親が亡くなるとやれ葬式だの市役所への届け出だのと、やることが次々と舞い込んでくるのでバタバタしてしまいがちです。そんな中でも絶対に忘れてはいけないのが、親の借金の有無のチェックです。
何も考えずに相続をしてしまい、後から親の借金が明らかになって困った経験をしたことがある人は実は少なくありません。この記事では亡くなった親の借金をチェックする方法と、借金があることがわかった時に取るべき手続きについて解説します。
目次
相続は死んだ人の義務と権利を受け継ぐ手続き
そもそも相続とは、ある人が死んだ時、その人が持っていた財産に関する権利と義務を引き継ぐ手続きのことです。
戦前は生きている人が「隠居」をすることによっても相続が開始したのですが、現代においては誰かが死亡しないかぎり相続が発生することはありません。相続の対象となるのは通常、配偶者と子供です。
相続は3ヶ月何もしないと自動的に行われる
相続は通常、自動的に行われます。親が死んだ後、何の手続きもしないでいると、自動的に相続をさせられてしまうわけです。
親に借金が無かったり、あるいは借金があってもそれ以上にプラスの財産があるときはそれでも良いのですが、借金のほうが多い場合は相続放棄(プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がない手続き)もしくは限定承認(プラスの財産の範囲で借金を引き継ぐ手続き)をしなければなりません。
相続放棄いや限定承認の手続きは通常、3ヶ月以内に行わなければなりません。3ヶ月の起算点は「相続があることを知った日」です。
例えば、親が亡くなったのが1月1日でも、それを知ったのが2月1日ならば、相続放棄及び限定承認の締切日は5月1日となります。なお、この決まりには例外があります。詳しくは後述します。
借金は信用情報機関に問い合わせよう
さて、相続放棄や限定承認をするかしないかを決めるためには、まず親の財産状況を把握する必要があります。プラスの財産、例えば不動産や預金などを調べることも大切ですが、それと同じくらい大切なのが借金の把握です。
いくらプラスの財産が多くても、それを上回るほど借金が合っては相続する意味がありません。うちの親には借金はないから……と思っていても、生前に子供に隠れて借金をしている可能性が否定出来ない以上、借金の調査は必ず行うべきです。
借金の調査をしたい場合は、まず信用情報機関に問い合わせてください。信用情報機関とは、個人の借金や返済履歴、返済時この有無などの情報がまとめられた民間の組織です。
金融機関は通常、借金の申し込みがあった場合に個々の情報にアクセスすることによってその人の借金の履歴を調べますが、金融機関と関係ない個人でも借金の履歴は調べられます。
ただし、亡くなった親の借金を調べる場合は、親が亡くなっていることを証明する書類、及び親との関係性を示す書類が必要になるので注意が必要です。
現在、日本には「日本信用情報機構」「シー・アイ・シー」「全国銀行協会」の3つがあります。必ず全部の信用情報機関に問い合わせを行ってください。
団体信用生命保険に加入していた場合、借金はチャラになる
なお、親が生前住宅ローンを組んでいて、なおかつ団体信用生命保険に加入していた場合、住宅ローンの借金はチャラになります。団体信用生命保険は、生命保険料を納付することによって、住宅ローンを組んでいた人がなくなった場合にそれをチャラにする保険です。
債務者が住宅ローンを遺してなくなった場合、残債と同額が遺族に支給され、債権者に支払われます。殆どの住宅ローンは契約の際に団体信用生命保険への加入を義務付けています。
親が連帯保証人になっていたら原則それも引き継ぐ
生前に親が誰かの連帯保証人になっていた場合は、それも引き継ぐことになってしまいます。たとえ借金を残していなくても、誰かの連帯保証人になっていた場合は将来借金を背負わされる可能性があるということなので、相続には慎重になるべきです。
ただし、連帯保証人になっていたとしても、必ずしも相続されるわけではないのですぐに相続放棄を選択してしまうのも避けるべきです。
まずは、親が誰かの連帯保証人になっていなかったかをチェックしましょう。まず、家の中をくまなく探して「金銭消費貸借書」を見つけてください。
もし金銭消費貸借書が見つかって、金融機関から借金をしている人の連帯保証人になっていたことが明らかになった場合は、相続放棄をしないかぎり連帯保証人の地位を相続してしまうことになります。
また。不動産契約で部屋を借りる際に連帯保証人を求められるケースも有りますが、親がこういった連帯保証人になっていた場合も、やはりその地位は相続されてしまいます。相続をした後、借り主が家賃を滞納した場合、滞納家賃の肩代わりを求められるケースが有ります。
身元保証の場合は、相続は起こりません。身元保証とはある人が誰かに損害を与えた場合に、身元保証人が損害を賠償すると負いう契約です。通常は雇用契約に付随して行われます。
雇い主が被用者によって損害を受けた場合、身元保証人がひよ数者に変わって損害賠償を行います。これに関しては例外的に相続の対象とならないので安心です。
相続放棄は家庭裁判所で
相続放棄はそこまで難しい手続きではありません。相続放棄申請書という書類を作成して、家庭裁判所に提出すればOKです。逆に言うと、これ以外の方法では一切相続手続きはできませんので注意が必要です。
まずは提出先の家庭裁判所を調べましょう。家庭裁判所のホームページ内に管轄地域が記載されているので、その家庭裁判所に電話をかけて必要な書類は何なのかを尋ねてください。通常は
- 相続放棄申述書(家庭裁判所でもらえます)
- 故人の戸籍謄本
- 故人の住民票
- 相続放棄する人の戸籍謄本
- 相続放棄する人の住民票
- 収入印紙
- 郵便切手
が必要になります。家庭裁判所によっては更に別の書類を求められることもあるので、必ず事前にチェックしてください。相続放棄申述書に記入する項目はそれほど多くないのですが、この中の「申述の理由」という欄は結構悩みどころです。
放棄の理由、相続財産の概略などをきちんと記述するようにしましょう。「債務超過で支払いが不可能」といった、具体的な事情を明記してください。
相続放棄申述書が完成したら、家庭裁判所にそれを提出しましょう。提出方法は持参か郵送の2つですが、持参の方が基本的には便利です。
相続放棄申述書が受理されると、それから2週間以内に裁判所から照会書という書類が送られてきます。相続放棄をする場合は、この照会書に書かれている質問に回答した上で返送してください。
返送後、特に問題がなければ家庭裁判所から相続放棄申述書を受理した旨の通知書が送られてきます。これで手続きは終了です。
生命保険金は相続放棄しても受け取れる
相続と生命保険は別物として取り扱われるため、たとえ相続放棄を行っても生命保険金に関しては問題なく受け取ることができます。ただし、生命保険金の金額によっては、相続税が発生することもあります。
また、遺族年金も遺族が受給権者として認められているため、相続放棄をしても受け取ることができます。
医療保険金を受け取ると、相続放棄ができなくなることがある
後遺障害保険金、入院・通院給付金などの受取人は通常は被相続人であるため、これらの保険金を受け取ってしまうと相続放棄ができなくなってしまう恐れがあります。
介護保険の還付金も相続財産と考えられているため、相続放棄をする場合は受け取らないほうが良いでしょう。
3ヶ月を過ぎても相続放棄する方法
相続放棄の手続きは原則として相続があることを知ってから3ヶ月以内に行わなければなりませんが、場合によっては3ヶ月を過ぎても相続放棄をすることが可能です。
親に借金が全く無いと信じる相当な理由があった場合は、借金を知ってから3ヶ月以内に相続放棄ができるケースが多々有ります。では、その相当な理由とは一体何なのでしょうか。
親が死ぬと通常、ほとんどの子供は借金の調査をしますが、親は子供に対して借金を隠すことも多いですし、金銭消費貸借契約書も巧妙に隠していることが多いので、見つからないことも多いでしょう。
それで親には借金がないものだとすっかり安心してしまい、後で取り立てが来て驚いたという経験をしたことがある人も少なくありません。
このような場合、子供が十分に借金の調査をしていたと認めてもらえれば、それが相当な理由になります。この場合は、借金の取り立てがあった日(借金を知った日)から3ヶ月以内に相続放棄をすればOKです。
調査が間に合わなそうな場合は延長も可能
3ヶ月以内に財産の調査が終了しないことが明確な場合は、家庭裁判所に届け出ることによって期間を延長してもらうことが可能です。
実際にやってみるとわずか3ヶ月で親の財産を調べるというのは結構難しいものです。判断に困っている場合は、とりあえず家庭裁判所に連絡して期間を延長してもらいましょう。
全員が相続放棄するとどうなる?
相続放棄をすると、その人の子供や親などに相続の権利が移っていきます。次々と相続の権利が移っていき、最終的に全員が相続放棄をした場合、その財産は基本的に全て国のものになります。
また、もともと相続人が1人もいない場合は、被相続人の財産は「相続財産法人」という一つのまとまりに固められ、相続財産管理人が管理や生産を行います。
親が生前のうちによく話し合っておこう
親との関係が良好な場合は、生前のうちに財産状況を教えてもらっておくと良いでしょう。そうしておけば亡くなった時に財産の状況がわからなくて困ることもありません。
親との関係が良好とはいえない場合は無理して聞き出そうとすると余計人間関係がこじれることもあるので気をつけてください。
限定承認の手続きは基本的には相続放棄と同じ
限定承認にも一定の手続きが必要になりますが、その内容は原則として相続手続きと変わりありません。まず、管轄の家庭裁判所に、限定承認申述書を提出します。
受理されると家庭裁判所から照会書が送付されてくるので、これに回答して返送します。返送後、特に問題がなければ家庭裁判所から限定承認申述書を受理した旨の通知書が送られてきます。これで手続きは終了です。
わからないことは弁護士に相談
相続放棄でわからないことがある場合は、必ず弁護士に相談しましょう。彼らは法律に関してはプロであり、素人がよりもずっと最適な判断を下すことができます。
ただし、一口に弁護士と言ってもその得意分野はまちまちです。必ず相続問題に強い弁護士を選ぶようにしましょう。