FXで借金を追わない適正なレバレッジは?

少ない資金(証拠金)で大きな取引ができることから、今人気を集めているFX。しかし、一方で証拠金に対する取引額(レバレッジ)を高めすぎると、借金を背負うリスクも大きくなります。

だからといってレバレッジを低くすると、今度は利益が少なくなってしまいます。今回はFXで借金を追わず、しかもある程度の利益が見込める、適切なレバレッジを考えてみたいと思います。

少ないお金で取引ができるカラクリ

お金

レバレッジについては他の記事(参考:FXで借金が生まれる仕組みとは?)でも説明していますが、ここでも軽く説明します。レバレッジとは簡単に言えば、原資となるお金に借金を上乗せすることによって取引金額を増やす仕組みです。

FXで最初に取引のために預け入れる原資を証拠金といいます。しかし、証拠金だけで取引をしても、なかなか効率的に利益は増えません。例えば1ドル=100円の時にドルを10万円分(1000ドル)買って、1ドル110円になった段階で売っても11万円にしかなりません。

10万円が11万円になったので、差し引き1万円の利益です。そもそも短期間の間にドル円レートが10円も円安方向に動くことなどめったにないですし、証拠金だけで大きな利益を上げることは難しいでしょう。

しかし、証拠金の10万円に、借金の90万円を上乗せして100万円で取引をすれば、最初に1万ドルを買うことができます。その後1ドル110円になった段階で売れば110万円になります。

このうち90万円は借金なので返すと手元に残るお金は20万円です。10万円が20万円になったので、差し引き10万円の利益です。借金をして資金を10倍に増やすことによって、利益も10倍になりました。これがレバレッジのすごいところです。レバレッジを10倍にすれば利益も10倍に、100倍にすれば利益も100倍になるのです。

高いレバレッジは諸刃の剣

と、ここだけ見れば素晴らしい仕組みに見えるレバレッジですが、もちろん欠点もあります。レバレッジを10倍にすると利益も10倍になる代わりに、損失も10倍になってしまうのです。

過去には高すぎるレバレッジで取引をして借金を背負った投資家が何人もいました。そのため、現在は日本のFX業者を利用する場合は、レバレッジが25倍までしかかけられないことになっています(海外のFX業者は規制の対象外なので、100倍や500倍、あるいは1000倍が可能なところもあります)。

レバレッジを上げても基本的に借金が残ることはないが……

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先ほどレバレッジを高くしすぎて借金を背負った投資家がいると言うお話をしましたが、FXには証拠金の割合が一定の水準を下回ると、その時点で強制的に決済するシステムがあるため、基本的には借金を背負うことはありません。このシステムをロスカットと言います。しかし、ロスカットが正常に働かないと、借金を背負ってしまうこともあるのです。

まずはロスカットについて説明しましょう。ロスカットを理解する上で重要な概念が証拠金維持率です。証拠金維持率は以下の式で表します。

証拠金維持率=実行証拠金÷必要証拠金

分母に当たる実行証拠金は、実際に預け入れている証拠金の額から評価損益を差し引いたものです。例えば、FX会社の口座に預け入れている証拠金が10万円で、含み損が1万円出ている場合、実行証拠金は9万円となります。含み益が1万円出ている場合は、実行証拠金は11万円となります。

一方、必要証拠金はFX会社が最低限必要と定めている証拠金の額です。例えば、楽天FXの場合は各通貨の取引金額の4%以上を証拠金として預け入れる必要があります。

この条件で1万ドル(1万通貨)の取引を1ドル100円のときにする場合、必要証拠金は1万ドル=100万円の4%、つまり4万円となります。

証拠金維持率が予め決められた場合を下回ると、新規の取引ができなくなったり、証拠金の追加を要求されたり、ロスカットが実行されたりします。

楽天FXの場合は100%を下回ると新規の取引ができなくなり、70%を下回ると証拠金追加を要求され、50%を下回るとロスカットが実行されます。

実際に計算してみよう

楽天FXで1ドル=100円の時に証拠金42万円を預け入れて10万通貨(10万ドル)の取引を始めたとしましょう。

この場合、最初の実行証拠金は42万円で、必要証拠金は10万ドル=1000万円×4%=40万円なので、証拠金維持率は42万円÷40万円=105%となります。100%を上回っているので、普通に取引ができます。

しかし、その後円高になると含み損が発生します。仮に1ドル98円になった場合、含み損は2万円なので実行証拠金は42万円-2万円=40万円となり、証拠金維持率は40万円÷40万円=100%となってしまいます。

これより少しでも円高に動けば証拠金維持率は100%を割ってしまい、新規の取引ができなくなります。

その後さらに円高が進んで1ドル=86円になれば含み損は14万円になるため、実行証拠金は42万円-14万円=28万円となり、証拠金維持率は28万円÷40万円=70%となります。これより少しでも円高に動けば証拠金維持率が70%を割ってしまい、証拠金の追加を要求されます。

この時点で証拠金を20万円追加すると、実行証拠金は62万円-14万円=48万円となり、証拠金維持率は48万円÷40万円=120%となるので、また普通に取引ができるようになります。

証拠金を追加せずに奉仕してさらに円高が進み、1ドル=78円になると実行証拠金は42万円-22万円=20万円となり、証拠金維持率は20万円÷40万円=50%なります。これより少しでも円高になれば、その時点でロスカットが働きます。

ロスカットが働くと22万円の損失です。最初に預け入れた証拠金は42万円なので、差し引き20万円が口座に残ることになります。このようにロスカットが正常に働けば、口座内のお金が減るだけで借金を背負うことはありません。

ロスカットはうまく働かない場合がある

しかし、ロスカットシステムは残念ながらいつでも正常に働くとは限りません。1ドル=78円になった段階でロスカットの指示は与えられるのですが、その指示通りに決済ができるとは限らないからです。

例えば1ドル78円の段階でドルを売ろうとする人が多くて買おうとする人がほとんどいなければ、ロスカットシステムは再注文を出します。最初の注文と再注文の間のタイムラグの間にさらに円高が進んでしまうと、借金になる可能性があるのです。この場合は、1ドル=58円になった段階で借金が発生することになります。

今回はドル円を例に出しましたので実感がわかないかもしれませんが、もっとマイナーな通貨だと値動きがより激しくなるため、決済成立を待っているうちに極端に円高に触れてしまうことがあります。特に相手の通貨国が戦争、天変地異、国歌の破綻などのリスクに大きくさらされている時は、その可能性も高まります。

証拠金が0を割ってしまい、マイナスになってしまうことを追証(おいしょう)と言います。追証が発生した場合、業者からそのマイナスを埋め合わせするための入金を請求されます。

少ない金額ならば払えるかもしれませんが、何百万、何千万という追証が発生してしまったことは(めったにないでしょうが)、財産の差し押さえなどに発展することもあります。東日本大震災やリーマン・ショック時には多数の個人投資家が追証によって債務整理を余儀なくされています。

レバレッジ1倍ならば絶対に借金は生まれないが、利益もわずかに

トレード

ロスカットシステムが正常に働かない可能性を考えると、レバレッジを下げたくなる気持ちもわかります。レバレッジを1倍にすれば最初から借金が生まれないのですから、当然ロスカットシステムが正常に働かなくても借金を背負うこともありません。

しかし、レバレッジを1倍にしてしまえばそれだけ利益も少なくなってしまいます。短期間で大きく稼げる可能性があるのがFXの魅力なのですから、どうせならばそれなりのレバレッジを掛けたいところです。

では、いったいいくらぐらいまでのレバレッジならばかけても大丈夫なのでしょうか。

初心者の適切なレバレッジ計算法

レバレッジ

適切なレバレッジは取引する通貨量や通貨ペア、あるいは熟練度によって異なります。初心者方は、まずは以下の3ステップから導かれたレバレッジを目安にするといいでしょう。

証拠金の1%を計算する

まずは口座に預け入れる証拠金の1%を計算します。例えば、証拠金が100万円の場合、証拠金の1%は10000円になります。この数字は後々意味を持ってくるので、必ず抑えておきましょう。

ATR(平均的値動き)を計算する

ATRとはアベレージ・トゥルー・レンジ(平均的値動き)のことです。著名な投資家であるウェルズワイルダー氏が考案した式で、誰でも簡単に計算でき、しかも様々な場面で役立つことから、ぜひ抑えておきたい式の一つです。計算方法は以下のとおりです。

  • ①当日高値と当日安値の差
  • ②当日高値と前日終値の差
  • ③当日安値と前日終値の差

以上の3つの式のうち、最も大きいのがATRです。例えば、ドル円レートで

  • 当日高値:1ドル=100.0円
  • 当日安値:1ドル=99.7円
  • 前日終値が1ドル=99.9円

の場合、①=0.3円、②=0.1円、③=0.2円となるので、ATRは0.3円となります。ATRは1日の中でどれくらい値動きをするのかを示す数値であり、値動き幅が大きいほどリスクが大きいです。

ドル円などの比較的安定した通貨ペアはATRが小さくなりますが、マイナー通貨を組み合わせるとATRは大きくなります。初心者のうちは、余りATRの大きい通貨ペアには手を出さないほうがいいかもしれません。

適切な取引量を設定する

次に適切な取引量を考えます。1日に余り変動しない場合、ATRの低い通貨ペアは、多めに取引してもそれほどリスクは高くありません。逆にATRが高い通貨ペアは多め人取引するとリスクも急激に上がってしまうので注意が必要です。

先程計算した証拠金の1%は、初心者が容認してもよい1日の最大損失金額です。慣れたら1.2%や1.5%と言った感じで徐々に上げていっても構いませんが、上げ過ぎには注意が必要です。先程の例では証拠金の1%は1万円だったので、これを容認しても良い最大損失金額とします。

一方、ATRは0.3円でした。これは1通貨を取引すると、最大で0.3円の損失が発生するおそれがあるということです。10通貨なら3円、100通貨なら30円です。最大損失が1万円を超えないようにするためには、1万円÷0.3円≒33333通貨以内に抑える必要があります。

通常、FXは1000通貨単位で取引を行いますから、1000に満たない部分はカットして33000通貨が適切な取引量となります。

仮にATRが1.0円なら適切な取引量は10000通貨、ATRが10.0円なら1000通貨となります。ATRが高いほど、適切な取引量は少なくなるのです。

レバレッジを計算する

最後に、これらの式から適切なレバレッジを計算します。仮に取引時のドル円レートが1ドル=100円だった場合、適切な取引量は33000通貨なので、取引金額は100円×33000通貨=330万円となります。

一方、最初に証拠金として用意した額は100万円です。したがって、適切なレバレッジは330万円÷100万円=3.3倍となります。仮にこの数字が25倍を超えている場合は、証拠金が少なすぎる可能性があります。

もっと簡単に計算できる方法はないの?

計算

以上が適切なレバレッジの計算式ですが、ハッキリ行ってこれをすべて計算するのはちょっと面倒ですよね。慎重を期したい場合は面倒でもこの式を使って計算するべきですが、だいたいわかればいいという場合は、以下を参考にして下さい。

メジャー通貨ペアの場合(原則ドル円のみ)

  • 1万通貨まで:レバレッジ25倍以内
  • 1万通貨~3万通貨まで;レバレッジ15倍以内
  • 3万~5万通貨まで:レバレッジ10倍内
  • 5万通貨以上:レバレッジ5倍以内

準メジャー通貨ペアの場合(豪ドル円、ユーロ円など)

  • 1万通貨まで:レバレッジ15倍以内
  • 1万~3万通貨まで:レバレッジ10倍以内
  • 3万~5万通貨まで:レバレッジ7倍以内
  • 5万通貨以上:レバレッジ3.5倍以内

マイナー通貨の場合(南アランド円、トルコリラ円など)

  • 1万通貨まで:レバレッジ8倍以内
  • 1万~3万通貨まで:レバレッジ5倍以内
  • 3万~5万通貨まで:レバレッジ3倍以内
  • 5万通貨以上:レバレッジ2倍以内

ポイントは原則としてメジャー通貨ほどレバレッジを大きくしてもよく、マイナー通貨ほどレバレッジは低く抑えるということです。

かなり大雑把なうえメジャー・マイナー通貨の定義も厳密ではありませんが、この法則に従って取引を行えば、借金を背負う危険はかなり低くなります。

レバレッジが低すぎるのでは?と思われるかもしれませんが、初心者のうちはこれくらいに抑えておくのが懸命です。投資で稼げるトレーダーは、資産を守るのが非常にうまいです。増やすのがうまいわけではありません。適切なリスク管理が、成功への第一歩と言えます。

他の人はどれくらいレバレッジをかけているの?

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FX取引は自分の知識と判断力、精神力が試される投資ですから、本来他人の動向などどうでもいいのですが、そうは言ってもやはり他人がどんな投資の仕方をしているのかは気になるものです。他の投資家は一体どれくらいのレバレッジを掛けているのでしょうか。

GMOクリック証券は、2009年~2011年にかけて、毎年1回ずつ「FXに関する実態調査」。全国の20歳~69歳のFX取引者(GMOクリック証券以外の顧客も含む)を対象にしています。調査対象は20代~60代のそれぞれの年代で100名ずつ、男女比は半々です(60代女性が少し足りなかったため、50代女性で充填しています)。

2011年の調査によれば、調査対象全体の平均レバレッジは17.9倍でした。2010年には39.3倍だったので、大きく落ち込んでいます。2010年の調査後にレバレッジを原則50倍に規制することになったのが最大要因だと思われます。

また、さらにレバレッジを細かく分類した場合、9~10倍付近と、41~50倍付近の2つにピークがあります。レバレッジを抑えめにしている人と、規制ギリギリまでレバレッジを掛けている人が混在して17.9倍という数字が出たのですね。

性別ごとに見た場合、男性の平均レバレッジは20.4倍で、女性は15.4倍でした。すべての年代で男性が女性を上回っており、男性の方が総じて危険愛好的であることがわかります。

年齢別に見た場合、男性は40代までは平均レバレッジが20倍を上回り、それ以降は20倍を下回るなど、若いほうが危険愛好的であるといえます。女性の場合はそのような傾向は見られませんでした。

現在はレバレッジが25倍まで規制されているため、平均レバレッジは更に低くなるものと思われます。

海外の業者を使えば借金を背負わず済む!

海外地図

海外のFX業者は25倍規制を受けません。一口に海外のFX業者といっても様々ですが、中には最大レバレッジが1000倍を超えるようなところもあります。

そんなにレバレッジを掛けて借金を背負う心配はないのか、と思われるかもしれませんが、実は海外のFX業者を使えば、借金を背負うことはありません(一部例外あり)。一体なぜでしょうか。

海外のFX業者でも、取引が間に合わずに残高がマイナスに鳴なってしまうこともあります。しかし、海外業者の場合は仮にそうなったとしても、その借金をFX業者が代わりに返してくれるのです。

このような仕組みを追証なしサービスなどといいます。どんなに借金が増えようが、口座残高は0にリセットされます。

なぜこのようなことができるのか?

実は国内FX業者と海外FX業者では、サービスの仕組みが違います。国内FX業者は注文を受けても実際に取引は行わず、その注文を呑むOTC取引を採用しています。いわゆる「ノミ行為」というやつですね。

投資家が注文を受けても取引はせず、結果として投資家が利益を上げたら業者は投資家にお金を支払い、投資家が損失を出したらその分がFX業者の利益になる、というわけです。国内業者のスプレッドが総じて狭いのは、実際には取引を行っていないからです。

この仕組では、投資家とFX業者の利害が真っ向から対立します。このような状況では、FX業者は当然投資家が損をすることを望みます。

投資家の口座がマイナスに鳴るくらいの大きな損失は、FX業者にとっては最も望ましい事態なのです。

一方、海外業者の場合はどこも原則として注文通りに実際に取引を行うNDD方式を採用しています。このような環境下では、投資家が取引の結果いくら利益あるいは損失を出してもFX業者には何の損失も利益も出ません。

海外のFX業者はスプレッド、つまり取引手数料で稼いでいるので、がんがん注文してくれることが利益につながるのです。

なので海外FX業者は安心して取引ができるように、追証なしサービスを提供しています。マイナスになった投資家の口座を埋め合わさせられることにはなりますが、それ以上に取引量増加による利益の拡大のほうが大きいわけですね。

海外のFX業者は突然倒産することも……

倒産

ただ、東日本大震災やリーマンショック級の自体が発生した場合、海外FX業者は相当な借金を肩代わりさせられることになるのも確かです。(国内業者は追証なしを採用していないのでほとんどノーダメージです)。

例えば、大手海外FX業者のアルパリ(UK) Limitedは、スイスフランショックで多額の借金を背負い、倒産してしまいました。アメリカのFXCMも3000万ポンド(約53億円)の損失が出て倒産の危機に陥りましたが、絵3億ドル(約351億円)もの融資を受けてなんとか倒産は回避しました。

海外業者が倒産すると口座のお金はどうなる?

では、仮に海外のFX業者が倒産し、その時点で口座に資産が残っている場合、きちんと帰ってくるのでしょうか?

FX業者は通常、顧客から預かった資金を信託保全(信託銀行などの別の金融機関に預かってもらう)もしくは分別管理(業者運営資金とは別に管理する)で保管する必要があります。信託保全、分別管理がしっかり行われていれば、原則としてFX業者が倒産しても口座のお金は返ってきます。

国内のFX業者には完全信託保全が義務付けられていますが、海外業者は必ずしもそうではないため、分別管理を選んでいることもあります。

ただ、表向き分別管理していると言っていても実際にはそうしてなかった(顧客のお金をこっそり運営資金に回していた)業者もあり、そのような場合にはお金が却ってこないこともあります。

海外業者は必ず完全信託保全をしている業者を選びましょう。幸い、アルパリLimitedは完全信託保全を選んでいたため、顧客は無事に資産を取り戻せました。

まとめ

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  • レバレッジを掛けると利益が大きくなるが、損失も大きくなる
  • 証拠金維持率が一定を下回ると強制決済(ロスカット)が行われてしまう
  • ロスカットのシステムがうまくいかないと借金(追証)が発生することもある
  • 適切なレバレッジはメジャー通貨・少額取引でも25倍以内、マイナー通貨・多額取引の場合は更に小さくなる
  • 海外の追証なしサービスを提供している業者ならば、絶対に借金を背負うことはない
  • その代わり業者が倒産する可能性があるため、必ず信託保全をしている業者を選ぶ

FXは一発逆転が狙えるイメージからついついレバレッジを高くしてしまいがちですが、あまりにも高すぎるレバレッジは危険以外の何物でもありません。取引通貨ペアや通貨単位に応じて、適切なレバレッジを設定しましょう。