ギャンブル依存症は立派な病気であり、現代においては治療の対象となっています。ギャンブル依存症になるのは意志の弱いダメ人間だけだから自分には関係ないと考えている方もいらっしゃるようですが、むしろそうした人ほど危険です。
自分だけは大丈夫だと思っている人ほど、立派なカモです。ここではギャンブル依存症に陥る人の心理を見ていきましょう。
目次
ギャンブル依存症には明確な定義がない?
体調不良で病院にかかると、その症状に対して病名が付けられます。例えば悪性腫瘍が見つかれば「癌」、骨が折れていれば「骨折」、胃が荒れていれば「慢性胃炎」、と言った感じです。
このような体の疾患と違い、精神疾患であるギャンブル依存症にはわかりやすい定義がないため一概に「こういうことをしている人間はギャンブル依存症である」とか「こういうことをしている人間はギャンブル依存症でない」ということができません。
例えば、ギャンブルに必ず月20万費やすAさんとBさんがいるとします。この場合、素人から見ればどちらも同じようにギャンブルに依存しているように見えますが、一概にそうとも言えません。
Aさんはギャンブルに月収の1%しか使っていません。これは月収20万円の人が月2000円がギャンブルに使っているのと似たようなものですし、生活に困っているわけでもなさそうなので、ギャンブル依存症とはいえないように思えます。
一方、Bさんは月収をすべてギャンブルにつぎ込んでおり、ギャンブル依存症であるように思えます。
ただし、これだけのデータではまだ診断はできません。もしかしたらAさんは掛け金は少なくてもギャンブルに心を奪われておりギャンブルについてずっと考えていて、今後掛け金を増やすかもしれません。
Bさんは現在は月収20万円しかないものの、実は金融資産を10億円持っていて、生活にはなんの支障も出ていないのかもしれません。
ギャンブル依存症はこのように、個別の詳細な事情を踏まえて診断を行わなければなりません。ギャンブル依存症はまず診断からして難しい病気であるといえるでしょう。
「DSM-5」は9個の質問でギャンブル依存症を診断する
前述のとおりギャンブル依存症は診断が難しい病気ですが、最近は診断方法も確立されつつあります。
ギャンブル依存症をはじめとする様々な依存症の診断に使われるのが「DSM-5」です。これはアメリカ精神医学会で作成された診断マニュアルであり、以下の9項目にいくつ当てはまるかをチェックします。ギャンブル依存症の疑いがある人は、早速答えてみてください。
DSM-5(4つ以上当てはまったら依存症)
①興奮を得たいがために、掛け金の額を増やし賭博をした事がある。
②賭博をするのを中断したり、または中止したりすると落ち着かなくなる。
③賭博をするのを制限する、減らす、中止したりするなどの努力しても何度も失敗している。
④気がつくと賭博の事を考えている(例:過去の賭博体験を再体験すること、ハンディをつけること、または次の賭けの計画を立てること、賭博をするための金銭を得る方法を考えること、を絶えず考えている)
⑤苦痛の気分(例:無気力、罪悪感、不安、抑うつ)のときに、賭博をすることが多い。
⑥賭博で金をすった後、別の日にそれを取り戻しに帰ってくることが多い(パチンコで負けた翌日にパチンコ屋へ行く)
⑦賭博へののめり込みを隠すために、嘘をついた事がある
⑧賭博のために、重要な人間関係、仕事、教育、または職業上の機会を危険にさらし、または失ったことがある
⑨賭博によって引き起こされた絶望的な経済状態を免れるために、他人に金を出してくれるよう頼んだ事がある
以上の質問に4つ以上当てはまり、なおかつその賭博行為が躁病エピソードでうまく説明されない場合は、ギャンブル依存症と診断されます(躁状態の時にだけギャンブルに嵌り込む場合は躁病や躁うつ病が根本にあると考えられるので、ギャンブル依存症とは診断されません)。
20の質問からなる「SOGS」
最近ギャンブル依存症の治療で注目を浴びているのが「SOGS」です。これはサウスオークス財団が開発した診断基準であり、質問に対する回答が5点以上だったものを「ギャンブル障害」、3点もしくは4点だったものを「問題賭博者」とします。
SOGSはギャンブルにおける借金に重点を置いています。以下の12個の質問に答えてみてください。
【a.しない、b.2回に1回はする、c.たいていそうする、d.いつもそうする(cまたはdを選択すると1点)】②ギャンブルで負けたときも、勝っていると嘘をついたことがあるか。
【a.ない、b.半分はそうする、c.たいていそうする(bまたはcを選択すると1点)】③ギャンブルのために何か問題が生じたことがあるか。
【a.ない、b.以前はあったが今はない、c.ある(bまたはcを選択すると1点)】④自分がしようと思った以上にギャンブルにはまったことがあるか。
【a.ある、b.ない(aを選択すると1点)】
⑤ギャンブルのために人から非難を受けたことがあるか。
【a.ある、b.ない(aを選択すると1点)】
⑥自分のギャンブル癖やその結果生じた事柄に対して、悪いなと感じたことがあるか。
【a.ある、b.ない(aを選択すると1点)】
⑦ギャンブルをやめようと思っても、不可能だと感じたことがあるか。
【a.ある、b.ない(aを選択すると1点)】
⑧ギャンブルの証拠となる券などを、家族の目に触れぬように隠したことがあるか。
【a.ある、b.ない(aを選択すると1点)】
⑨ギャンブルに使う金に関して、家族と口論になったことがあるか。
【a.ある、b.ない(aを選択すると1点)】
⑩借りた金をギャンブルに使ってしまい、返せなくなったことがあるか。
【a.ある、b.ない(aを選択すると1点)】
⑪ギャンブルのために、仕事や学業をさぼったことがあるか。
【a.ある、b.ない(aを選択すると1点)】
⑫ギャンブルに使う金はどのようにして作ったか。またどのようにして借金をしたか。当てはまるものに何個でも○をつける。
【a.生活費を削って、b.配偶者から、c.親類、知人から、d.銀行から、e.定期預金の解約、f.保険の解約、g.家財を売ったり質に入れて、h.消費者金融から、i.ヤミ金融から(○1個につき1点)】
0点~2点:問題なし
3点~4点:問題賭博者
5点以上:ギャンブル障害
ギャンブル依存症はギャンブルで失ったお金を取り戻そうとする
ギャンブル依存症患者の特徴の一つとして、失ったお金をギャンブルで取り戻そうとすることが挙げられます。
しかし、ギャンブルというのはもともと胴元が得をする、つまりは参加者が損をするようにできています。普通の人はそのことを理解しているので、ギャンブルにのめり込みません。
ギャンブル依存症患者もギャンブルは長期的に見れば必ず損をすることはわかっているのですが、それでもギャンブルをやめられないのです。
植木等さんのスーダラ節の歌詞に「わかっちゃいるけどやめられねぇ」というのがありましたが、これはまさにギャンブル依存症患者の心理を端的に表したものといえます。失ったお金が惜しくて、それを取り戻すためにギャンブルを繰り返してさらに借金を重ねていくのですね。
また、以外に思われるかもしれませんが、ギャンブル依存症患者はギャンブル自体を楽しんでいません。むしろ強迫観念に近いものを感じています。明らかに非合理な心理ですが、必ずしも合理的に動かないのが人間というものです。
ギャンブルは「部分強化」なのでのめり込みやすい?
心理学用語に「部分強化」というものがあります。これは簡単にいえば「ある行動をした時に報酬がもらえるかどうかが不確定である」ということです。逆に、「ある行動をすれば必ず一定の報酬がもらえることが確定している」状態は全部強化」と言います。
ギャンブルは部分強化、毎月のお給料は全部強化に相当します。
合理的に考えればどう考えても必ず報酬がもらえる「全部強化」のほうがメリットが大きいのですが、人間の心理というのはおかしなもので、部分強化のほうが帰ってやる気が引き出されます。
未来が確定していないからこそ頑張れる、とでも言いましょうか、報酬が確定していないからこそ、たまの当たりで高揚感を得られるのです。
自分の実力で勝ったと思えるギャンブルほど危険
世の中には様々なギャンブルがありますが、例えば宝くじで身を滅ぼしたという離しはあまり聞きません。一方、パチンコや競馬、麻雀などで身を滅ぼしたという話は枚挙に暇がありません。一体前者と後者はどう違うのでしょうか。
この謎を解き明かすワードが「効力感」です。効力感は心理学用語の一つで、ある事柄に対して自分が影響力を持っているといいう感覚のことです。
宝くじもギャンブルの一つではありますが、宝くじが当たるかどうかはほぼ100%運です。自分で番号を選べるタイプのものならばともかく、お店の人からくじを渡されるタイプの宝くじには参加者の意思は反映されません。
こうした効力感が感じられないギャンブルには、人ははまりにくいとされています。
一方、パチンコや競馬、麻雀などはある程度参加者の意思が結果に反映されます。こうしたギャンブルは「効力感が強い」といえます。
もちろん、実際には勝負の殆どが産んで決まるのですが、「研究すれば必勝法があるかもしれない」と密かに思っているギャンブラーは少なくありません。
たまに予想が的中するとそれが自分の成果であり、必勝法を見つけたと思ってしまいがちです。もちろん、それは単なる勘違いで、ただの偶然なのですが。
ギャンブル依存症と性別
ギャンブル依存症は女性よりも男性がかかりやすい精神疾患とされています。これは別に男性の意思が薄弱だからというわけではありません。男性の方が闘争心や競争心に影響するテストステロンというホルモンが多く出ているためです。
女性の場合はギャンブル依存症よりも買い物依存症になる傾向が強いとされています。
ギャンブル依存症と借金と治療
ギャンブル依存症から借金に繋がるケースは少なくありません。ギャンブル依存症患者はなかなか現実に目を向けようとしないので、借金があっても開き直ったり、あるいはギャンブルで借金を返そうとしたりすることがしばしばあります。
もちろん、ギャンブルで借金が返せるわけもなく、実際には借金が雪だるま式に増えていきます。そして行き着く先は自己破産です。自己破産をするとまともな消費者金融からは借りられなくなるので、ヤミ金に手を出して破滅していきます。
周囲にギャンブル依存症と思われる人がいる場合は、そうなる前に一刻も早く治療を開始させましょう。最近はギャンブル依存症専門の医療機関も増えてきており、以前よりも治療は受けやすくなってきています。
ギャンブル依存症を自力で治療するのはほぼ不可能なので、必ず医療機関で治療させましょう。専門の医療機関にはギャンブル依存症仲間が沢山いるので、彼らと協力し合いながら治療を進めていくこともできます。
ギャンブル依存症の治療には債務整理が有効です。債務整理をすると一定の期間借金ができなくなるからです。ただし、上記のようにヤミ金に手を出して破滅する人も少なくないので、治療が不十分なまま債務整理を行うのはむしろ危険といえます。
債務整理は治療と合わせて、計画的に行っていくことが大切です。ギャンブル依存症専門の医療機関ならば債務整理についてのアドバイスが守られることも多いので、うまく利用していきましょう。