科学技術の進歩には目覚ましい発展があります。プロと五角以上の戦いができるようになった将棋AI、人間以上に成功な動きを実現する医療用ロボット、無人で走る自動運転技術など……。
これらの多くの技術は発展途上にありますが、将来問題なく実用化できるほど活用できるようになれば、人間の生活はより快適で安全、なおかつ楽しいものになるでしょう。これまで人間が苦労してやっていたことを、全て機械にやってもらえるようになるのですから。
一方で、機械が新しく仕事をするようになると、それだけ人の仕事が減ります。2014年にオックスフォード大学でAIの研究を行うマイケル・A・オズボーン教授によれば、現状存在する702の職種のうち、47%は今後10年~20年以内に自動化される可能性が高いそうです。また、自動化はできずとも、より人件費が安い海外にアウトソーシングされる職種、現状すでに供給過剰でこれから淘汰が始まるであろう職種なども多数あります。
つまり、このまま行くと職を失う人が大量に発生する可能性があるわけです。コレは米国で行われた調査ですが、日本もそれとは無縁ではいられません。マイケル教授以外にも多くの専門家・研究者が同じような結論にたどり着いており、多くの職種が淘汰されていく可能性は極めて高いです。
一方で、なくなる職があれば生まれる職もあります。これまで3回に渡って起きた産業革命でも、無くなった職を穴埋めするだけの新しい職ができたため、結局人間の仕事はなくなりませんでした。
とはいえ、多くの人にとって、機械に現在の仕事を奪われることは脅威であるはずです。いくら人類全体の平均的な生活水準が上がっても、自分がその恩恵にあやかれなくては意味がありません。そこで今回は今後衰退していく業界と、今後伸びていく業界を紹介していきたいと思います。
10年~20年後に高確率でなくなる(減る)とされている業界
マイケル教授の予測
- 銀行の融資担当者
- 電話オペレーター
- レジ係
- ネイリスト
- 弁護士助手(パラリーガル)
- ホテルの受付
- 税務申告の代行者
- 簿記・会計の事務員
- 不動産ブローカー
- 動物のブリーダー
- 時計修理屋
- 図書館の補助員
- 塗装・壁紙張り
- 造園・用地管理の作業員
未来学者トーマス・フレイ氏の予測
- 漁師
- 農業
- 検査官
- 兵士
- 大工
- ロボット製造者
現代ビジネスの予測
- 電車の運転士・車掌
- レジ係
- レンタルビデオ店員
- 自然エネルギー関連
- 参議院議員
- 通訳・測器
- 訪問型営業
- 金型職人
- 中間管理職
- 受付・案内
- 生保レディ
- 交番の警察官
- 教師
- 一般事務・秘書
将来無くなる可能性が高い仕事の傾向
なくなる可能性の高い職種が多すぎて、まるですべての職種がなくなるのではないかと錯覚してしまいがちですが、もちろん実際には残る職種もあります。
マイケル教授もトーマス氏も概ね50%の職種がなくなる(つまり50%は残る)という点で一致しています。では、一体どのような職種がなくなっていくのでしょうか。
専門性が高いと言われる士業は意外と無くなる可能性が高い
上記の一覧の中には入っていませんが、弁護士や司法書士、会計士や税理士といった仕事は今後無くなる可能性が高いとされています。これらの職業は専門性が高く、簡単になれるものではないためなくならなそうな気もしますが、必ずしもそうとはいえません。
例えば、北ヨーロッパにあるエストニアという国(元力士の把瑠都の出身国)では、すでに会計士や税理士が消滅しています。
何故かと言うと、銀行口座を使った取引などを国がすべて把握しており、税金の計算なども自動的に行われるからです。つまり、法人も個人も確定申告という極めて面倒な作業を行わなくていいわけです。
エストニア政府は各行政機関がばらばらに持っていたデータベースを連携させるシステムを開発し、ICチップ入りのIDカードを配布することで、効率的で無駄のない行政を実現しているのです。
日本はこれほど行政機関の効率が良くないので(人口130万のエストニアと単純に比較できるものではありませんが)そのようなシステムの構築には至っていませんが、マイナンバー制度など少しずつ整備されている面もあります。また、会計士や税理士のやっていた仕事を代わりにやってくれる会計ソフトも多数登場しています。
流石に企業の多くはまだ税理士・会計士頼みですが、個人事業主の中には会計ソフトだけで確定申告を済ませている人が少なくありません。
年間1万円~2万円で済む会計ソフトと、年間10万円以上かかる税理士・介護士ではどちらのほうがお得かはいうまでもありませんね。同じような理由で、会計事務や経理事務なども今後はなくなる可能性が高いでしょう。
「士業のセンセイ」は増えすぎた?
また、士業は他業種と比べて供給過剰が顕著あることも士業のリスクを高めています。例えば、公認会計士は、2000年には約1万6600人だったのに対して、2014年には約34000人にまで増えています。その他、行政書士や社会保険労務士、税理士、弁護士などもその数を増やし続けています。
数が増えているのはそれだけ需要があるからでは?と思われるかもしれませんが、一概にそうとも言えません。需要があるのならば数が増えても各士業の所得は維持されるはずですが、実際には所得は下がっているからです。
たとえば、高給取りのイメージが強い弁護士ですが、彼らの所得の中央値(全弁護士を上から並べたときに、ちょうど真ん中に位置する人の所得)は、2008年には約1200万円だったのが、2014年には約693万円まで下がっています(日本弁護士連合会調べ)。
また、所得の平均値(全員の所得を足して頭数で割った所得)も、約1700万円から約900万円に下がっています。数が増えた分、一人あたりの稼げる額が減っているのです。
また、2014年時点の中央値(約693万円)と、平均値(約900万円)には200万円以上の差があります。一部の超高級取りの弁護士が平均を押し上げているのです。現状、かなり勝ち負けがはっきりしている業界であるといえます。今後も人気のある弁護士は所得を維持・伸長させていくでしょうが、一方で所得を減らす人もいるでしょう。
肉体労働はロボットに仕事を奪われる可能性が高い
トーマス氏は、農業や漁師、兵士や大工などの肉体労働が将来無くなる可能性が高いと考えています。理由は色々ありますが、一番大きな理由はそれらの仕事はロボットにやらせたほうがいいからです。
どんなに鍛えている人でも、当然24時間働き続けることはできません。休憩が必要ですし、経営者は休憩を取らせなければいけません。
一方、ロボットにはそのような休憩は必要ありません。もちろん定期的なメンテナンスや修理は必要になりますが、それでも人間よりはずっと長時間働いていられます。しかも、人間と違って一度買ってしまえばその後定期的に給料を払い続ける必要はありません。
今はまだそこまで高性能なロボットは完成しておらず、完成した直後は高すぎるという理由で導入をためらう企業が多いかと思いますが、大量生産できる体制が整い、価格が下がっていけば間もなく取って代わられることでしょう。
単純作業の置き換えはすでに始まっている
単純作業とは、例えば銀行の融資担当や電話オペレーター、窓口対応、レジ係などです。これらの職種は対人作業なので一見ロボットには難しいようにも思えますが、実際にはすでに一部の現場で無人化が始まっています。
例えばレジはお客さんが自分で手続きを済ませるセルフレジが増えてきていますし、銀行窓口業務の一部はATMが引き継いでいます。このような仕事は、処理能力が高く、計算も間違えず、人件費もかからない機械に任せてしまったほうが長期的に見ればお得だからです。
銀行の融資担当は一見複雑な業務に見えますが、実は融資手続きの大部分はマニュアル化されています。審査に関しても明確な審査基準があり、基本的には誰がやっても同じ結果になります。誰がやっても同じ結果ならば、機械に任せたほうが安くて間違いもなく安心です。
人がやりたがらない職種も危険
人がやりたがらない大変な仕事を3Kということがあります。3Kとはきつい、きたない、きけんの頭文字を取ったもので、例えば怪我や事故の危険性が高い高所での作業、農業などが該当します。
こうした職業は人がやりたがらない(人材供給が少ない)ため高い給料を用意しないとなかなか人が集まらないのですが、機会ができるようになれば多くの企業はそちらを導入するでしょう。
身近なところでは手洗いが洗濯機に、ほうきが掃除機に置き換わっています。農業も昔と比べると遥かに機械化が進行しており、ビルの中でLED照明を使って計画的に食物を栽培するような取り組みも進められています。
未来でもなくならないとされている業界
将来どんな仕事が無くなる可能性が高いのかを確認したところで、次にどんな仕事がなくならないのかを見ていきましょう。
- アートディレクター
- アウトドアインストラクター
- エコノミスト
- 学芸員
- 映画カメラマン
- 映画監督
- 経営コンサルタント
- 外科医
- 工業デザイナー
- コピーライター
- 作詞家
- シナリオライター
- 小学校教員
- 小児科医
- 心理学研究者
- 人類学者
- 精神科医
- 中学校教員
- ツアーコンダクター
- 日本語教師
- バーテンダー
- 美容師
- 評論家
- 保漫画家
- 幼稚園教員
- 料理研究家
- レストラン支配人
適当に抜粋しただけでも、コレだけの仕事が残るとされています(実際にはもっとたくさんあります)。これらの職種から全体的な傾向を見つけるのは簡単ではありませんが、全体的に人と深く関わる・人の話を聞いて最適な答えを考える職業が生き残る用に見えます。人によって出す答えが変わる、と言ってもいいかもしれません。
人間の微妙な心理の変化というのは、人間ですら簡単に捉えられるものではありません。それを機械が理解し、最適な答えが出せるようになるまでは、まだ相当な時間が掛かるでしょう。
しかし、ここに書かれている仕事が万全という保証もないですし、ある程度は機械の導入が進むことを覚悟しておいたほうがいいでしょう。
これから伸びると考えられている業界
技術革新が進むと消える業界がある一方で、新たに生まれる業界もあります。過去の3度に渡る産業革命の際には、いずれも機械が仕事を奪ってしまい人間の仕事は殆どなくなってしまうのではないかと心配されましたが、無くなった仕事を穴埋めするに近い分の仕事が生まれました。
ここでは将来伸びていくと考えられる業界を幾つか紹介したいと思います。
3Dプリンタを扱う印刷屋
将来有望な分野の一つに3Dプリンタを扱う印刷屋が挙げられます。3Dプリンタとは、紙などの平面ではなく、立体的に造形物を生成することができる装置です。2017年時点でも建築物の躯体の構造確認や医療用モデルの制作などに使われていますが、3Dプリンタはその価格が高く、扱いも難しく、まだまだ十分に普及しているとはいえません。
しかし、これから10年、20年と経つにつれて徐々に普及していくことはまず間違いないでしょう。それだけ立体的な造形物の生成には需要があるのです。
仮想通貨のアドバイザー
仮想通貨とは、国や政府に依存しない、デジタル上の通貨のことです(詳細:今さら聞けないビットコインのメリットとデメリット)。仮想通貨は法定通貨(円やドル、ユーロなどの通貨)と比べて決済にかかる時間が少なく、世界の共通通貨として使えるなど様々なメリットがありますが、一方で仕組みがわかりづらく、価格変動幅が大きいというデメリットもあります。
これらの仮想通貨について詳しく、個人や法人の投資家、あるいは仮想通貨での支払いの導入を考えている企業などに正しいアドバイスができるアドバイザーの需要は、今後増していくことでしょう。現状、日本でもすでに仮想通貨アドバイザーとして活動する人が増えてきています(外部サイト参考:仮想通貨アドバイザー三山健のブログ)。仮想通貨にとって馴染みがない人にとっては胡散臭く見えるかもしれませんが、彼らも資産アドバイザーの一種です。
都会の農家
農業は田舎でやるもの、というイメージが強いですが、将来は都会で農業をする人が増えると予測されています。狭くて高層建築物がいっぱいアルト会では無理だろう、と思われるかもしれませんが、垂直農法と呼ばれる技術がそれを可能にします。
垂直農法とは、その名の通り垂直方向に広がる農法のことです。通常、農業は地面と平行に畑を広げますが、垂直農法では高層建築物などを活かして縦に広げます。太陽光の代わりにLEDを使って農作物を育て、コンピュータで管理して育てていきます。
従来の農業と違って都会でも行えるため、農業をやりたいけれど田舎には行きたくないという人にとっては素晴らしい技術です。また、生産地と主な消費地の距離が短くなるため、より新鮮な状態で作物を届けられます。さらに建物内部で行うため建物外部で発生した豪雨や少雨などとも無縁になり、使う農薬も少なくて済みます。
アメリカでは現在、世界最大の垂直農場が建設されています。そのサイズは約6500万平方メートル、栽培がうまく行けば年間で約900トンものレタスと、その他様々な作物が収穫できる見通しです。
「ゴミ」の設計者
ゴミの設計者とは、将来発生するゴミが少なくなるように様々な製品を設計する専門家です。現状でもすでにこのような取り組みは様々な分野で進められていますが、将来的にはより重視されることになるでしょう。
ノスタルジスト
聞きなれない職業ですが、簡単に行ってしまえば、主に高齢者の過去の記憶を追体験するための環境を用意する職業です。
もはや時代の流れに対応できなくなった高齢者は、自分が変わることよりも、今までの人生で一番恵まれていた時代の思い出にひたることに集中します。彼らの思い出を換気させて、幸せにさせるのが仕事です。完全に過去を再現するというよりは、その過去を高齢者が思い出せることに力を入れます。
まとめ
- 今後10年~20年の間に、相当数の職種の淘汰が進む
- 一方で依然としてなくならない職種や、新たに生まれる職種もある
個人がいくら時代の流れに抗おうとしても、それは止まりません。必要ない仕事は淘汰されていくのです。まだ働く期間が長い若い人は、今の仕事が本当に長く続けられるものなのかを考えてみましょう。