ブラック企業という言葉が流行っている世の中ですので、うつ病などの精神病にかかってしまって働けなくなるということは、もはや他人事ではなくなってきています。
だれにでも、病気になって働けなくなってしまう可能性はあります。うつ病の場合、治療に1年以上はかかると言われているので、かかってしまうとやっかいです。
日本は社会保障が充実している国なので、ただ病気になってしまっただけならば、それほど問題は深刻ではありません。
しかし、うつ病にかかってしまっただけでなく、その時に多額の借金を抱えていたら、問題はかなり深刻です。
借金がある状態でうつ病になってしまったら
借金がある状態でうつ病になってしまっても、医療保険、生命保険に加入していたら問題ないと考える人もいるかもしれません。実は、保険金は下りないケースのほうが多く、保険金をもらえるとしても借金の返済には使えないことがほとんどです。
うつ病で保険金が給付される?
残念ながら、医療保険、生命保険に加入していても、通院の場合には給付の対象にならないのが通常です。
うつ病で入院した場合には、入院給付金が受け取れます。
保険の種類によっても異なるので、現在加入している保険を確認しておきましょう。
入院給付金で入院費用はまかなえても、保険金で借金を返済することは難しいでしょう。
保険金は解約するべきか?
終身医療保険、終身保険に加入している人は、解約をすると解約返戻金をもらえます。
最近では、解約返戻金のない終身医療保険も増えてきているようなので、自分が加入している医療保険の契約内容を確認しておきましょう。
ケースバイケースですが、借金を抱えたままうつ病になってしまった人は、終身医療保険、終身保険は解約をしないほうが良いでしょう。
なぜなら、うつ病になってしまうと入院をしたり、他の病気にかかってしまったりするリスクが増すので、医療保険や生命保険に加入できなくなってしまう可能性があるからです。
うつ病の人でも加入できる医療保険、生命保険は存在しますが、選択肢はかなり減ってしまいますし、保険料が割高になってしまう傾向があります。
そのため、すでに医療保険や生命保険に加入している人は、なるべく解約をしないほうが良いです。
保険は解約せず、債務整理などを検討するべきでしょう。
公的健康保険による保障
日本ではすべての人が公的健康保険に加入しています。サラリーマンやOLなどの給与所得者なら健康保険に加入しています。自営業の人は国民健康保険に加入をしています。
健康保険に加入している人は、傷病手当金が受け取れます。
傷病手当金とは、業務外の事情で病気や怪我で働けなくなった時に、最長1年6ヵ月給料のおよそ3分の2が受け取れる制度です。
業務上の事情で病気や怪我をした時には、労災が下りますので、対象外となります。うつ病の場合には、基本的には労災が下りないので、傷病手当金を受けることになるでしょう。
労災が下りるケースもある
パワハラ、セクハラ、長時間労働など、業務上の心理的な負荷が原因でうつ病になった場合には、労災が下りるケースもあります。
しかし、会社と戦う気持ちが必要になります。場合によっては弁護士を雇う必要もあるかもしれません。
労災が下りると、傷病手当金よりも手厚い保障が受けられます。
障害基礎年金、障害厚生年金を受けられる?
うつ病の人は、国民年金もしくは厚生年金に加入している間に初診日があれば、障害基礎年金、障害厚生年金を受けられる可能性があります。
障害基礎年金は障害等級1級~2級の人が、障害厚生年金は障害等級1級~3級の人が受けられます。
うつ病の人が障害年金をもらうことは難しいと言われていますが、もらっている人もたくさんいますので、医師と相談をした上で、可能性がありそうならば申請してみましょう。
まずは傷病手当金をもらい、傷病手当金の期間が切れて、まだ働ける状態まで回復しそうになかったら、障害年金を検討してみるのが良いかもしれません。
個人事業主は保障が少ない
傷病手当金という制度は、自営業の人などが加入している国民健康保険にはありません。また、労災保険についても、個人事業主は加入ができません。
個人事業主の人は100%のリスクを負っていると言われることがありますが、このような理由が関係しています。
失業保険が受けられる?
失業保険をもらうための条件は、「失業日から遡って過去2年間に被保険者期間が12カ月以上あること」です。
フルタイムで働いていた人なら原則として雇用保険に加入しているので、単純に1年以上働いていれば失業保険がもらえると考えておいて良いでしょう。
問題は、自己都合で退職をした場合には失業保険をもらう前に3ヶ月の待機期間があるということです。
会社の都合で突然解雇された場合に比べて、自己都合で退職をした人は十分に準備をしているだろうと考えられることが、3ヶ月の待機期間がつくことの1つの理由となっています。
しかし、うつ病で退職をした場合には、自己都合ではあるものの、やむを得ない理由であるとも言えます。
病気が理由なら待機期間をなしにできる
実は、体力不足、心の障害、病気などが原因で退職をした場合には、特定受給資格者になり、3ヶ月の待機期間がつかなくなります。
うつ病の人は、あらかじめ病院に通院しておき、病気が原因での退職であるということを証明できるようにしておくと確実です。
しかし、うつ病の人はもう1つ問題があります。それは、失業保険を受けるためには、「本人に働く意思と能力があり、積極的に就職活動をしていること」も条件になっていることです。
軽度のうつ病で働ける状態の人なら、失業保険を受けられる可能性もありますが、働くことが難しい状態である場合には、失業保険は受けられません。
その場合には、傷病手当金をもらうことになるでしょう。
失業保険は受給開始時期を最大で3年間先延ばしにすることができます。うつ病で傷病手当金を1年と6ヵ月間もらった後、病気が治って働ける状態になったら失業保険を受給するということが可能です。
借金を返済するには足りない
このように、うつ病で失業をしても、なんとか生活はできる可能性が高いですが、借金を返済していけるだけの余裕はないケースがほとんどになるでしょう。
傷病手当金でもらえるのは給料の3分の2程度ですので、それまで高い給料を得ていた人をのぞいて、生活をするのでギリギリになるのではないでしょうか。
失業保険については、過去6ヶ月の平均給料の4割~8割程度になりますので、さらに生活はギリギリになります。
カードローンで解決ができる?
うつ病になって働けなくなる前に、カードローンの借り換えを検討してみましょう。
例えば、消費者金融で金利18%で50万円を借りている状態なら、銀行カードローンに借り換えをして、金利を14%にまで下げることで、負担を減らすことができます。
クレジットカードのキャッシング枠50万円(金利18%)、消費者金融から50万円(金利18%)の合計100万円を借入しているという状態などなら、おまとめローンを利用することで負担が減らせます。
うつ病で働けなくなってしまったら、カードローンの審査に通ることは難しくなります。
しかし、まだ軽度のうつ病だったり、「うつ病の疑いがある」と診断されただけの状態なら、仕事を辞めなければならない段階ではないので、カードローンの審査に申込みをしても問題ありません。
審査では、「自分はうつ病です」と申告する必要はなく、年収、勤務形態、勤続年数、個人信用情報などの属性が良ければ可決される可能性は十分にあります。
早い段階でカードローンの借り換えを検討してみましょう。
後で説明する債務整理という方法などもありますが、デメリットも大きいので、借り換えやおまとめローンといった方法で解決できるならばそれが一番良いです。
債務整理をしよう
借金を抱えている状態でうつ病になってしまったら、早い段階で債務整理を検討してみましょう。
債務整理は重大な契約違反にあたりますので、金融事故として扱われ、個人信用情報に「異動」という記録が残ってしまいます。
いわゆるブラックリストにのった状態になってしまうということです。
しかし、うつ病になってしまったら、ブラックリストにのるというデメリットよりも、借金を減額できるというメリットのほうが大きいというケースも多いでしょう。
まずは契約を守ったまま借金を減額できる借り換えローンやおまとめローンを検討してみて、それでも借金の負担が大きいようなら、債務整理を考えてみましょう。
債務整理の種類
債務整理には、任意整理、特定調停、個人再生、自己破産という4つの種類があります。
特定調停は任意整理とよく似ており、基本的には任意整理のほうがよく利用されるので、以下では任意整理、個人再生、自己破産の3つの手続きについて考えてみます。
過払い金がある場合
弁護士に債務整理の相談をすると、過払い金の有無については必ず確認がされます。
過払い金が発生している可能性があるのは、2006年以前に消費者金融やクレジットカードのキャッシング枠で借入をしていた人です。
例えば、借金の残高が100万円であり、過払い金の金額が120万円ならば、借金を完済して、さらに20万円のお金が戻ってきます。
過払い金請求の注意点
過払い金を引き直し計算して借金がゼロになる場合には、デメリットなしで過払い金請求ができます。
しかし、過払い金を引き直し計算しても借金が残る場合には、ブラックリストにのってしまいます。
例えば、借金の残高が100万円であり、過払い金の金額が80万円ならば、過払い金を引き直し計算すると20万円の借金が残ってしまいます。この20万円の借金は任意整理をすることになるので、ブラックリストにのってしまいます。
いずれにしても、うつ病の人は借金をそのままにはしておけないでしょうから、まずは弁護士に相談をしてみましょう。
弁護士に過払い金請求の相談をしてみて、債務整理をしなければいけないようなら、もう一度よく考えてから決めましょう。
過払い金には10年の時効があるので、できるだけ早い時期に相談をするようにしましょう。
基本的には任意整理で解決をしたほうが良い
任意整理、個人再生、自己破産という手続きのいずれを選択するべきかということで迷ったら、次のことについては知っておいたほうが良いです。
個人再生・・・JICCには5年間、CICには載らない、KSCには10年間
自己破産・・・JICCとCICには5年間、KSCには10年間
任意整理、個人再生、自己破産をした場合、ブラックリストに載る期間は上の表のようになっています。
任意整理では、JICCにだけ5年間「異動」という記録が残ります。任意整理が一番デメリットの少ない手続きであると言われている理由の1つが、ブラックリストに載る期間が短いということにあります。
CICは主にクレジットカードを発行している信販会社が加入しています。JICCには消費者金融が主に加盟しています。
KSCは全国銀行個人信用情報センターの略であり、主に銀行が加盟しています。
任意整理をした場合、JICCにだけ事故情報が記載されるので、消費者金融の審査には5年間通らなくなりますが、クレジットカードの審査には通る可能性があります。
しかし、信販会社の多くはCICとJICCの両方に加盟しているので、クレジットカードも5年間は持つことが厳しいという意見もあります。
また、3つの個人信用情報機関はCRINというシステムでつながっているので、事故情報は共有されているようです。
しかし、CRINではすべての情報が共有されているわけではないので、任意整理をしただけの場合には、クレジットカードの審査に問題なく通るということもあるかもしれません。
同じ任意整理でも延滞をしているとデメリットが大きくなる?
ここで、任意整理をする前に延滞をしているかどうかが重要になるということも知っておきましょう。
Aさんのケース・・・1ヶ月延滞をした後で、任意整理をした
このケースでは、1ヶ月延滞をしていますので、CICとJICCに延滞の記録が残ります。
さらに、任意整理をしたのでJICCには「異動」の記録が残ります。
結果的に、CICには延滞の情報が5年間、JICCには延滞の記録が1年間、「異動」の情報が5年間残ってしまいます。
Bさんのケース・・・3ヶ月の延滞、代位弁済がされた後で任意整理をした
このケースでは、3ヶ月の延滞をしているので、CIC、JICC、KSCのいずれにも「異動」の記録が残ってしまいます。
さらに、代位弁済をされたことも、「異動」の記録が残る理由になります。
その後に任意整理をしていますが、結果的には3つの個人信用情報機関すべてで、ブラックリストに載った状態になってしまいます。
Cさんのケース・・・延滞がない状態で任意整理をした
このケースが一番理想的です。延滞をしていないので、CICには不利な記録が残りません。
3ヶ月の延滞や代位弁済もないので、KSCにも記録が残りません。
結果的に、JICCにだけ任意整理をしたことによる「異動」の記録が残ります。
結論!延滞をする前に弁護士に相談をすることが重要
せっかく任意整理のデメリットは小さくなっているのに、その前に長期延滞をしてブラックリストにのってしまっていたら、もったいないです。
借金が返済できなくなると、投げやりになってしまってギリギリに追い詰められるまでは放置してしまう人も多いですが、なるべく早い段階で弁護士や司法書士に相談をしましょう。
うつ病の人は任意整理ができないの?
任意整理をすると、遅延損害金と将来利息が全額カットされます。延滞をしていないのなら遅延損害金は発生していないので、利息のカットという効果がだけがあります。
消費者金融やクレジットカードのキャッシング枠では、金利が18%になっていることが多いため、将来利息が全額カットされることの効果は大きいです。
借金が200万円ある場合、5年かけて返済をしていたら返済総額が300万円~400万円になってしまうこともザラにあります。
この場合、100万円~200万円の減額ができるので、弁護士費用を差し引いても大きく負担を減らせます。
うつ病でも任意整理ができる?
まだ軽度のうつ病であり、仕事が続けられる人ならば、任意整理ができるかもしれません。
しかし、仕事が続けられないほどの状態である場合には、元本を返済していくことすら困難で、任意整理ができないこともあります。
また、任意整理が成功したとしても、その後の返済ができなくなってしまったら、自己破産をしなければならなくなってしまうかもしれません。
後から返済ができなくなって自己破産をするくらいなら、最初から自己破産をしておいたほうが時間も費用も節約できます。
弁護士や司法書士に相談をして、よく考えてから任意整理の決断をしましょう。
個人再生と自己破産
うつ病の人は、基本的には自己破産を選ぶべきかと思われます。
自己破産をすると、借金をすべてゼロにできますので、その後働けない状態になっても、借金の心配がなくなります。
個人再生のほうが良いケースもあるが・・
個人再生では、住宅ローンだけはいっさい減額ができませんが、住宅ローンの返済を続けることを条件に、マイホームが残せることがメリットです。
個人再生では借金を5分の1程度にまで減らせると言われていますが、これは借金の金額が500万円~1500万円であるケースです。
個人再生で減額できる借金は、
500万円~1500万円・・・5分の1まで
1500万円~3000万円・・・300万円まで
3000万円~5000万円・・・10分の1まで
となっています。借金が100万円以下の場合には、基本的にメリットがありません。
個人再生では最低でも100万円の借金が残ってしまうので、うつ病を抱えている人にとっては不安でしょう。
せっかく個人再生をしたのに、借金が返済できなくなって自己破産をすることになってしまうくらいなら、最初から自己破産をしておくべきです。
数ヶ月で病気が回復して、働けるようになる可能性もありますので、個人再生を選ぶべきケースがまったくないとは言えませんが、リスクについてもよく考えておきましょう。
最後のセーフティーネット!生活保護を受られるケースも
うつ病になって働けなくなってしまった人の最後のセーフティーネットと言われるのが、生活保護という制度です。
生活保護は最後のセーフティーネットなので、まずは傷病手当金、失業保険などの制度を検討するべきです。
うつ病になった人は自立支援医療制度が利用できる可能性が高いので、自立支援医療制度についても検討してみましょう。
自立支援医療制度が受けられれば、医療費が3割負担から1割負担にまで減らせます。
さらに、一定の条件を満たせば、「月額医療費の上限を5000円」にすることができます。すなわち、月額の医療費が5000円を超えた場合には、それ以降その月は医療費がゼロになります。
うつ病の治療には時間がかかる
うつ病になる人は、決して怠け者の人ではありません。むしろ、うつ病という病気は脳が疲れた状態にあるので、がんばりすぎてしまう人がなってしまう傾向があります。
うつ病の治療で重要なのは、十分に休養をとることです。
軽度のうつ病ならば数ヶ月で治ってしまうケースもありますが、本格的にうつ病になってしまうと、1年以上は仕事を休んで十分に休養をとらなければなりません。
自営業の人で社会保険にも雇用保険にも加入していなかった人は、最後のセーフティーネットである生活保護のお世話になる可能性が高いかもしれません。
生活保護を受けるなら自己破産は待ったほうが良い?
生活保護を受けている人は、法テラスの立替制度が利用できますが、自己破産の手続きが終わった時点でもまだ生活保護を受けていたら、返済の義務が免除されます。
すなわち、弁護士費用などのコストをいっさいかけずに自己破産をすることができます。
弁護士への相談は早い段階でしておくべきであると書きましたが、生活保護を受けることがほぼ決まっている人は、債務整理をするのは生活保護を受けてからにするべきです。
逆に、まだ貯金があるので生活保護を受けるのはしばらく先になりそうだという人は、早い段階で弁護士に債務整理の相談をするべきです。
相談をするだけならばデメリットはないので、まずは借金問題に強い法律事務所で相談を受けてみましょう。