中小企業向けの融資制度をいくつかありますが、その中の一つに地方地自体の「中小企業制度融資」があります。
地方自治体の制度融資は前回紹介の記事で紹介した日本政策金融公庫からの融資と違い、金利の一部を自治体に負担してもらえたり、審査に通りやすかったりというメリットがあります。一方で審査にかかる時間が長いなどのデメリットも多く、利用の際には注意が必要です。
中小企業制度融資で事業資金を借りるメリット
中小企業制度融資とは、都道府県や一部の市区町村、金融機関、信用保証協会などが協調し、中小企業向けに融資を行う制度です。
基本的には自治体が金融機関に対してお金(預託金)を預け、金融機関が融資を行い、それを信用保証協会が保証するという仕組みになっています。このような仕組みのため、信用保証協会付き融資と呼ばれることもあります。
各地方自治体ごとに制度融資の内容は微妙に異なっていますが、融資を受けるには信用保証協会からの保証が必要になるという点は共通しています。
信用保証協会は保証料を支払うことによって保証人の代わりになってくれる機関です。仮に債務者の返済が滞った場合、信用保証協会が金融機関に対して返済を行い、債務者は信用保証協会に対して支払いを行っていくことになります。中小企業制度融資の主なメリットは以下の4点です。
- 金利が低い
- 金利の一部を自治体が負担してくれることがある
- 目的別ローンが充実している
- 審査に通りやすい
- 据置期間が長い
中小企業制度融資の金利は日本政策金融公庫よりもさらに低金利
中小企業制度融資のメリットは金利が低いことです。日本政策金融公庫の融資と比べてもさらに金利が低く、1%を切ることも少なくありません。
ただし、日本政策金融公庫には「女性、若年、シニア起業家資金」「生活衛生貸付」など、金利引下げ措置が数多く用意されているため、融資を受ける目的によっては日本政策金融公庫を選んだほうがいいこともあります。
自治体によっては金利の一部を負担してもらえる
中小企業制度融資では、金利の一部を自治体が負担してくれることもあります。ただでさえ少ない利息負担が、さらに少なくなります。日本政策金融公庫の融資にはこのような仕組みはなく、ここが中小企業制度融資の大きなメリットとなっています。
目的別ローンは10個以上あることも
中小企業制度融資は地方自治体の制度であるため、地方自治体ごとに融資の種類は異なっています。大抵の自治体では5個以上、力を入れているところでは10個以上のローンが存在し、目的に応じて使い分けられます。
目的別ローンは普通貸付と比べて更に金利が低く設定されていることが多く、上手に使えば利息の支払いをさらに減らせます。例えば東京都の場合、以下のようなローンが利用できます。
- 小口:1250万円以下の小口貸付。運転資金、設備資金などに使える。
- 小規模企業:8000万円までの貸付。運転資金、設備資金などに使える。原則として従業員が30人以下(一部業種では10人以下)でないと使えない。
- 経営一般:1億円までの貸付。売上減少、取引先倒産、災害などで一時的に経営が悪化している場合に利用できる。
自治体によって融資制度には差があるので、気になる方は一度検索してみてください。
保証がつくので審査に通りやすい
中小企業制度融資では必ず信用保証協会の保証を受けることになるため、審査に通る可能性はかなり高いです。
債務者が万が一破綻しても信用保証協会が代わりに支払ってくれるため、金融機関は事実上ほぼノーリスクで貸し出すことができます。もちろん審査がザルというわけではないですが、審査合格率はかなり高いです。
据置期間が長いので、返済にゆとりが持てる
中小企業制度融資では、据置期間(利息だけを支払い、元本を返済しないでよい機関)が長め(大抵の場合1年)に設定されています。
通常、据置期間を長くすると支払期間が伸び、利息の支払いがかさんでしまうのですが、前述の通り中小企業制度融資は非常に低金利なので、
このようなことをしても利息の支払いはあまり増えません。創業直後は手元に資金がないと何かと大変ですし、据置期間を長めに設定できるのは大きなメリットと言えます。
中小企業制度融資のデメリット
このように何かとメリットが多い中小企業制度融資ですが、一方でデメリットも存在します。主なデメリットは以下の3点です。
- 借りられる額が少ない
- 自治体ごとに融資の内容が異なる
- 審査に時間がかかる
借入額は原則自己資金と同額まで
中小企業制度融資の借入上限額は自治体によって異なりますが、多くの自治体では自己資金と同額までとしています。日本政策金融公庫の借入上限額が自己資金の9倍までとなっているのと比べると、かなり少なめです。
日本政策金融公庫でも実際に自己資金の9倍まで借りられることはほぼなく、通常は2~5倍程度にとどまることがほとんどですが、それでも中小企業制度融資よりも多いことには変わりありません。
初期費用が多くなりそうな場合は、日本政策金融公庫の融資制度を利用したほうがいいでしょう。
自治体によって内容や審査基準が異なる
中小企業制度融資の内容や審査基準は都道府県・市区町村ごとに異なります。自治体によっては中小企業制度融資に消極的なところもあります。全体として、創業者の絶対数が少ない地方都市では審査が易しく、都市部では厳しくなる傾向があるようです。
もちろん、ビジネスプランが優秀ならば地方でも都市部でも問題なく審査には通過できますし、そもそも担当者によって判断基準が微妙に異なるため、都市部では中小企業制度融資が使えないと考えるのは間違いです。
審査には2ヶ月ほどかかることも
日本政策金融公庫の審査は通常1ヶ月程度、長くても1ヶ月半程度で終わることが多いですが、中小企業制度融資の審査は平均的なペースで2ヶ月ほど、長い場合は3ヶ月程度かかることもあります。
中小企業制度融資では信用保証協会も審査を行ううえ、地方自治体の事業計画修正にも付き合わなければならないため、どうしても時間がかかるのです。中小企業制度融資を利用する場合は、かなり早めに申し込んだほうがいいでしょう。
中小企業制度融資の流れ
中小企業制度融資を受ける際の大まかな流れは以下のとおりです。
- 事業計画書の作成
- 地方自治体への申請
- 地方自治体による審査(面談)
- 金融機関への申請
- 金融機関の審査
- 信用保証協会への申請
- 信用保証協会の審査
- 融資
なお、これはあくまでも一般的な流れであり、自治体によっては手順が異なることが有ります。
例えば、横浜市中小企業融資制度は概ね上記の流れに沿って進みますが、神奈川県中小企業融資制度の場合は先に信用保証協会が審査を行い、その後金融機関が審査を行います。
事業計画書は入念に作成し、自分と他人で確認する
事業計画書とは、企業概要、事業内容、事業方針、資金計画などを細かくまとめた書類の総称です。正式な書き方などは存在せず、ある程度自由に作ることが出来ますが、以下の点を抑えておくといいでしょう。
- 事業プラン名はわかりやすくつける
- 事業内容はターゲットや商品を細かく具体的に書く
- 市場環境の分析、競合他社と比べた時の優位性などをアピールする
- 考えられるリスク、今後起きうる危機とその対策法についても明記する
- 資金計画は現実的な範囲に抑える
事業計画書が完成したら、まずはそれを自分で読み返します。何回読み返しても完璧だと思えるようになったら、次に個人事業主仲間などに見てもらいます。
自分では完璧だと思えていても、他人から見ると欠点が意外とあるものです。自分と他人の意見を参考に、事業計画書をどんどんブラッシュアップしていきましょう。
申込みは事業所がある地方自治体で行う
中小企業制度融資を利用するにあたっては、まずは地方自治体にそれを利用したい旨を告げます。
これは自治体によっては必須ではないこともありますが、やっておくと後の信用保証協会や金融機関の審査に格段に通りやすくなるという大きなメリットが享受できます。
なお、ここで言う地方自治体とは「事業所がある自治体」であり、「自宅がある自治体」ではないので注意が必要です(両方とも同じ自治体ということもあるかと思いますが)。
担当者に事業計画を診てもらおう
地方自治体に中小企業制度融資の利用をしたい旨を告げると、担当者(中小企業診断士)が事業計画をチェックしてくれます。内容に問題がなければ、紹介状を発行してもらえます。これがあると後の審査で有利になったり、金利が低くなったりします。
ただし、一発で紹介状がもらえることはほぼありません。大抵の場合、数回の修正が入ります。面倒に感じられるかもしれませんが、それに見合ったメリットはあります。
金融機関に紹介状を持っていく
紹介状をもらえたら、金融機関に紹介状を持っていって、審査を受けたい旨を伝えます。金融機関ならどこでもいいというわけではなく、事前に地方自治体から「この中から選んでください」と明示された金融機関の中から選ばなければなりません。
メガバンク、その地域の地方銀行、信用金庫などが選択肢になるかと思いますが、基本的には審査の時点ですでに付き合いがある金融機関を選ぶといいでしょう。
金融機関の審査では事業計画のみならず、経営者の人柄なども対象になる
紹介状がある場合、事業計画についてはすでに地方自治体の担当者から合格が出ているということになります。つまり、事業計画についてはある程度すでに認められているというわけです。従って、金融機関の審査では、事業計画とは別の部分もかなり重視されます。具体的には、以下のような点が重視されます。
- 経営者の人柄
- 事業経験
- 自己資金の金額
- 資金用途
- 返済計画
そして、この中で金融機関の審査で意外と重視されるのが、経営者の人柄です。経営者の人柄と言われてもあまりにもぼんやりとしすぎてよくわからない、と思われるかもしれませんが、基本的にはハキハキとよく喋り、聞かれたことに素直に答えていけば問題ないでしょう。
暗いこと、ボソボソ喋ることはそれ自体は悪いことではありませんが、個人事業主には向いていないと取られることがあります。
金融機関の審査終了後、信用保証協会の審査へ
金融機関の審査に無事合格すると、金融機関は信用保証協会に対して書類を送付してくれます(自分で送付することもあります)。
信用保証協会はその書類を元に審査を行います。審査基準は基本的には金融機関のそれと代わりありませんが、金融機関のそれと比べるとやや厳し目です。
金融機関は万が一のことがあっても信用保証協会に支払いを肩代わりしてもらえますが、信用保証協会はその万が一があると困るからです。
融資
融資が実行されたら、事業を行い、利益を上げながら返済を進めていきます。
中小企業制度融資Q&A
最後に、中小企業融資制度でお金を借りる際のQ&Aについてまとめました。
借入形式はどうなっている?
地方自治体によって異なりますが、通常は証書貸付か手形貸付のどちらかです。
証書貸付とは、融資条件を記載した証書を作成する貸付です。一般的には比較的長期・多額の融資の際に利用されます。毎月の返済額が少なくなりがちなため、借り過ぎに注意が必要です。
手形貸付は金融機関に手形を差し入れる貸付です。返済期間は原則として1年以下で、通常はソフトウェアの開発費や建築工事の人件費などの運転資金に当てられます。借入を増やすことなく事業を回せる反面、開発や工事に遅れが出て入金が送れた場合、リスケジュールが必要になります。
審査に早く通るコツはある?
必要な書類を事前に用意しておくと、審査がスムーズに進みます。ただし、必要な書類を事前に揃えるのにも時間がかかります。このことを考えると、審査に早めに通るためには、早めに準備するのが一番いいといえるでしょう。
事業所が複数の自治体ある場合はどこの自治体に申し込めばいいの?
原則として、営業の本拠(確定申告上の主たる売上のある事業所)のある自治体に申し込みます。それ以外の事業所がある自治体では原則申し込めませんので気をつけましょう。
自宅がある自治体では申し込めない?
自宅がある自治体と事業所がある自治体が同じである場合は申し込めます。自宅がある自治体と事業所がある自治体が違う場合は申し込めません。
例えば、自宅が横浜市にあり、事業所が目黒区にある場合、神奈川県及び横浜市での申し込みはできませんが、東京都および目黒区での申し込みができます。
日本政策金融公庫と中小企業制度融資で迷ったらどちらを選ぶべき?
状況により異なります。
まず、創業時点でどちらを使えばいいか迷った場合は、基本的に日本政策金融公庫の利用をおすすめします。
日本政策金融公庫の融資上限額は自己資金の9倍で、中小企業制度融資の上限である自己資金と同額(1倍)を大きく上回っています。
実際に自己資金の9倍まで借りられることはまずありませんが、それでも2~5倍ぐらいまでなら結構借りられるため、大量の資金が必要な事業を起こす場合は日本政策金融公庫をおすすめします。
創業してからある程度時間が経っていて、まとまった資金ではなくつなぎ資金などが必要な場合は、中小企業制度融資がおすすめです。こちらのほうが金利が安く、自治体から資金を助成してもらえることもあるからです。ただし、日本政策金融公庫は様々な金利引き下げ制度があるため、場合によってはこちらを利用した方がいいこともあります。
まとめ
- 中小企業制度融資は低金利で審査に通りやすい個人事業主向けの融資制度
- 据置期間が長く、余裕を持って返済しやすい
- 審査にかかる期間は長いので、余裕を持って申し込むと良い
中小企業制度融資は、個人事業主にとっては非常に有用な制度です。資金集めに難儀している方は、制度の利用を検討してみて下さい。