140万円以下の債務整理は弁護士ではなく司法書士が有利!?

任意整理や自己破産などの債務整理を行う際には弁護士の力を借りるもの、というイメージをお持ちの方は多いかと思います。

実際その通りなのですが、債務の額が140万円以下の場合は弁護士だけでなく司法書士に任せることも可能です。

司法書士は弁護士と比べて報酬相場が低めに設定されているため、債務の額が少ない場合は司法書士に任せたほうがいいケースも少なくありません。

一方で弁護士ならではのメリットも少なからず存在するため、価格だけを見て安易に司法書士に飛びつくのは危険です。今回の記事では司法書士と弁護士の請け負える業務の違い、司法書士に任せるメリットやデメリットなどを紹介していきます。

弁護士と司法書士は本来全く別の資格である

弁護士は、司法試験に合格し、司法研修所を卒業し、弁護士会に登録した者の総称です。弁護士、検察官、裁判官をまとめて法曹と呼びます。

弁護士は法律全般について高度かつ広範な知識を持ち、行政からの不当な介入を受けずに権利救済活動できることになっています。

一方、司法書士は司法書士試験に合格し、司法書士会に登録した者の総称です。司法書士の仕事は登記・供託業務です。司法書士は行政庁の一つである法務省の監視下にあり、行政からの介入は拝されていません。弁護士の仕事のほうが、より広範に渡っているといえます。

弁護士と司法書士の最大の資格は「代理人」になれるか否かです。弁護士は依頼者の代理人として様々な手続きをすすめることが出来ます。

例えば、自己破産や個人再生の申し立てをすると裁判所で裁判官との面談が行われますが、弁護士はこれに同席する資格があります。一方、司法書士にはそのような資格はありません。あくまでも書類を作成するのが司法書士の役割です。

弁護士不足で司法書士の仕事の幅が広がった

本来、法律関係の業務はすべて弁護士が行うべきものなのですが、昨今の弁護士不足に伴い、平成28年6月27日の判決により、法務省で研修・考査を受け、法務大臣の認定を受けた司法書士は「認定司法書士」として、従来は弁護士だけが行えた法律業務を扱えるようになりました。

ただし、認定司法書士は弁護士と違って能力の担保に乏しいため、ごく簡単かつ定型な事件しか扱うことが出来ません。

認定司法書士と弁護士の違い

認定司法書士には以下のような権限が与えられます。

  • 140万円以下の民事事件の相談・交渉・和解
  • 簡易裁判所の訴訟代理

逆に言えば、これ以外のすべての事件は扱えません。たとえば前述の裁判所への出頭は上記のいずれにも含まれませんので、司法書士に代理人として行動してもらうことは出来ません。

書類の作成は任せられますが、実際に裁判所に行って話すのは自分でやらなければなりません。ある程度自分でやってもいいという場合は司法書士を選んでもいいですが、全て任せたいという場合は弁護士の方がいいでしょう。

また、借金の額が140万円を超えている場合も、司法書士に任せることは出来ません。ここで言う借金の額は借金の合計額ではなく、個別の借金の額のことです。

例えば、A銀行から100万円、B銀行から100万円、C銀行から200万円借りている場合、A銀行とB銀行の任意整理は司法書士に任せられますが、B銀行のは任せられません。

任意整理以外の債務整理は弁護士に任せたほうがいい

現在、日本で使える債務整理は以下のとおりです。

  • 任意整理:債務者と債権者の話し合いによって債務を減らす(主に将来の利息をカットする)手続き。裁判所は関知しない。
  • 特定調停:裁判所を通して債務を減らす。減額幅は任意整理とほぼ同じ
  • 個人再生:裁判所を通して、原則として借金を5分の1にする手続き。
  • 自己破産:裁判所を通して原則として借金を0にする手続き。高額な財産没収などデメリットが大きい

4種類の債務整理のうち、任意整理は私的な手続きで、残りの3つは裁判所を通した手続きです。司法書士は任意整理の代理人になることは出来ますが、特定調停・個人再生・自己破産の申し立ての代理人になることは出来ません(書類作成の代理人になることは出来ます)。

これらの手続きを選んだ場合、裁判所からの指示・連絡はすべて申し立て者本人に来ることになります。

また、司法書士に依頼しても裁判所から再生委員(弁護士)が専任されることもあり、その場合はどっちみち弁護士費用を自分で支払うことになります。この二度手間を考えると、任意整理以外の場面では弁護士を選んだほうがいいでしょう。

一方、任意整理の場合は司法書士が直接代理人になることが出来ますので、司法書士に任せてもほとんどデメリットはありません。弁護士に任せるよりも少ない報酬で終わる可能性が高く、メリットのほうが大きいとすらいえます。

いくら安くなるかはケースバイケースなので一概には言えませんが、債務の額が100万円の場合、10万円くらいは安くなる可能性があります。債務整理をしようとしている人は懐に余裕が無いはずですから、司法書士への依頼も検討して見るといいかもしれません。

任意整理の費用相場

司法書士の報酬は司法書士が自由に決められることになっていますが、実際には相場というものが存在し、そこから上下に大きく逸脱した料金がつけられることは殆どありません。料金体系は概ね弁護士と同じで、

  • 相談料(0~1万円)
  • 着手金(0~3万円)
  • 基本報酬(2万円~3万円/社)
  • 減額報酬(減額幅の10%)

の4つから成り立っています。

相談料は債務整理について司法書士に相談する際に発生する費用の総称です。最近は相談料無料の司法書士が多いのですが、有料の司法書士もいるため、事前に確認しておくといいでしょう。

着手金とは、司法書士に業務を依頼するときにかかる費用です。司法書士が仕事に成功したか、失敗したかにかかわらず、必ず支払わなければなりません。

弁護士事務所の場合は債権者数×1~2万円程度の着手金を取られることが多いのですが、司法書士の場合は着手金無料のところが多いです。着手金有りの司法書士を選ぶならば、着手金ありの弁護士を選んだほうがいいです。

基本報酬とは、任意整理が成功した際にかかる費用です。着手金と違い、仕事が成功したときにのみ費用が発生します。相場は1社につき2~3万円です。

減額報酬は、債務の減額幅に比例する成功報酬です。相場は減額幅の10%です。例えば、任意整理をすることによって債務が50万円減額した場合、減額報酬は5万円となります。

相談料、着手金、基本報酬、減額報酬をすべて加算したものが司法書士に支払う費用となります。

例えば、相談料無料、着手金無料、基本報酬が1社3万円、減額報酬が10%の司法書士に任意整理を依頼し、3社合計で60万円の減額に成功した場合、基本報酬は3万円×3社=9万円、減額報酬が60万円×10%=6万円なので、司法書士に支払う費用は15万円となります。減額幅が60万円なので、差し引き45万円のプラスとなります。

どの債務整理を選ぶべきか?の判断基準

前述の通り、債務整理には「任意整理」「特定調停」「個人再生」「自己破産」の4種類があります。

この4つは債務の圧縮幅や手続きの煩雑さ、手続きを行ったことによるデメリットなどが違うため、適切なものを選ぶ必要があります。では、具体的にはどのような基準で選べばいいのでしょうか。

実質的な選択肢は「任意整理」「個人再生」「自己破産」の3種類

まず、置かれている状況にかかわらず、特定調停は選択肢から外したほうがいいでしょう。手間がかかる上に借金の減額幅が小さく、総じて任意整理の下位互換となりがちだからです。

特定調停自体が意味のない手続きというわけではありませんが、特定調停が有効な場面では任意整理のほうがより有効なので、わざわざ特定調停を選ぶ意味が無いのです。

借金が少なければ任意整理、多ければ個人再生や自己破産が基本

次に、借金の額を見ていきます。基本的には借金が少なく返済が少しだけ厳しい場合は任意整理、借金額が多く返済が非常に厳しい場合は個人再生や自己破産を選ぶのが基本です。

任意整理は将来の利息の支払いをカットする手続きであるため、返済が大きく楽になるわけではありません。現時点で少しだけ支払いが苦しい、あるいは現時点ではそうでもないが将来苦しくなりそうという人が選ぶ手段です。

一方、個人再生は原則として借金が5分の1に、自己破産は借金が0になる手続きで、その効果は任意整理よりも遥かに大きいです。借金の額が大きく、現時点でも支払いが非常に苦しい場合は、個人再生や自己破産を選んだほうがいいでしょう。

個人再生や自己破産はデメリットも大きいので安易に選ぶべきではない

個人再生や自己破産の方が借金の減額幅が大きいのならば、任意整理を選ぶ意味は無いのではと思われるかもしれませんが、個人再生や自己破産はデメリットも大きいため、安易に選ぶと後悔することになります。

まず、個人再生や自己破産では、原則として借金を選んで整理することが出来ません。

個人再生の場合は例外的に住宅ローンだけは整理の対象外に出来ますが、それ以外の借金は選んで整理できません。そのため、担保付きで借金をしている場合は、その借金も整理されてしまい、担保は没収となります。

一方、任意整理は借金を選んで整理できます。銀行のカードローンは整理するけれど、自動車ローンは整理しない、といった柔軟な対応ができるのは、任意整理の強みです。

また、債務整理を行うと、その情報が信用情報機関にまとめられます。信用情報機関とは各金融機関が所属している、顧客の信用情報(借金の額、ローンの申込状況、返済事故の有無など)を集め、必要に応じて金融機関に開示している機関です。

各金融機関は、信用情報機関の情報を元に、顧客が過去に返済事故を起こしていないか、現時点で借りすぎていないかなどを確認します。

よく「ブラックリストに掲載される」という言い回しをすることがありますが、あれは正確には信用情報機関に返済事故情報が掲載されることをいいます。

一定期間経つとその情報が削除されるため、また審査が受けられるようになります。

信用情報機関に掲載される期間は任意整理の場合は5年以内になることが多いですが、個人再生や特定調停の場合は5年~10年となることが珍しくありません。将来住宅ローンや自動車ローンなどの高額なローンを組みたいと考えている場合は注意が必要です。

また、あまり大きなことではありませんが、個人再生や自己破産をした場合、官報にその情報が掲載されます。官報は国が発行している機関誌で、政府や省庁の決定事項などが掲載されます。官報には手続きをした裁判所、手続きをした日時、破産者の名前と住所が掲載されます。

官報自体は非常に存在がマイナーなものであり、一般人が見るようなものではないため過剰に心配する必要はありませんが、中には仕事の都合で日常的に官報を見る人もいます(市役所の税担当者、金融機関の融資担当者など)。知人にこのような仕事をしている人がいる場合、注意が必要です。

認定司法書士の探し方

司法書士のうち、任意整理を扱えるのは、認定司法書士のみです。認定司法書士を利用したことがある人が身近にいる倍はその人に紹介してもらうのもいいですが、そのような境遇にある人は少ないでしょう。

司法書士とのつながりがないという人が初めて司法書士を探す場合は、各都道府県の司法書士会のホームページから検索するのが最も簡単かつ迅速です。

検索システムは都道府県ごとに違いますが、例えば神奈川県司法書士会の場合は、地域や相談分野などから絞って検索することが出来ます。

良さそうな司法書士が見つかったら、次にその司法書士の所属している事務所のホームページを閲覧してみましょう。ホームページがない場合は直接話しを聞きに行ってもいいですが、他に選択肢がありそうな場合は後回しにしてもいいでしょう。

ホームページがない司法書士よりはある司法書士のほうがとりあえずは信頼できるからです。

なお、司法書士会に直接紹介してもらうのはおすすめできません。紹介してもらうこと自体はできるのですが、強制団体である司法書士会は会員を平等に扱う必要性があるため、紹介制度は形式的かつ機械的なものにとどまっています。

このような環境下で、自分にとって良い司法書士を紹介してもらえる可能性は高くありません。

司法書士の実績をチェックしよう

司法書士事務所のホームページで初めにチェックするべき部分は、今までの司法書士の実績です。過去に任意整理を扱った件数が多いほうが信頼できる可能性は高いです。件数だけでなく、具体的にどのような事例を扱ったのかまで書いてあれば信頼度は更に増します。

逆に任意整理に関する実績の記述がない場合は、避けたほうがいいでしょう。ただ、司法書士の名誉のために言っておくと、実績に任意整理に関する記述がない司法書士は「任意整理の経験はないが、他に得意分野がある司法書士」であって、「無能な司法書士」ではありません。

むしろ「なんでもできる」と謳っているような司法書士の方が危険です。人にこれが得意だと胸を張って言える分野がないからこそ、なんでもできると書いているだけの可能性が高いです。

また、ホームページ内に学歴や業界団体などに関する経歴がずらずらと記載されているような司法書士はあまりおすすめしません。高学歴を取得するための能力と、司法書士にとって必要な能力は別物だからです。

料金設定を確認しよう

次に確認すべきところは、料金設定のページです。司法書士の仕事には前述のような相場というものが存在します。この相場から大きくハズレた設定をしている司法書士は要注意です。

高いところはもちろん避けるべきですが、安すぎるところも危険です。ほかの司法書士と同じ料金ではお客さんが来ない(それほど能力が低い)から料金を安くしている可能性が高いです。

また、料金体系が「●●円~」といった感じで記載されている場合も要注意です。上限が明言できないのはある程度仕方のないことではありますが、追加費用が発生する場合にどのような費用がどれくらいかかるかについての記述すらないような司法書士に依頼した場合、費用が跳ね上がる可能性があります。

口コミサイトを見てみよう

実際に司法書士に仕事を依頼した人が集まる口コミサイトには有益な情報が集まっています。口コミサイトはいくつかありますが、最も規模が大きくて使いやすいのは「司法書士事務所・検索&口コミ」です。

司法書士事務所を条件や目的、地域などから探すことができるので非常に便利です。任意整理に強い司法書士を探したい場合は、トップページの「条件・目的別から探す」をクリックし、「債務関係」をクリックすればOKです。

また、意外と役に立つのがGoogle Mapの口コミです。まず、GoogleMapのトップページを開いて、「司法書士事務所」と検索します。すると表示されていた地域の司法書士事務所が複数表示されます。口コミが投稿されている事務所は画像のように星が表示されていますので、それを参考にしましょう。

なお、このような口コミサイトはあくまでも匿名の人物が投稿した意見を集約しているだけのサイトであり、情報が正しい担保はありません。書かれていることをすべてうのみにするのはやめましょう。

電話してみよう

口コミなどをみて良さそうだと感じたら、まずは電話してみましょう。比較的小規模な事務所の場合は司法書士本人が出ることもありますが、基本的には事務員が出るはずです。どちらにせよ、あまり元気がなさそうな相手の場合は避けたほうがいいでしょう。士業や事務員が愛想なしでは困ります。

話の内容にもきちんと耳を傾けましょう。電話では伝えられることも限られていますが、その中でこちらの話をきちんと理解してくれる相手ならば言うことはありません。逆にこちらの話をろくに聞かず、自分が話したいことだけを話してきた場合は、他の事務所に改めて相談した方がいいでしょう。

いきなり電話は気が引ける、という場合は、メールでも構いません。むしろそちらのほうが落ち着いて相談したいことをまとめられるので、人によってはいいかもしれません。この際、変身にあまりに時間がかかりすぎる司法書士事務所は避けたほうがいいでしょう。忙しすぎてあなたにまで手が回らない可能性があります。

実際に会いに行ってみよう

大抵の司法書士は無料相談を受け付けていますので、話を聞きに行ってみましょう。そこでの態度なども、意外と重要なポイントです。結構大きな仕事を任せるわけですから、いかにもやる気のなさそうな態度の人は信頼できません。

また、こちらの質問に対して、素人に理解しやすいように適切な答えを返してくれるかもよくチェックしましょう。なんでも言うことを聞いてくれる司法書士よりは、間違っていることは間違っていると言ってくれる司法書士の方が信頼できます。そのうえで、より良い解決法を提案してくれる司法書士ならば最高です。

事務所を見てみよう

話を聞くついでに、事務所の中もそれとなく見渡してみましょう。過剰に整理されている必要はありませんが、あまりにも汚すぎる事務所は避けたほうがいいでしょう。

司法書士は非常に大量の書類を扱う仕事です。その中には他人から預かったものもあります。そうした書類を丁寧に扱っていない司法書士は信頼には値しません。司法書士の事務員についてはある程度の数がいるに越したことはありませんが、数の多寡だけ気にしていても仕方ありません。

費用について聞いてみよう

料金体系についてはすでにWebサイトで調査済みですが、念のために直接会ってもう一度聞いてみましょう。詳しい相談をすれば、かなり詳細な費用を提示してくれます。あまりにもアバウトすぎる司法書士は避けたほうがいいでしょう。

ただし、この時点では1円単位まで正確に計算することは出来ません。どんな書類が必要か、金融機関との交渉にどれくらいかかるか、そこに向かうまでの交通費はいくら掛かるかなどかはまだわからないからです。見積もりの段階でそこまで求めるのは行き過ぎです。

まとめ

  • 少額の債務整理は認定司法書士に依頼することも可能
  • 任意整理以外の債務整理ならば弁護士に任せたほうが良い
  • 司法書士に支払う費用は弁護士に支払う費用より安くて済むこともある
  • 司法書士の料金体系は基本的に弁護士と同じだが、着手金無料のケースが多い
  • 司法書士は各都道府県の司法書士会のウェブサイトから探すのが手っ取り早い

任意整理をしようと考えている時は、たいてい手元にお金がないものです。そのようなときに認定司法書士は心強い味方になってくれます。任意整理を考えている方は、弁護士だけでなく司法書士の活用も視野に入れましょう。