世の中には様々な依存症がありますが、その中でも特に怖いのがギャンブル依存症です。ギャンブル依存症は自分自身のみならず、他人にも多大な不利益となるとても危険な病気であり、早急な治療が望まれます。
ギャンブル依存症でない方は「あんなものやめればいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、ギャンブル依存症は病気なので、自分の意思だけで止めるのは非常に困難です。では、いったいどのようにしてギャンブル依存症を治療していけばいいのでしょうか?
目次
ギャンブル依存症は債務整理・自己破産への片道切符
そもそも人間は無意識・意識的にかかわらず、多少は何らかの物事に依存している生き物です。それは家族だったり、恋人だったり、趣味だったり……とまあいろいろです。
たいていの人間はこうした依存している対象がなくなっても、別の楽しみを見つけるなどして何とか生きて行けるものです。しかし、中にはそうしたことができず、特定の物事に対して強烈に依存してしまう人がいます。このような病気を「依存症」といいます。
依存症の中でも代表的な症状がギャンブル依存症です。ギャンブルで得た快楽・興奮が忘れられず、借金を作ってもギャンブルをし続けてしまいます。放置は治療になりえず、たいていの場合は放っておくとどんどん悪化していきます。
家族が止めても、仕事や日常生活に支障が出ても止められず、消費者金融やサラ金、闇金などから借金を重ね、最終的には債務整理(たいていの場合自己破産)にたどり行き着くこともあります。
ギャンブル依存症は病気なので簡単にはやめられない
ギャンブル依存症でない人は「ギャンブルなんてやめてしまえばいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、そう思って辞められるのならば誰も苦労はしません。ギャンブル依存症には以下のような症状があるため、簡単にはやめられないのです。
衝動性
普通の人間はギャンブルをしたいと思っても「仕事が残ってるから今はやめとこう」「今日は寒くて出かける気にならないからやっぱりいいか」「お金がないからまた今度」と何らかの理由をつけて欲望を抑えることができます。
しかし、ギャンブル依存症の人にはそれができません。会社の勤務時間だろうが、外が大雪だろうが、お金がなかろうが、やりたいと思ったらやらずにはいられないのです。ギャンブル依存が借金の原因となりやすいのはそのためです。
離脱症状
禁煙したことがある元喫煙者の方はご存知かと思いますが、タバコには離脱症状があります。辞めてから時間がたつにつれて、強烈な「吸いたい」という欲望が現れてくるのです。これを離脱症状といいます。
ギャンブル依存症にも離脱症状があります。辞めてから時間がたてばたつほど、強烈な「ギャンブルをやりたい」という欲望が現れてくるのです。
ギャンブル依存症は家庭も人間関係も壊す
ギャンブル依存症になると、多くの場合借金をしてまでギャンブルをするようになります。当然、家庭の輪は乱れます。場合によっては家庭内暴力や家庭崩壊につながることもあります。
友人にも見放され、失職し、最終的に借金のみが残ったとしても、なお辞めることができない。これがギャンブル依存症の恐ろしさです。
ギャンブル依存症になりやすいのは「真面目で友達が少なく、コミュニケーションが下手な人」
ギャンブル依存症は環境次第でだれもがなる可能性がありますが、「なりやすい人」「なりにくい人」が存在しているのは確かです。以下にギャンブル依存症になりやすい、あるいは重症化しやすい特徴を列挙します。
真面目な人
真面目というのは世間一般ではよいことのようにとらえられていますが、必ずしもそうとは言えません。真面目な人はたいていの場合「失敗してはいけない」という強迫観念にも似た考えを抱いています。
それゆえにギャンブルに嵌っていってしまっても誰にも相談できず(誰かに相談するということは失敗を認めたことになります)、一人でズブズブとギャンブルの沼に嵌ってしまいがちです。
逆に「いやあ昨日ギャンブルで10万円負けちゃったよハハハハ」などと人前で言えるような人は、周囲の人が気づきやすいので重症化する前に食い止められることが多いようです。
友達が少なく、コミュニケーションが下手な人
友人が少なければ当然周囲の人に気づいてもらうことができないので、気が付いたときには手遅れになりがちです。コミュニケーションが下手な人についても同様です。親しい人がたくさんいる人ほど、ギャンブル依存症にはなりにくいものです。
ノルアドレナリントランスポーターの多い人
人間の脳には不安を抑える「ノルアドレナリントランスポーター」という物質が存在します。この物質が多い人ほど、ギャンブルに嵌ってしまいがちということが、京都大学の調査で分かっています。
なお、ちょっと意外に思われるかもしれませんが、金銭的に裕福であるか貧しいかはあまり関係がないようです。
裕福な人はより大きな刺激を得るために掛け金を跳ね上げ、貧しい人は絞り出すようにして溜めたなけなしの金をギャンブルにつぎ込むため、掛け金の額には差が付きますが、どちらも身に余るギャンブルをしているという点では同じです。
ギャンブル依存症になる人の気持ちを考えてみよう
ギャンブル依存症になる人はなぜギャンブル依存症になるのか。その心の動きを知っておけば、自己防衛が可能になります。
ギャンブル依存症の人間はギャンブルが損であることを知っている
世の中には様々なギャンブルがありますが、どのギャンブルにも共通して言えることがあります。それは「長い間やり続ければ損をする(胴元が得をする)」ということです。そもそもそういう仕組みになっていなければ、胴元は安定して利益を得ることはできません。
たとえば、皆さんも一度図ったことがあるであろう「宝くじ」の還元率は45.7%です。つまり、宝くじを100円分買えば、平均で45.7円の当選金が得られるというわけです。
また、競輪の還元率は75.0%、サッカーくじ(toto)の還元率は49.6%、競馬の還元率は74.8%、パチンコは85.0%です。どれもどれも、続ければ損するものばかりです。
そんなことは言われなくてもわかってる、と思われるかもしれません。ギャンブル依存症の人も、それくらいのことはわかっています。
しかし人間は必ずしも合理的に行動できる生き物ではないので、こうした損をすることがわかっている行為にものめり込んでしまうのです。「もし当たったら今までの損が一気に取り返せる……」という気持ちがなくならない限りは。
ギャンブルは「得したい」のではなく「損を取り返したい」からやるものである
ギャンブル初心者がたまたま大勝してしまうことを「ビギナーズ・ラック」といいます。こうしたビギナーズ・ラックが原因で「ギャンブルは儲かるもの」と錯覚してしまい、知らず知らずのうちにギャンブルにのめり込んでいくのである……という説があります。
確かに一定の説得力がありますが、この説には明確な裏付けはありません。
経済心理学によれば、人間は得をすることよりも、損をしないことに対して重点を置くタイプの生き物です。そのため、一度損をしてしまうとそれを取り返そうと躍起になってしまう傾向があります。
このことは歴史が証明しています。負けが濃厚な戦争を「一発逆転があるかもしれない」という甘い幻想に引きずられて継続し、その結果より大きな痛手を被ったというケースは枚挙に暇がありません。さっさと降伏していれば傷が小さくて済んだのにもかかわらず、です。
もっと生活に根差したところでいえば、仕事のミスを隠すのも損したくない(怒られたくない)という気持ちによるものです。
ミスはさっさと明らかにして対処したほうがいいなんてことは皆わかっていますが、それができないのが人間の心理の面白いところであり、厄介なところでもあります。
損をしたくない、言い換えれば「失いたくない」という気持ちは、今すでにいろいろなものを持っている人ほど強烈になります。友人、家族、金……そうしたものを失いたくないがために不合理な行動をとる人は少なくないのです。
ギャンブル依存症を克服するまでのステージ
ギャンブル依存症に限った話ではありませんが、一般的に依存症には5つのステージがあります。
①無関心期
すでにギャンブル依存症になってはいるものの、そのことについて本人が特に問題であると思っていない状態です。注意されることを嫌がり、現状のままでいいと考えます。
②関心期
自分がギャンブル依存症であるということに気が付き始めます。問題を解決するための方法を探ろうとはするのですが、ギャンブル自体はやめられずずるずると継続します。
③準備期
ギャンブル依存症を治療するための病院を見つけたり、家族や友人に相談するなどして変わるための準備をします。
④実行期
準備期の計画を実行に移します。
⑤維持期
実行期の治療を維持します。
ギャンブル依存症は病院で治療できる
かつては単なる自堕落と考えられてきたギャンブル依存症ですが、現在は世界保健機関にも病気に認定されており、精神科で治療を受けることが可能になっています。個人の意思だけでギャンブルを完全に経つのは極めて困難であるため、必ず病院で治療を受けてください。
可能な限り、専門外来で治療を受けたほうがいいでしょう。近くにそうした病院がない場合は、通常の精神科でもOKです。
精神科と聞くとなんだかハードルが高そうに思えるかもしれません。精神を病んだ人たちが収容されている施設を思い浮かべられるかもしれません。
しかし、最近の精神科は病院の設備もきれいに整えられており、仰々しさもないので普通の内科などの病院と同じ感覚で入れます。精神科医も大抵の場合はまあ、普通の医者です。風邪を治しに行くような気分で、気軽に行ってください。
治療は精神療法が中心になりますが、補助的に薬物療法が採用されることも少なくありません。
精神療法は行動に人間の精神のあり方にを当てた治療法
精神療法とは、精神、つまりは心理的な側面から治療を図ることです。薬物などのように体に訴えかけるのではなく、心に訴えかけることによって治療をしていきます。中でも代表的なものにカウンセリングがあります。
カウンセリングはカウンセラーと呼ばれる治療者が、患者と面談を行い、ギャンブルに嵌ったきっかけ、何に悩んでいるのか、これからどうしたいかなどを聞き出していく治療法です。話すことによって心が楽になり、精神を安定させる効果があるといわれています。
自律訓練法は、患者が自分自身に自己暗示をかけて催眠状態になることによって精神を安定させる治療法です。人間というのは不思議なもので、痛くないと思い込んでいれば不思議と痛みを感じないものです。
それまで普通に闘っていた格闘家がゴングが鳴った瞬間に痛みでのたうちまわるというシーンがたまに見られますが、これは自己暗示による催眠が解けたためと考えられます。
強烈に「自分はギャンブルがやりたくない、あんなくだらないものは大嫌いだ」とひたすら思い込むことによって、本当にギャンブルがやりたくなくなるという効果を得ることができるといわれています。個人でやるのは難しいので、必ず専門家の指導の下で行いましょう。
グループ療法は一人ではなく、他のギャンブル依存症患者と共同で行う治療です。ギャンブル依存症のみならず、薬物やアルコールなど様々な依存症の治療に使われる、効果の高い治療方法です。
依存症は孤独な人間ほどかかりやすい病気です。言い換えれば、孤独でなくなれば寛解しやすいわけです。自助グループの同じ悩みや苦しみを抱える人と価値観や記憶を共有することによって、お互いの症状を軽減することができます。
最近は人前に出るのが苦手な人、近くにグループ療法が受けられる施設がない人などを対象とした、オンラインのグループ療法も一般的なものになりつつあります。
嫌悪療法は、問題となる行動をしたときに不快な刺激を与えることによって、問題となる行動を抑制する治療法です。たとえば、アルコール依存症では、「アルコールを飲むと吐き気におそわれる薬」が処方されることがあります。
飲むと気分が悪くなるので飲まなくなるわけですね。ギャンブル依存症の場合は「ギャンブルをしたら罰金」などという制度を家族と作っておくというやり方が考えられます。
家族療法は家族との面接を行うことによって、それぞれの人間関係を明らかにし、家族間のひずみをなくしていく治療法です。家庭内不和が原因で発生したギャンブル依存症などに対して効果が見込めます。
薬物治療は補助的に
薬物療法はギャンブル依存症においては主役になることはあまりないですが、補助的に使われることがあります。ギャンブル依存症からうつ病になっている場合は抗うつ薬が使われることがありますし、ギャンブルを我慢したストレスで胃腸病を発症した時は胃腸の薬を使います。
再発しても諦めない
ギャンブル依存症は再発すると今までの努力がすべて水の泡になるタイプの病気です。ちょっとしたギャンブルの欲求だけでも、「もしかしたら再発かもしれない」と気づくことが大切です。
長いことギャンブルをやらない期間が続くとギャンブルのことを意識しなくなりますが、それが最も危険です。治療から1年たっても、5年たっても、10年たっても、「自分は元ギャンブル依存症だったこと」を忘れないようにしてください。
とはいえ、現実的にはギャンブル依存症は非常に再発しやすい病気でもあります。再発したらあるいは再発の危険を感じたらすぐに病院に駆け込むことが、一番の治療といえます。「ちょっとぐらい大丈夫だろう」という甘い気持ちは、すべてを台無しにします。
債務整理は治療が軌道に乗ってから
ギャンブル依存症を治療するにあたって、自己破産などの債務整理を考えられる人もいらっしゃるかと思います。債務整理は確かに有効な手段ですが、安易に借金を減らせることに慣れてしまうと「また負けたら債務整理すればいいや」という考え方に陥ってしまいがちです。
債務整理後は一定期間消費者金融からお金を借りられなくなるので、闇金に手を出してしまうかもしれません。
あくまでもギャンブル依存症の治療を優先させて、それが軌道に乗ってから債務整理を行うようにしましょう。ギャンブル依存症を専門に扱っているような治療院では、治療と合わせて債務整理の相談に乗ってくれることがあります。
ギャンブル依存症は一生ものの病である
ギャンブル依存症が完全に治療されることはありません。時にはまたギャンブルをしたいという気持ちになることもあるでしょう。それくらい恐ろしい病気なのです。まだギャンブル依存症になっていない人は今後も自分を律し続けてください。
現在治療中の方も心配することはありません。恐ろしい病気ですが、うまく付き合っていくこともできないわけではないからです。苦しい場合はどんどん病院に相談して、苦しみを一つずつ消していってください。