。
公務員が自己破産すると退職金が一部差し押さえられる?
自己破産をすると、原則として20万円以上の資産は没収され、現金化を経て債権者に分配されます。では、将来もらえるであろう退職金はどうなるのでしょうか。
自己破産の際には退職金も債権の一つとみなされますので、支給見込額(現時点で退職した場合に支給されるであろう金額)のうち一部は没収となります。
ただし、退職金の内4分の3は法律で差押禁止財産に指定されているため、差し押さえられることはありません。
また、退職金債権は将来支給されるか、あるいはいくら支給されるのかが不透明であるため、原則として支給見込額の半分だけが没収されることになります。つまり、実際に没収されるのは退職金債権の4分の1のさらに半分、つまりは8分の1です。
ただ、公務員は退職金制度が整っているため、勤続年数が高いとその分退職金も大きくなります。統計によれば、都道府県職員の平均定年退職金は約2400万円です。
仮に自己破産した時点で退職金債権が1200万円分ある場合、150万円が没収されてしまうわけです。
しかし、退職金債権は将来もらえるお金であって、今もらえるお金ではありません。にもかかわらず、現時点で150万円が没収されてしまうのです。
自己破産をしようとしている人がいきなり150万円も用意するのはまず不可能です。なので、その150万円は分割で支払うことになります。
ただし、分割で支払っている最中は、自己破産手続きが終了しません。毎月3万円ずつ支払っていくとしても、150万円を払うには50ヶ月、4年以上かかります。
これは精神的にもかなりきついでしょう。もちろん、自己破産と同時に退職すればとりあえずお金は用意できますが、仕事がなくなってしまいます。面接でなぜ前職をやめたのか聞かれて、自己破産をしたためとはいいづらいでしょう。
個人再生だと借金はどうなる?
個人再生の場合でもやはり退職金債権の8分の1を支払わなければなりません。ただし、個人再生の場合は原則3年での支払いとなるので、月々の支払額が自己破産からの分割返済よりも安くなる可能性はあります。
判断が難しいので、弁護士の意見を聞いたほうがいいでしょう。
公務員こそしっかりライフプランを作成しよう
公務員は安定している立場だからと言って、ライフプランを考えずにただ漫然と消費と貯蓄を繰り返すだけでは、いつまでたってもお金が溜まっていきません。
しかし、公務員は原則として副業が禁止されているので、アルバイトはできません。投資はできますが、リスクがあります。そこでおすすめしたいのが共済貯金です。共済貯金とは前述の共済組合が実施している貯金制度です。民間会社の「社内預金」に相当する貯金制度ですが、共済貯金は社内預金や民間の銀行よりも金利がかなり高いというメリットがあります。共済組合によって金利はまちまちですが、例えば神奈川県市町村職員共済組合の場合は1.7%となっています。
民間の銀行よりは安全に、しかも高金利で預けられるので、安全に資産を増やしたいという方は検討してみてはいかがでしょうか。
公務員と不動産投資
もっとリスクをとってもいいと言う方には、不動産投資がおすすめです。公務員は副業禁止規定を守らなければなりませんが、不動産投資は原則副業ではなく投資とみなされるため、規定には抵触しません。
公務員は融資が受けやすい!
不動産投資を始めるに当たっては、融資を受ける必要があります。現金一括購入できるのならば話は別ですが、そんなにまとまったお金を用意するのは公務員といえども厳しいでしょうし、現金を貯めようとするとそれだけ時間がかかってしまいます。不動産投資は早く始めるに越したことはない投資なので、現金が貯まるのを待つよりも、借金をしてでも始めたほうがいいです。
通常、不動産投資に必要な額の融資を受けるのは簡単ではありませんが、公務員という職業は民間企業勤務と比べて信頼力があるため、融資を受けるのは難しくありません。
投資の規模が大きくなると副業禁止規定に抵触する可能性がある
原則として不動産投資は事業とはみなされませんが、一定の規模と事業とみなされ、副業禁止規定に抵触する可能性があります。ここで言う一定の規模とは、具体的には「5棟10室以下」です。
ただし、この基準を超えてしまった場合でも、許可を取れば副業禁止規定には抵触しません。管理は全て業者に委託する必要がありますが、利益は自分のものになります。
自己破産には気をつけよう!
公務員であろうが民間人であろうが、自己破産をしないに越したことはありません。普段から家計に気を配り、自己破産をしないような収支バランスを維持することが大切です。