借金の過払い請求にはデメリットもある!少額なら見逃すのも手

近年テレビやラジオなどでよく目にする、過払い金の請求を勧める弁護士事務所や司法書士事務所のCM。

確かに過払い請求自体は正当な請求であり、それを推奨することは間違いではないのですが、一方で過払い請求には相応のデメリットも有ることは余り知られていません。

ただお金が返ってくるという情報に釣られて過払い金請求をすると、却って損失を被ることにもなるのです。今回は過払い請求という制度の概要や歴史、さらにはメリットデメリットまで、過払い請求に関する知識をまとめて紹介したいと思います。

過払い請求は消費者金融に払いすぎた利息を返してもらう制度


過払い請求とは、過去に金融機関に対して払いすぎていた利息を返してもらう制度です。返してもらうお金のことは過払い金といいます。概ね2007年よりも前に消費者金融を利用していた人は、過払い請求ができる可能性が高いです。

そもそもなぜ過払い金が発生したのか?

2007年頃まで、多くの金融機関が法律で定められた上限金利よりもさらに高い金利で融資を行っていました。一体なぜ多くの金融機関がそんな金利で融資を行い、しかも行政処分などを受けなかったのでしょうか。

実は金利を決める法律には出資法と利息制限法という2つの法律があります。出資法は正確には「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」という法律で、かつては上限金利は29.2%と定められていました。

一方、利息制限法では、上限金利は15~20%(元本によって異なる)と定められていました。つまり、上限金利を決める法律が2つあり、しかもその2つの金利が一致していなかったのです。

そして、当時出資法には罰則がありましたが、利息制限法には罰則がありませんでした。そのため、武富士やアイフル、プロミスなど多くの消費者金融が利息制限法以上、出資法未満という金利(通称:グレーゾーン金利)で融資をしていたのです(銀行は元々低金利なので、利息制限法以上の金利で融資を行うことはありませんでした)。

利息制限法違反を正当化するみなし弁済制度

利息制限法とは別に、貸金業法という法律で、みなし弁済という仕組みが定められてました。これは「一定の条件を満たしている場合には、利息制限法を超える金利で融資を行っても良い」というルールです。

一定の条件とは「利息という認識で消費者が任意で支払っている」「出資法の上限を超えない」という2点です。罰則がない利息制限法と、みなし弁済という制度が、グレーゾーン金利を正当化していたのです。

平成18年の最高裁判決で状況が一変

しかし、平成18年1月に、最高裁は「債務者が利息制限法に違反する金利であることを認識しながら任意で支払った場合」を覗いては、利息制限法の規定を超過した金利は全て無効になる、という画期的な判決を下しました。

債権者がわざわざ「この金利は利息制限法に違反しているんですが支払ってくれますか?」と確認することはないですし、債務者が「わかりました、法律違反の金利でもいいので借ります」ということもありません。

つまり、実質的に利息制限法の規定を超過した金利は全て無効になってしまったわけです。

この判決後、まもなく貸金業法のみなし弁済制度は撤廃されました。利息制限法は改正され、違反した場合は処罰(行政処分)が下るようになりました。出資法も改正され、上限金利が29.2%から20%に引き下げられました。

さらに、今までグレーゾーン金利に相当する利息を払っていた人は、所定の手続きを行えばそれが取り戻せるようになりました。これが過払い請求です。

苦境に立たされる消費者金融

さて、この流れで困ったのは貸金業者です。今まで旧出資法(29.2%)に近い金利で貸し出して稼いでいたにも関わらず、急に法律が改正されて利息制限法(15~20%)の金利でしか貸し出せなくなってしまったのですから、当然利益は減ります。

一方で、グレーゾーン金利に相当する利息を支払っていた人たちからの請求は次から次へと舞い込んできます。

このダブルパンチで多くの消費者金融が苦境に立たされ、武富士に至っては倒産してしまいました。

まあ彼らは元々利息制限法に違反した融資を行っていたわけで、倒産するのも利益が減るのも自業自得にすぎないわけですが、ともかくこのような流れで、過払い請求ブームが出来上がったわけです。

なぜ最近過払い金請求のCMをよく目にするようになったのか?

理由は大きく分けて2つあります。1つは過払い金請求という仕事が弁護士や司法書士にとっておいしい仕事であるため、もう一つはもうすぐ過払い金請求の時効が来てしまうためです。

まず、過払い請求は弁護士や司法書士にとってはとても美味しい仕事です。過払い請求は他の仕事と違って、所定の手続きを行えば確実に勝てる勝負です。

その所定の手続きというのも弁護士や司法書士にとっては非常に簡単なものであり、事実上ルーティーンワークで金が入っている仕組みを手に入れたようなものでした。

過払い請求をするような人はお金に困っている人だから、弁護士報酬を取りっぱぐれることがあるんじゃないの?と思われるかもしれません。

しかし、通常弁護士報酬は過払い請求で取り戻せたお金の中から支払われる(通常は取り戻せた金額の20%程度が弁護士報酬になる)ので、その心配はありません。

このような成果報酬型の仕事は失敗した時に報酬が入ってこないというリスクがあるのですが、前述の通り過払い請求は確実に勝てる勝負なのでその心配もありません。

弁護士としての深い知識は必要なく、ほぼ確実に報酬になり、しかも依頼者はたくさんいる。このような仕事が突如生まれ、弁護士業界は沸き立ったわけです。

過払い請求ブームは終焉間近

過払い請求には時効があります。この時効が終わってしまうと、たとえ過去に何百万円過払い金を払っていようが、1円たりとも取り戻せなくなってしまいます。

過払い請求の時効は、その借金を完済した日から10年です。

多くの消費者金融は2007年に金利の引き下げを行っているので、2008年以降に契約・借り入れをした人は過払い金を支払っていません。従って、過払い金請求もできません。

2007年以前に契約・借り入れをした人は、その契約が終了してから10年以内ならば請求ができますが、消費者金融からは通常そこまで長期間借り入れないのが普通です。

そのことを考えると、2017年~2018年あたりで、ほぼすべての人が請求権を失うことになります。

これは弁護士業界から見れば由々しき事態です。かつてのドル箱がなくなってしまうのですから、当然焦ります。

だからこそ、ブームが完全に終了する前になるべく多く稼いでおこうと、多くの弁護士事務所がわざわざお金をかけてテレビやラジオでバンバンCMを流しているわけです。

過払い請求でお金がたくさん戻ってくる条件

過払い請求は過去にグレーゾーン金利に基づいて支払っていた利息を取り戻す手続きなので、当然グレーゾーン金利が横行していた時代、つまり概ね10年以上前に借り入れを行っていた人しか行なえません。

より昔に借りていた人ほど、取り戻せる過払い金は多くなります。

また、利息というのは元金に対して発生するものなので、借入額が大きかった人ほど過払い金も多くなります。昔に多額の借金をしていた人は、過払い請求で大金が戻ってくる可能性が高いです。

逆に借り入れを行っていた時期が最近だったり、借金の額が少なかったりした場合は、多額のお金が戻ってくることは期待できません。

貸金業者がすでに倒産している場合は?

過去にどれだけ過払い金を支払っていたとしても、その貸金業者がすでに倒産している場合、過払い請求をするのは難しいでしょう。

貸金業者が破産手続に入った場合、その業者の資産は破産管財人という人が管理することになります。破産管財人は資産を債権者に分配し、会社を解消します。

資産が配られたあとで請求をしても、ほとんど何も返ってこない可能性が高いです。武富士などのすでに倒産してしまった貸金業者でお金を借りていた人は、残念ですが諦めたほうがいいでしょう。

過払い請求の大まかな流れ

過払い請求は自力で行うこともできますが、その手間を考えると弁護士や司法書士などの専門家に任せてしまったほうがいいでしょう。

弁護士や司法書士と一口に言ってもその得意分野は様々です。当然、相談すべきは過払い請求に詳しい弁護士や司法書士です。インターネット上の評判などを見て、依頼する専門家を決めてください。

依頼を受けた専門家は取引履歴にもとづいて、法定金利に基づいた引直計算を行い、過払い金をいくら払っていたのかを計算します。

取引履歴の開示請求は債務者本人が行います。業者に開示請求を断る権利はありませんので通常は問題なく開示できるはずですが(開示には1~2ヶ月程度かかります)、業者によってはそれを渋る可能性があります。その場合は専門家に相談の上、対策を考えます。

次に、専門家は貸金業者に対して過払い金の返還請求書を送付し、電話や書面にて返還交渉を行います。交渉に応じてもらえた場合は、合意書を交わして過払い金の変換を受けて終了です。特に何事もなかった場合、大体4ヶ月程度で手続きは終了します。

返還請求に貸金業者が応じなかった場合は?

返還請求に業者が応じない場合は、仕方がないので訴状を裁判所に提出し、訴訟をおこすことになります。裁判所から貸金業者(被告)に訴状が送られ、口頭弁論が行われます。

何度か口頭弁論が行われた後、通常は裁判所から和解が勧告されます。和解がまとまればそれでOKですが、まとまらない場合は裁判所が判決を下します。貸金業者が支払に応じない場合は,強制執行の手続が必要になります(実際に強制執行に発展する可能性はほぼ0です)。

過払い金が100%帰ってくる保証はないが、それ以上戻ってくることも

過払い金請求をしても、過去にグレーゾーン金利で支払っていた利息が全て返ってくることは余りありません。訴訟を起こせば満額が回収できることが多いのですが、時間がかかります。

一方、和解の場合は7割~9割程度の回収にとどまることが多いですが、そのかわり早期に解決ができます。

どちらも一長一短ですが、訴訟を起こすと弁護士報酬もその分増えてしまいますし、なにより精神的に疲れますので、面倒を避けたい場合は8割程度の和解に応じてしまったほうがいいかもしれません。

ただし、訴訟を起こすと返しすぎた分に金利が上乗せされて返ってくることもあります。あなたが貸金業者に対して払いすぎていた利息は、あなたが貸金業者に対して貸していたお金とみなされるためです。

訴訟に発展すると、過払い金の満額に5%程度の上乗せでの和解を貸金業者の方から提示してくることが多いです。徹底的に業者から回収したいという場合は、訴訟をおこすのも選択肢に入ります。

過払い金には原則税金はかからないが、100%以上戻ってくる場合は別

過払い金は元々自分のお金ですから、それが返ってくることになったとしても税金はかかりません。ただし、過払い金の100%以上の支払いが行われる場合は、その超過分は雑所得という扱いになり、税金の対象となります。

過払い請求にはデメリットも存在する

過払い請求にはいくつかのデメリットもあります。まず、一番のデメリットは、いわゆるブラックリストに掲載されてしまう可能性があることです。

ブラックリストってなんだ?

今の日本には、個人の信用情報(借金の履歴や返済歴などの情報)を管理する信用情報機関という機関があります。返済が遅れたり、債務整理をした場合は、信用情報機関にそのことが登録されます。

各金融機関はローンの審査の際に、信用情報機関の情報を参照し、融資するかしないかを決めます。返済遅れや債務整理などの情報がある場合は、当然融資は受けられません。

そして、この信用情報機関に返済遅れや債務整理に関する記録が記録されることを「ブラックリストに載る」といいます。

ブラックリストに載った情報は一定の期間を経て削除されますが、削除されるまでの期間は原則としてどこの金融機関からもお金は借りられないものと思ってください。

債務が残っているのに過払い請求をするとブラックリストに載る可能性あり

現在すでに借金を返し終わっている場合は、過払い請求をしてもブラックリストに載ることはありません。ブラックリストは信用情報を記録するためのものであり、過払い請求は信用情報とは関係ないからです。

しかし、現在返済中で、なおかつ残債が過払い請求額よりも多い場合はブラックリストに載せられてしまう可能性があります。

ブラックリストに掲載された場合、5年~10年は新たな借入ができなくなってしまいます。近い将来に住宅ローンや自動車ローンなどを組みたいと考えている場合は、残債が過払い請求額よりも少なくなるまで返済を続けてから請求しましょう。

その貸金業者からは原則として二度とお金を借りられない

過払い請求をした場合、原則としてその貸金業者からはお金が借りられなくなります。業者によってはそのまま使えることもありますが、例としては多くありません。

もちろん、その貸金業者以外からは今までと同じように借りられます。自分に余分に利息を支払わせていたような貸金業者からまた借りたいというような人はいないでしょうから、これは大したデメリットにはならないかと思います。

借金していたことが周囲にバレる可能性がある

過払い請求をすると、過去に自分が借金をしていたことが家族や友人にバレてしまう可能性があります。もちろん借金をすること自体は悪いことではなく、問題なく返済できていれば困らないはずですが、人によっては借金すること自体を嫌悪する人もいます。

家族にバレずに過払い請求をする場合は、専門家にそのことを伝えた上で手続きを進めたほうがいいでしょう。

個人で行うと裁判所からの郵便物などが全て自宅に届くため、そこからバレる可能性があります。専門家に任せれば郵便物は専門家の事務所に届くため安全です。

時間がかかり精神的にも疲弊する

過払い請求の手続きは基本的には専門家が進めてくれますが、ある程度は彼らと連絡を取り合わねばなりません。これは精神的に結構疲れます。過払い金の額が少額な場合は、請求しないほうがいいかもしれません。

過払い請求詐欺に注意!


過払い請求ができるのは弁護士と司法書士だけです。弁護士と司法書士以外に過払い請求の相談をしてはいけません。

また、知らない相手から突然電話で過払い請求などを進められた場合は、当然その話に乗ってはいけません。相手はおそらく詐欺師です。請求をする場合も、自分で見つけた弁護士や司法書士に相談すべきです。

ただし、弁護士や司法書士なら必ず信頼できるかというとそうとも限りません。過払い金を着服されたり、勝手に大幅な減額に応じたりしうる可能性もあるからです。必ず事前に事務所に自ら面会に行き、信頼できそうな人間化を確認した方がいいでしょう。

まとめ

  • 過払い請求をすると過去に払いすぎた利息が戻ってくる
  • 過払い請求は専門家に任せたほうが良い
  • 過払い請求が完了するまでには4ヶ月程度の時間がかかる
  • デメリットも在るので手続きは慎重に進めるべき

お金が戻ってくるからと言って、過払い請求に安易に飛びつくのはおすすめできません。メリットとデメリットを十分比較した上で、手続きを進めていきましょう。