差し押さえられた自宅が競売で落札されるまでの流れ

住宅ローンを長い間払わないでいると、自宅が差し押さえられてしまいます。差し押さえられた自宅は競売にかけられ、所有権は落札者に移転するので、出ていかなければなりません。できれば競売になる前になんとかしたいところです。

今回は競売に至るまで、そして至ってからの流れ、競売よりもメリットが大きい任意売却の方法などを解説していきたいと思います。

借金が返済できなくなっても、すぐに自宅が差し押さえられるわけではない

自宅

競売とは、住宅ローンを返済できなくなった場合に、借入時に担保にした住宅を裁判所が強制的に売却することです。競売の大まかな流れは以下のとおりです。

電話がかかってくる

住宅ローンの支払を滞納した場合、間もなく借入先の金融機関の担当者から電話がかかってきます。返済できないことがわかっている場合、ついついこうした連絡からは逃げてしまいがちですが、いつまでも逃げ回るのは不可能です。

早い段階から誠実で協力的な姿勢を示していけば、たとえ競売に至ってしまっても債権者から引越し費用などがもらえる可能性がありますので、ちゃんと対応しましょう。

督促状や催告書が届く

電話を受けた後も支払いをしないでいると、金融機関から督促状や催告書が届きます。督促状も催告書も借金を払ってくださいという内容のものであることには代わりありませんが、督促状のほうが警告の意味合いが強いものになります。

まずは催告書が数回送られてきて、それでも返済に至らない場合は督促状が送られてくる、というのが一般的な流れです。

支払う能力がある場合は、この時点ならまだ引き返せます。滞納していたぶんを一括で返済すればOKです。ただし、その場はしのげても将来的に返済が難しい場合は、無理して返済しないという選択肢もあります。

期限の利益の喪失予告通知

滞納してから5ヶ月目に入ると、期限の利益の喪失予告通知が送られてきます。期限の利益とは、債務者が最初に契約で決められた期限までは返済しなくてもいい権利のことです。

期限の利益の喪失するとは期限の利益を失うこと、つまり約束の期限までに返済しなくてもいい権利を失うことです。期限の利益を喪失した場合、債権者は債務者に対して残債の一括返済が請求できるようになります。一括返済に応じられなかった場合、債権者は差し押さえ・競売をすることができます。

もちろん、その時点で一括返済をすれば何の問題もないのですが、そんなことはできないでしょう。もし一括返済ができるほどの余力があったら、そもそも滞納などしないはずですからね。

期限の利益の喪失通知と代位弁済の通知が送付される

6ヶ月経って期限の利益の喪失通知と、代位弁済通知が送られてきます。代位弁済とは、通常住宅ローンを組む際に加入する保証会社が債務者に変わって債務を一括で建て替えることです。

あくまでも建て替えるだけなので、債務者の債務がなくなるわけではありません。債権が金融機関から保証会社に移るだけです。一括請求する権利も保証会社に移るので、債務者は一括で保証会社に返済しなければならない義務を負うことになります。

任意売却意思の確認をされる

代位弁済からしばらくく経つと、金融機関や保証会社から任意売却意思の確認をされることがあります(必ずされるとは限りません)。任意売却とは、その名の通り任意で住宅を売却する手続きです。

詳しい説明は後述しますが、一般的に競売よりも任意売却のほうが高く売れることが多いため、一括返済ができない場合は任意売却をおすすめします。

競売申し立て予告通知が送付される

任意売却をせず、一括返済もしないでいると、競売申立予告通知が送られてきます。これはこのまま一括返済しないのならば、あなたの住宅を競売にかけますよ、という予告通知です。法的拘束力はありませんが、この書面が送られてきたら間もなく競売が行われると考えていいでしょう。

担保不動産競売開始決定通知書が送付される

それでもなお任意売却に応じない場合、債権者(保証会社)は裁判所に対して請求を行い、裁判所は担保不動産競売開始決定通知書を債務者に送付します。この時点で住宅は差し押さえとなり、債務者が自由に処分できなくなります。ただし、債権者と合意に至ればまだ任意売却は可能です。

といっても、すぐに追い出されるわけではなく、実際に競売にかけられるまでは住み続けられます。ただし、落札者が決定したら、その時点で立ち退きを請求されます。

競売決定後の流れ

競売
競売が決定してから、実際に住宅が競売にかけられるまでにはかなりの期間があります。競売にかかる期間は裁判所の判断や物件の状況によって大きく異なりますが、買取人に所有権が移転するまでには少なくとも半年ぐらいかかることがほとんどです。

競売の手続きの一つに期間入札というのがありますが、ここまでに任意売却の話をまとめれば、競売を防げる可能性はあります。

ただ、現実的には期間入札寸前まで言ったにも関わらず任意売却の話をまとめるのはかなり難しいでしょう。そうなる前に話をまとめておきたいところです。

現況調査を受ける

競売の開始決定から1ヶ月~3ヶ月以内に、現況調査が行われます。現況調査とは、競売の対象となる不動産を事前に鑑定士、売却の基準となる値段(売却基準価額)をつけるための手続きです。

裁判所から執行官(裁判所の職員)と評価人(不動産鑑定士)が派遣されてきます。この現況調査は民事執行法で定められているものであり、債務者が拒否することはできません。ドアを開けないように無視しても、勝手に鍵を開けて入ってくることが認められているので全く無駄な抵抗です。

執行官と評価人は、現場でそれぞれ現況調査報告書と評価書を作成します。これらの書類がないと、競売の価格を決めることができないからです。競売の最初の価格(最低入札価格)は、評価人と執行官の報告をもとに裁判所が定めた売却基準価額の2割引になります。

期間入札通知が送付される

現況調査から数カ月後に、期間入札通知という郵便物が債務者の自宅に届きます。これは何月の何日からあなたの物件が競売にかけられますということが書かれている書面です。

入札期日の2週間前までには、物件情報がインターネット上でも公開されます。物件情報は競売専門サイトBIT(http://bit.sikkou.jp/app/top/pt001/h01/)から確認できます。

当然、住所なども公開されるため、競売が近づいてくると、興味を持った人たちが家の周りをうろつくことが在るかもしれませんが、これを止める手立てはありませんので諦めましょう。

なお、入札には期間入札と期日入札があります。期間入札は入札期間が2日以上あるもので、通常は1周間が基準になります。期日入札は入札期間が1日だけのものです。期間入札の場合は郵送などで入札書を提出し、期日入札の場合は裁判所に指定された会場で直接入札書を提出します。

なお、入札にあたって落札希望者は売却基準価額の20%の保証金を支払う必要があります。例えば売却基準価額が1000万円の場合、保証金は200万円となります。

保証金は落札できなかった場合は返却されますが、落札できた場合は購入代金に当てられます。落札者が残りの代金を払わなかった場合、保証金は帰ってきません。これは不当なつり上げや競売妨害を防ぐためのルールです。

開札(入札を確認すること)後、最高価額で入札していた人が最高価額買受申出人となりますが、その時点で直ちに所有権が移るわけではありません。まだこの時点では代金を全額払っていないからです。

売却許可決定

売却許可決定とは、裁判所が売却の許可を出すことです。といっても、よほどのことがなければ基本的には許可が出ます。ただし、債務者が自ら落札した場合は許可が出ません。

売却許可決定から1週間以内の場合、関係者は執行抗告ができます。これは異議申し立てのことですが、もちろん正当な理由無く執行抗告をしてもすぐに棄却されます。

特に執行抗告などがなかった場合は、売却許可決定から1週間で決定が確定します。

買い取り人に代金納付期限通知書が送付される

売却許可決定が確定後、裁判所から買い取り人に代金納付期限通知書が送られます。これは落札価格から保証金を差し引いた残りの代金を期日までに払ってくださいね、という内容の書面です。

債権者や債務者などには何の通知も来ません。納付期限は通常、通知日から1ヶ月後です。この期限までに買取人が代金を納付しなかった場合、売却決定は取り消しとなり、保証金も没収されます。

次順位買受申出人がいる場合はその人が新しい落札者になりますが、いない場合は競売を最初からやり直すことになります。

所有権の移転と債権者への配当

買取人が期限内に問題なく代金を納付した場合、その時点で物件は買い取り人のものとなります。登記移転については、裁判所が行います。

その後、債権者と債務者に配当期日呼出状が送付されます。競売の売却代金は抵当権を設定している債権者に優先的に配分されます。まだお金が残った場合、抵当権を設定していない債権者もお金を受け取れる可能性があります。まだお金が残ったら、それは債務者のものとなります。

逆に、債権額に満たない場合は、残債を払う旨を請求する支払い請求通知が債務者のもとに届きます。債権はサービサー(債権回収会社)に譲渡されることもあります。その場合は、サービサーから支払い請求通知が来ます。

競売で誰も入札しなかった場合は「特別売却」で売られる

売土地

入札期間に入札者が1人もいなかった場合は、特別売却を行うことになります。特別売却とは、特別売却実施期間中に、売却基準価額以上の価額を最初につけた人が落札するシステムです。つまりは先着順、早い者勝ちの競売です。同時に複数の入札があった場合は、入札価格が高いほうが落札できます。

特別売却実施期間中に入札が全くつかなかった場合は、売却基準価格を下げてもう一度競売をやり直すことになります。

売却基準価額は1回目と比べて3割程度低くなることが多いようです。2回目の競売でもやはり入札がなかったときは、2回目の特別売却を行います。それでも売れなかったときは再び売却基準価額を下げて3回目の競売を行うことになります。

これをひたすら繰り返し、3回目の特別売却でもなお売れなかったときは、売れる見込みが無いと判断されます。裁判所としてもいつまでたっても売れるあてのない物件を何度も競売に出し続ける訳にはいかないので、一旦競売を取り消します。

競売が取り消された場合、所有権は債務者に返ってくるので、そのまま住み続けられます。とはいっても債務が帳消しになるわけではないので、債権者から請求をされ、訴訟を提起されう可能性はあります。その可能性をなくすためには、債務整理をするしかありません。

なお、競売の取り下げは裁判所の裁量でいつでもできます。3回目の特別売却でも売れなかった場合は必ず競売は取り消しになりますが、実際には2度目の競売でも売れなかったあたりで競売が取り下げられることが多いです。

所有権移転後の流れ

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競売で物件を落札し、代金を納付すると、物件の所有権は落札者に移ります。しかし、所有権が移った直後にいきなり債務者が追い出されることはありません。もちろん、買取人に所有権があるにも関わらず、債務者がその物件に済み続けることは明らかに不法行為なのですが、それでも強制的に居住者を追い出すためにはきちんとした手続きが必要になります。

建物明渡請求訴訟

買取人が不動産の明け渡しを請求する際には、建物明渡請求訴訟を行って、裁判で勝つ必要があります。裁判で勝訴したら、執行裁判所に強制執行を委託することができます。

しかし、退去を求めるために訴訟をおこすのは面倒です。裁判にはお金だけでなく、時間もかかります。そのため、競売の場合、買取人は不動産引渡命令という特別な措置を取ることができます。不動産引渡命令をすれば、訴訟を起こす必要はなくなり、数日で裁判所から引渡命令を出してもらうことができます。

買取人は、代金を支払った日から6ヶ月以内までなら不動産引渡命令を申し立てることが可能です。6ヶ月を過ぎてしまった場合は請求訴訟を起こすしかありません。

強制執行

裁判所が不動産引渡命令を下した場合、その正本が買取人と債務者の元に送付されます。送達日から1週間以内に債務者が不服申立てをしなかった場合、不動産引渡命令が確定し、強制執行が行われることになります。

債務者は引渡命令に対して不服申立てをする事ができますが、それが認められるケースは決して多くありません。時間稼ぎのためだけに不服申立てをしてもすぐに却下されることが多く、意味がありません。

強制執行申し立て

不動産引渡命令が確定すると、買取人は執行裁判所に強制執行を申し立てることができます。強制執行とは、買取人に変わって裁判所が居住者を強制的に追い出す手続きのことです。強制執行申し立てにあたって買取人は、予納金(約6万5000円程度)を支払う必要があります。予納金は執行官に払う手数料や交通費などに充てられるもので、余った分は帰ってきます。

また、強制執行するにあたっては、債務者の家財道具を運び出す必要があります。これは執行官ができることではないので、民間の専門業者に委託することになります。費用は運び出しをするまでわかりませんが、一般的には20万円~50万円程度の費用がかかります。

費用は基本的に買取人が負担することになりますが、あとで債務者に対して請求する事が可能です。しかし、債務者は住宅ローンが払えずに自宅を競売にかけられるような人なので、現実的には債務者から執行費用を回収するのはかなり難しいと思ったほうがいいでしょう。

明け渡しの催告

強制執行の申し立て後、買い取り人は執行官と面談をして具体的な強制執行の催告日や強制執行の実行日、家財道具を運び出す業者の選定などを行います。強制執行に協力してもらう業者は自分で探すこともできますが、執行官に紹介してもらうこともできます。

面談から約2週間後に、明け渡しの催告が行われます。明け渡しの催告では執行官、立会人、執行補助者(業者)などが競売物件を訪問し、運び出しや搬送の見積もりを行います。

あわせて、債務者に対して自宅を明け渡してくださいという告知が行われます。引き渡し期日は1ヶ月後に設定されます。

債務者が居留守を使ったり、催告を拒否しようとしても、鍵を勝手に開けられて入室されてしまうため、防ぐ手立てはありません。

強制執行

引き渡し期日までに債務者が自ら出ていった場合は強制執行も行われませんし、買取人がそれにかかった費用を負担する必要もありません。しかし、引き渡し期日を過ぎても債務者が出ていかなかった場合は、強制執行を行うことになります。

強制執行当日は執行官、立会人、執行補助者、鍵屋などが来て、家財道具を運び出します。住宅に居座ったとしても強制的に追い出されますし、それでもなお立ち入ろうとすると、自分に所有権がない物件に勝手に入ろうとしたとみなされ、警察沙汰になる可能性もあります。

競売と公売ってどう違うの?

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住宅ローンなどの借金を滞納し続けた場合、上記の流れを経て最終的に強制的に自宅が裁判所に差し押さえられ、オークションに掛けられてしまいます。この一連の流れを競売と言います。

一方、公売とは、税金を滞納した場合に強制的に自宅が差し押さえられてしまう手続きのことです。税金の未納を続けた場合、国税庁や地方自治体に住宅を差し押さえられ、オークション形式で物件が販売されてしまうわけですね。

競売は不動産以外が対象になることは殆どありませんが、公売の場合は不動産の他に自動車、ゴルフ会員権、宝飾類、絵画などが対象になることも珍しくありません。

住宅ローンなどの民間企業からの債務は債務整理や自己破産で減らしたりなくしたりすることができますが、税金の未払いはこれらの方法では減免されません。たとえ自己破産をしたとしても納税の義務は全く消えません。

公売の一般的な流れ

請求書

公売の流れは競売のそれとだいたい同じです。まず、督促状が送られてきて、それを無視し続けていると電話や文書、訪問などで催告され、それでも納付しないと財産調査が行われ、最終的に財産が差し押さえられます。

前述の通り、公売では不動産以外の財産も差し押さえの対象となることがあり、その場合は事務所や自宅を捜査される可能性があります。ただし、生活や営業に欠くことができないものは差し押さえてはいけないとされています。

自宅を捜査するのは国税の場合は税務署の職員、地方税の場合は地方自治体の職員です。どちらにも強い権限が与えられています。

差し押さえをした後も税金が払われない場合は、インターネットなどで入札が行われ、最も高い金額をつけた人が落札します。その代金は税金の滞納分に充てられます。税金の滞納に依る差し押さえは債務の不履行による差し押さえと同様、裁判所の許可や判決が必要ありません。滞納者に対する事前の連絡や同意も必要ありません。

競売と公売はどちらが優先される?

住宅ローンの支払い中は、自宅に抵当権が設定されています。また、税金滞納をしたことによる差し押さえは差押登記がなされます。「抵当権の設定登記日」と、差押登記の原因となった税金の「法定納期限」の期日が早いほうが優先されます。

借金よりも税金を先に収めよう

前述の通り、債務整理をすれば民間業者からの借金は減らしたりなくしたりすることができますが、滞納した税金はたとえ自己破産をしても1円も減りません。例えば、民間からの借金が1000万円、税金滞納が100万円あり、金融資産が100万円ある場合、税金滞納分を完済してから自己破産をすれば借金は0、税金滞納も0になります。

しかし、借金を一部返済してから自己破産をした場合、借金は0になりますが、税金滞納は100万円分のままです。借金と税金未納の両方がある場合は、税金の支払いを優先的に行うべきです。

住宅売るなら競売は損!任意売却で賢く売ろう

裁判 ハンマー

任意売却とは、住宅ローンを残したまま物件を売却する方法です。

債務者が住宅ローンを払えなくなった場合、金融機関はしかるべき手段を通じて競売をすることになります。しかし、競売は市場価格よりもかなり安い値段で落札されることが多く、債務者も債権者も損をすることがほとんどです。任意売却を利用すれば、ほとんどのケースで競売よりも高く物件を売却することができます。

任意売却では、仲介業者が債務者と債権者の間に入り、両者にとってより得な解決方法を提案します。通常、住宅ローンが残っている物件はそのローン残債より高い価格がつかなければ売ることができませんが、任意売却で債権者の合意を得ることができればローン残債を下回っていても売ることができます。

問題は債権者が同意してくれるのかということですが、殆どの場合において同意が得られます。競売よりも高く売れるからです。

任意売却のメリットは価格だけではない?

家の価格

任意売却には、価格以外にも様々なメリットがあります。

残債の分割返済に応じてもらえる

任意売却でも自宅に債務が残ってしまうケースは多いですが、その場合債務者は債権者と話し合った上で分割返済をすることができます。

債権者も債務者の懐事情が厳しいことは十分承知しているので、現実的な返済方法を提示してくれる可能性が非常に高いです。一般的には、月額5000円~3万円程度を返済していくことになります。

一方、競売の場合、落札直後に残債の一括返済を迫られます。当然、殆どの人は払えないので、競売後に自己破産をすることになります。自己破産をすれば本人の借金は帳消しになりますが、連帯保証人に請求が行ってしまいます。

引っ越し時期や条件に融通がきく

任意売却の場合は、債権者と引っ越し時期や条件面での要望を話し合うことができます。また、引っ越し代金を債権者に払ってもらえる可能性もあります。

ただし、債権者に引っ越し代金を払う義務はありません。あくまで善意に基づいて、払ってもいいと思った債権者が払うだけです。そのため、債務者は債権者の理解を得るために努力をする必要があります。

貯蓄がほとんどなく、このままでは立ち退こうにも立ち退けないことを伝えていけば、債権者が引っ越し代金を出してくれる可能性は上がります。債権者としても一文無しの人間を追い出すのは目覚めが悪いのですからね。

債権者からもらえる平均的な引っ越し代金は10万円~30万円程度です。

競売の場合でも買取人が引っ越し代金を出してくれるケースはありますが、その確率は非常に低いです。競売の買取人は転売を目的とした不動産業者であることがほとんどで、彼らは利益を出すために1円たりとも余計な費用をかけたくないからです。

購入者が選べる

任意売却では購入者を債務者が選ぶことができます。そのため、親戚や知人、あるいはこちらの意見を十分汲んでくれる投資家などに自宅を買い取ってもらい、賃貸物件として住まわせてもらうという事が可能です。一方、競売では購入者をを債務者が選ぶことができません。

プライバシーが確保できる

競売にかけられると裁判所の執行官が自宅に来るほか、落札を考えている不動産業者が自宅の周りをうろつくことがあるため、近所に競売のことを知られる可能性があります。一方、任意売却は普通の住宅売却とほぼ同じ手順で行われるため、そのような心配はありません。

精神的なダメージが少ない

競売では裁判所が介入してくるため、精神的に疲弊します。売却する価格、相手、時期などは全て裁判所が決めてしまうため、こちらの意見はほとんど何も聞いてもらうことができません。

一方、任意売却の場合は裁判所の介入がない上、自分の意志に基づいて売却ができるので、精神的なダメージが少なくて済みます。

費用の持ち出しが不要

不動産を売却する際には、登記料、仲介手数料などの費用がかかります。この費用は売買価格の3%~5%と、住宅ローンが払えなくなってしまった人にとっては結構な大金です。しかし、任意売却では売却で得たお金から諸経費を払うことが認められているため、お金を別途用意する必要がありません。

任意売却にはいくつかデメリットもある

眉をひそめる女性

このようにメリットが多い任意売却ですが、もちろんデメリットがないわけではありません。主なデメリットは以下のとおりです。

数ヶ月間の滞納が必要

任意売却をするためには、まず債務者がローンの滞納を起こさなければなりません。その期間中は当然債権者からたびたび連絡が来ます。この対応はそれなりに大変です(それでも競売よりはずっと楽ですが)。

債権者の合意を得る必要がある

通常の不動産売却では、債権者(銀行など)に了承を得る必要はありません。売却時に残債を一括で返済してしまうからです。しかし、任意売却の場合は通常売却代金で残債を一括返済することはできないため、債権者から必ず合意を得る必要があります。

交渉は任意売却をサポートしてくれる業者に任せることもできますが、その場合は費用がかかります。

逆に自分でやる場合は費用はかかりませんが、交渉が成立する可能性は低くなります。どちらを選んでも一長一短ですが、任意売却が成立しないのが一番困るので、基本的には業者に依頼することをおすすめします。

時間に限りがある

任意売却は必ず成立するとは限りません。もたもたしていると競売に進んでしまいます。任意売却を成立させるコツについては後述します。

任意売却は専門家に任せよう

専門家

任意売却の手続自体は債務者個人でも行えますが、前述の通り金融機関との交渉をしなければなりません。もちろん、購入予定者への対応や書類作成なども行う必要があります。素人にはかなり難しい作業なので、専門家に任せてしまったほうがいいでしょう。

任意売却は一般的な不動産屋に任せるよりも、任意売却を専門とする業者に任せてしまったほうがいいでしょう。任意売却は普通の不動産売却とは異なるので、一般の不動産屋では十分に対応してもらえない可能性が高いからです。

ただし、任意売却専門の業者ならばどこでもいいというわけではありません。中には専門業者を名乗っているにもかかわらず販売能力がない業者、売却をしたあとのケアが一切ない業者などもあるからです。では、任意売却を依頼する業者はどのように選べばいいのでしょうか。

債権者から紹介された業者は使わない

任意売却を考えていると金融機関に伝えた場合、債権者が業者を紹介してくれることがあります。債務者にとっては渡りの船に見えますが、債権者から紹介された業者は基本的に債権者のために仕事をします。

彼らに任せると販売価格が下がってしまったり、引越し代を出してもらえなくなってしまったりする可能性が高いです。なるべく債権者には頼らず、自分自身の手で業者を探しましょう。

実績が豊富な業者を選ぶ

任意売却の交渉は業者が行います。任意売却の交渉は通常の不動産の売却とはまた違うものですので、不動産売却ではなく任意売却の経験が豊富な専門家を選ぶようにしましょう。

といっても、ただ単に売却件数が多ければいいというわけではありません。ホームページで具体的な売却までの流れが説明されているか、問い合わせ時に解決に向けた具体的な話が聞けるかなどをチェックするといいでしょう。

専門家が複数在籍している業者を選ぶ

任意売却をするのに特別な資格は必要ありませんが、実際には様々な法律知識がなければ交渉を有利にすすめることはできません。

弁護士、司法書士、宅地建物取引主任者と行った経験が豊富な専門家を複数雇っている業者ならば、債務者に有利な形で交渉をすすめてくれる可能性が高いです。

特に大切なのは弁護士の質です。弁護士の中には、任意売却よりも自己破産を勧めてくる人が少なくありません(そちらのほうが報酬が多くなるためです)が、惑わされずに任意売却の知識や経験が豊富な弁護士がいる業者を選ぶようにしましょう。

費用の透明性が高い業者を選ぶ

前述の通り、任意売却では売却後にその代金の中から費用を支払うことになっています。業者に支払う費用は成約価格の6%+3万円+消費税と法律で決められています。これ以上の代金を他の名目で請求してくる業者は悪徳業者であるため、早々に縁を切りましょう。

任意売却後のサポート体制は整っているか

任意売却ができたとしても、それで万事解決というわけではありません。売却が終わるまでに引っ越しをしなければいけませんし、残債は分割で返済していかなければなりません。

業者の中には、高く売ることだけに熱心になって、売れた後は知らん顔というところが少なくありません。正式な依頼の前に、売却後にはどんなアフターフォローが受けられるのかをしっかりと確認しておいたほうがいいでしょう。

具体的な任意売却の流れ

男性携帯

ここからはいよいよ、任意売却をするための具体的な手順を説明します。

電話やメールで相談

任意売却をするにあたってはまずは業者を選ばなければなりません。最初から業者を1社に絞り込んでしまうのはあまりいいことではありません。大抵の業者は無料相談を受け付けていますので、数社に相談して一番良さそうなところを選ぶようにしましょう。

面談・契約

業者と実際にあって話をします。面談は通常、プライバシーに十分配慮されている個室で行われるので安心です。業者によっては訪問面談を行っていることもあります。

面談では現在の経済状況、ローン残債額、毎月の返済額、税金の滞納の有無、債権者の名前などを伝えます。話しづらいことではありますが、ここで嘘をついてもいいことは一つもありません。全て正直に話すことが、任意売却を成功させるコツです。また、こちらの要望(同じ家に済み続けたい、遠くに引っ越したいなど)も合わせて伝えます。

物件査定

任意売却にあたっていちばん重要な物件価格の設定を行うために、業者の担当者が物件を査定します。査定の際には写真を撮影します。債権者に提示し、インターネット上に掲載するためです。現在のその物件の状態、近隣相場、過去の取引事例などを元に価格査定を行います。

専任媒介契約

価格査定に納得がいった場合は、専任媒介契約を結びます。もちろん、納得いかなかった場合は無理して契約する必要はありません。なお、専任媒介契約を結んだ場合、同じ業務を他の業者に依頼することはできなくなりますので注意しましょう。

債権者と交渉

契約に基づいて、業者が債権者と交渉を進めます。まず、任意売却についての許可を得ることからはじめます。

すでに競売や差し押さえに入っている場合でも、交渉次第では取り消してもらうことも可能です。任意売却の許可が出た後は、残債の取扱い、引越し費用の捻出など、様々な点を細かく詰めていきます。良心的な業者ならば、随時交渉の状況を連絡してくれます。

販売活動

不動産データベースへの登録、インターネット広告などを通じて物件を宣伝していきます。業者によっては引越し先も合わせて探してもらえます。

購入者の決定・契約締結

購入希望社が現れたら、債権者の同意を得た上で売買契約を締結します。基本的には契約締結後に債務者が引っ越しをします。この時点で手付金を受領し、引越し費用に充てることも可能です。

決済・引き渡し

決済をした上で物件を引き渡します。

自己破産するつもりでも、その前に任意売却をすべき!

傘をさす女性

自己破産をすると、原則として20万円以上の財産を失うことになります。任意売却をしてから自己破産をしても、任意売却をせずに自己破産をしてもけっきょく家を失う以上、わざわざ任意売却をする必要はないように思えますが、そんなことはありません。最終的に自己破産するつもりであっても、任意売却をした方がいいのです。

自己破産には費用がかかる!

自己破産手続きには同時廃止事件と管財事件があります。簡単に言えば、処分できる20万円以上の財産がない事件が同時廃止事件、財産がある事件が管財事件です。

同時廃止事件の場合費用は数万円程度で済みますが、管財事件の場合は破産管財人という専門の弁護士が選任され、この弁護士に対する報酬を債務者が支払うことになるため、数十万円の費用が必要になります。自己破産をしようとしている人が数十万円を用意するというのは至難の業です。

自己破産前に任意売却をしておけば、処分できる財産がなくなるので管財事件ではなく同時廃止事件になる可能性が高いです。

同時廃止事件はお金がかからないだけでなく、スピーディーに終わるというメリットもあります。管財事件の場合免責許可が出るまで1年ぐらいかかることもありますが、同時廃止事件の場合は3ヶ月程度で免責が下りることも多いです。

また、事前に任意売却をしておけば、債権者から引っ越し代金がもらえる可能性があります。自己破産を選んだ場合にはそれは期待できません。

さらに税金を滞納している場合は、任意売却ならば売却金額の一部を税金の支払いに充てることができますが、自己破産をした場合はそれもできない上、自己破産をしても税金が免除されるわけではありません。

これらのことを考えると、自己破産をする前に任意売却をした方がいいでしょう。

任意売却って免責不許可事由にならないの?

自己破産には免責不許可事由が定められています。自己破産は誰でもできるものではなく、免責不許可事由という条件に該当していない必要があります。

免責不許可事由に当てはまる行動を取っていた場合、原則として免責が降りず、自己破産できません(実際には免責不許可事由に該当していても裁判所の裁量で免責が認められるケースが多いですが)。

そして、免責不許可事由の一つに詐害行為というものがあります。これは債権者を害する目的で財産を隠匿、損壊、債権者に不利益な形での処分、あるいは価値を不当に減少させることです。つまり、自己破産の前にかってに財産を隠したり壊したり不当に安く売ったりしてはいけないということです。

しかし、任意売却は詐害行為には当てはまりません。住宅ローンの債券には住宅への抵当権が付いています。抵当権とは住宅ローンの返済ができなくなった時に住宅を処分して返済に充当する債権者の権利です。抵当権は破産法よりも優先されます。

任意売却の代金は、売却代金は債務者に入ってくるわけではなく、債権者に入ってきます。つまり、任意売却というのは実質的には抵当権を行使しているのと同じなわけです。

そもそも住宅ローンの残債がある期間は、住宅の所有権は抵当権者、債権者にあります。それを抵当権者の意思で適正な価格で処分するのは全く問題ないことです。

サービサーって何者?

ビジネスマン

返済遅れが発生した場合、最初の債権者である金融機関は保証会社から代位弁済を受けて、債権を保証会社に譲渡します。この時点で債権は金融機関から保証会社に移転するわけです。ここまでは説明したとおりです。

しかし、その後保証会社も競売や任意売却で債権の一部を返済してもらった後、残った債権をサービサーと呼ばれる業者に売却することがあります。つまり、債権が保証会社からサービサーに移るのです。

サービサーとは、法務省から許可を受けた債権の回収を専門とする業者のことです。債権回収と聞くと怖いイメージがありますが、実際には国の認可を得て運営している至って健全な民間業者で、対応も紳士的です(取り立てるものはきちんと取り立てますが、法律に基づいた取り立てしかしません)。

任意売却をしたような債務者からきちんと回収できるの?と思われるかもしれませんが、そもそもサービサーは保証会社から債権を債権額の2~5%という破格の安さで買い取っているため、全額を回収できなくても十分商売は成立するのです。

一方、保証会社は保証料と競売や任意売却による売上代金の回収で元が取れています。つまり、サービサーも保証会社も十分利益が上げられているわけです。

債権者が保証会社からサービサーに移った場合、交渉次第では残債を減額してもらうことができます。前述の通りサービサーもすべての債権を回収する気はないので、きちんと交渉すれば債務を減らしてもらえる可能性が高いです。

とはいってもサービサー側には全額回収するという「建前」があるので、いきなり債務を数%に減らしてほしいと行っても認められない可能性が非常に高いです。弁護士を立てて交渉した方がいいでしょう。なお、サービサーへの返済は額が大きくない場合は基本的に一括返済で行います。

任意売却で賢く家を処分しよう

住宅の売却

繰り返しになりますが、住宅ローンが返済できないときは競売に至る前に任意売却をしてしまったほうがお得です。現実から目をそらし続けてもいつかは競売になり、却って損をすることになります。早めに任意売却を済ませて、生活を立て直しましょう。