来るべき「お金の価値の変動(物価上昇)」に備える投資術

一生働かずに暮らしていくためには3億円必要だとか、昔の1両は今の約13万円だとかいう話を聞いたことがあるかと思います。しかし、これらの計算はすべて「現在の貨幣価値に換算する」ことを前提としています。

忘れがちな話ですが、お金の価値は常に上下しています。昔の1円で買えるものと、今の1円で買えるものには大きな差があります。

では、一体なぜお金の価値は変動するのでしょうか。そして、そのお金の変動に備えるすべはあるのでしょうか。考えてみたいと思います。

145年の歴史の中で1円の価値は3800分の1になった!

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現在使われている日本の通貨単位である「円」は、明治4年(1871年)5月10日に制定されたものです。当時は旧字体の「圓」で表されていました。現在円を法定通貨として採用している国は、日本とジンバブエです。

また、以前は円の他に銭と厘という単位もありました。銭は1円の100分の1、厘は銭の10分の1(円の1000分の1)です。銭と厘は昭和28年(1953年)に使用・中通勤師となってしまいましたが、現代でも為替や株の取引などの単位で銭が使われることもあります。

さて、ここで明治時代の物価を見てみましょう。明治時代はそれまでの鎖国が終わり、海外から様々な食料品や衣料品、更には映画といった文化が輸入されていた時期でした。したがって物価変動も激しく、明治時代でも初期と後期では物価に大きな差があります。

ここでは、明治38年(1905年)を基準にしてみましょう。この時点での主な品の平均価格は以下のとおりです。

  • 米10kg:1円19銭
  • カレーライス:6銭
  • 高等国家公務員の初任給:50円
  • 銀行の初任給:35円
  • 小学校教師の初任給:12円
  • 国鉄の初乗り料金:5銭
  • 映画館の入館料:20銭
  • 新聞購読料(1月):45銭
  • 銀座にある土地(1坪):300円

どれも今と比べるとだいぶ安いですね。安いと感じるということは、それだけ現代と比べると1円の価値が高かったということになります。

価格の上昇率は商品によってまちまちなのですが、今の物価で明治38年の物価を割った場合、大体3800倍になります。つまり、物価は明治38年の頃と比べて3800倍になっており、1円の重みは3800分の1になっているわけです。

意外と高い平均インフレ率

110年の間に物価は3800倍になりました。仮に物価が一定の割合で上昇していると考えた場合、1年あたりの物価インフレ率(物価上昇率)はいくらになるのか計算してみましょう。(1+x)110=3800となる式を解けばOKです。

これをXについて計算すると、X=0.078となります。つまり、平均のインフレ率は7.8%となるわけです。昨今のデフレが続く日本からしてみると、だいぶ高い数値に思えますね。

ただ、とは言えもちろん日本の物価が安定して毎年7.8%ずつ高くなっていったわけではありません。戦後の日本ではハイパーインフレーションという、短期間の間に物価が急騰する現象が発生し、1945年~1949年のわずか4年間の間に物価は70倍になっています。

一方で最近はインフレが殆ど止まっているどころかデフレが顕在化しておリ、政権はデフレ脱却のためにインフレ率の目標を2.0%と設置するなどしています。

物価と需給の関係

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「需要と供給」について高校の政治経済で習ったという方は少なくないかと思います。ここでそのおさらいをしてみましょう。いま、ここにある財があり、ある価格が与えられているとします。例えば米10kgという財に4000円という価格が与えられているとします。

市場には、「この価格なら米を買いたい」と考える人と、「この価格なら米を売りたい」という人が現れます。前者の「買いたい」という要望を「需要」、後者の「売りたい」という要望を「供給」と言います。

需要というのは、基本的に価格が安ければ安いほど増えます。価格が安くなれば「こんなに安いなら買ってもいいかな」という人が増えるからです。

一方、価格が高くなると「こんなに高いのならいらないや」として市場から撤退してしまう人が増えるため、需要は減ります。需要と価格は反比例の関係にあるのです。

一方、供給は基本的に価格が高ければ高いほど増えます。価格が高くなれば「こんなに高くしても売れるなら売ってもいいかな」という企業が増えるからです。

一方、価格が安くなると「こんなに安くしないと売れないのなら生産するのはやめよう」と考え市場から撤退する企業が増えるため、供給は減ります。供給と価格は比例の関係にあるのです。

さて、米10kg=4000円で取引できる市場には、どの程度売買いたい人と売りたい企業が現れるでしょうか。仮に買いたいという需要の合計が3000袋で、売りたいという供給の合計が5000袋だったとします。

この場合、米を欲しがっている人は全員が米を買うことができますが、売りたい企業の手許には米が2000袋余ってしまいます。

このことを受けて、企業は次回に米を売るときにはもう少し安く売ります。安くすればそれだけ需要が増えるからです。一方、価格を安くするくらいならば売らないほうがマシ、と考える企業もあるため、供給は減ります。

このような思惑が働いた結果、米10kg=3500円となり、需要の合計は3500袋、供給の合計は4500袋になりました。

この場合、やはり米を欲しがっているすべての人が買うことができますが、売りたい企業の手許には1000袋余ってしまいます。それならばと企業は、更に価格を下げます。価格をさらに下げたので需要は増え、供給は減ります。

そして米10kg=3000円となり、需要の合計は4200袋、供給の合計は3800袋となりました。今後は、米が欲しがっている人に行き渡らなくなってしまい、400袋分の需要超過(供給不足)が発生してしまいました。

この状況を見た企業は、需要のほうが多いのならばもうちょっと高くしてもいいだろう、と考え、価格を上げます。価格が上がればそれだけ需要は減り、供給は増えます。

この結果、米10kg=3200円となり、需要の合計は4000袋、供給の合計も4000袋となりました。つまり、企業の作った米が1袋も余ることなく、なおかつ1人もあぶれることな過不足なく行き渡ったわけです。

これは消費者にとっても、企業にとっても最適な状態であるため、一度この価格を見つけることができれば価格は基本的に動きません。このような状態を均衡状態と言います。今回は米を例に出しましたが、他の財でも同じことがいえます。

では、なぜ物価は上昇するのか

このことだけ見れば、短期的に物価が変化することはあっても、長期的には物価は均衡価格で安定し続けるはずです。一体なぜでしょうか。

例えば、米3200円のときの需要の合計は4000袋、供給の合計は4000袋となっています。理想的な状態です。しかし、この時突然米の生産技術に革命が起きて、今よりもずっと安価に大量の米を生産することが出来るようになったらどうなるでしょうか。

米がより安価に生産できるようになった場合、新規参入が増え、既存の企業も生産量を増やすはずです。すると3200円で売ってもいいと思える量は、4000袋よりも増えるはずです。

例えば、この生産技術革命によって、生産量が5000袋になったとしましょう。均衡状態が破れ供給過剰になってしまったので、価格は下がります。その結果、米10kg=2800円のところで、需要の合計が4200袋、供給の合計が4200袋で均衡します。

生産技術革命の熱が冷めかけた数年後、今度は小麦の生産技術革命が起きました。今までよりも遥かに安価に、しかも大量に小麦が生産できるようになりました。すると、小麦と競合関係にある米の需要は大きく減るはずです。

今まで10kg=2800円ならば4200袋あった需要が、3000袋まで落ち込んでしまいました。再び均衡が崩れてしまい、供給過剰になってしまったので、価格は下がります。

その結果、米10kg=2000円のところで、需要の合計が3000袋、供給の合計が3000袋のところで均衡します。

このように、需給のバランスは様々な外部要因によってたやすく変動します。そのため、多くの商品はいつまでたっても価格が安定せず、上がったり下がったりするのです。

外部要因による需要の変化

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上記の例では小麦粉の生産性が上がったことによりそれと競合する米の需要が落ち込んだ例について紹介しましたが、もちろん米の需要を増減させる外部要因はこれだけではありません。主な外部要因は以下のとおりです。

所得の増減

所得が増減すると、需要も変化します。例えば、物価がそのままで、突然所得が今の2倍になったらどうなるでしょうか。中には増加分を全て貯蓄に回す人もいるかもしれませんが、一方で増えた所得を消費に回す人もいるはずです。

消費が増えるということは、需要が増えるということです。従って、一般的には所得が増えれば増えるほど、ものの需要は増えます。

ただし、どの程度需要が増えるかはものによって違います。ちょっと所得が増えただけで需要が一気に増加するようなものもあれば、たくさん所得が増えたのにちょっとしか需要が増えないようなものもあります。

また、所得が増えても需要が殆ど変わらないものもありますし、所得が増えることによって逆に需要が減ってしまうものもあります。所得が増えると需要も増えるものを「上級財」、所得が増えると需要が減る財を「下級財」と言います。

所得が増えたのに需要が減る、と言うのは少し考えづらいかもしれません。例えば、いま世の中に涼しさを得る方法が扇風機とエアコンの2種類しかないとします。みんな所得が低いのでエアコンは買えず、扇風機を使っています。

しかし、所得が増えればその中の一部の人がエアコンを買うようになります。エアコンが売れるようになれば、扇風機の需要は当然落ち込みます。このように、「より高価で上位互換じみたもの」があるものは、所得の増加によって需要が減ることがあります。

米の場合はどうでしょうか。米は生活必需品であり、多くの人が主食にしています。所得が仮に2倍になったとしても、食べられる量が2倍になるわけではないので、実質的な需要はほとんど上昇しないでしょう。逆に海外旅行などの贅沢品は、所得が増えると大きく需要も増えます。

嗜好の変化

嗜好の変化とは人々の好みが変化することです。しばしば流行という形によって現れます。たとえば、今国内で米が大ブームになり、普段お米を食べなかった人も食べるようになったらどうなるでしょうか。

当然、需要が増えます。逆にお米は体に悪いという報道がり返されれば、多くの人がお米を控えるようになるので需要は減ります。

嗜好の変化の具体例としてよくあげられるのが「たまごっち」です。1990年台後半のあの熱狂を覚えていらっしゃる方も少なくないでしょう。

あのブーム時には、定価がせいぜい2000円程度のたまごっちが何万円もの価格で裏取引されていました。それだけたまごっちの需要が異常に高かったのですね。

ちなみに、一時的にブームになったたまごっちでしたが、その後急速にブームは沈静化。それまで経験したことがないブームに浮かれすぎて大増産を行った開発元のバンダイは不良在庫の山に悩まされ、最終的には45億円の赤字を計上してしまいました。

他の財の価格変化

これはすでに説明していますね。小麦と米は競合関係にあり、小麦が安くなってしまえばその分だけ米の需要は減ってしまいます。このように、競合関係にある財を代替材と言います。小麦にとって米は代替材で、米にとっては小麦が代替材になるわけです。

このような関係にある場合、代替材が安くなればみんながそっちを買うようになるのでもう一方の財の需要は落ち、代替材が高くなればみんながそっちを忌避するようになるので猛一方の財の需要は伸びます。

一方で、お互いに補完関係にある財を補完財といいます。例えば、世の中の人の多くは米に納豆を掛けて食べると仮定します。この時、米は納豆の補完財であり、納豆は米の補完財であるといえます。

このような関係にある場合、どちらか一方の財の価格が下がれば、もう一方の財の需要は増えます。例えば、納豆が安くなればそれだけ納豆の需要は増えるはずで、それに引っ張られて一緒に消費する米の需要も増えます。

逆に納豆が高くなれば、一緒に消費する米の需要も減ります。

好景気になると物価が高くなる

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一般的に、好景気になると物価が上がります。好景気になると、実質的な所得が増えるからです。実質的な所得が増えれば、それだけ需要が増え、需要が増えるので物価が上がります。

所得が増加することによる物価上昇(インフレ)を、「ディマンドプルインフレ」といいます。ディマンドプルインフレは、あまり急激なものでなければ望ましいとされています。

また、製造コストが上昇すると物価が高くなります。日本は多くの原材料を海外から輸入し、それを加工して売っています。また、機械を動かすのに必要なエネルギー源も海外から買っています。

したがって、海外から輸入する原材料やエネルギーの価格が高くなればなるほど、製造コストはかさみます。製造コストが増えた分は、価格に転化するしかありません。このような物価上昇をコストプッシュインフレと言います。こちらは望ましくないインフレとされています。

ところで、一体なぜ海外から輸入する原材料やエネルギー源の価格は変化するのでしょうか。もちろん、原材料の不作などが関係することもありますが、一番の要因は為替です。為替は絶えず変化しています。

例えば、アメリカから原材料を1万ドルで購入するとしましょう。1ドル=100円ならば、100万円で輸入できます。

しかし、1ドル=120円となってしまうと、120万円出さなければ輸入できません。このように、円安はコストを押し上げる効果があります。逆に円高はコストを減らす効果があります。

また、物価はお金の流通量とも関係があります。世の中に流通しているお金(現金に普通預金などを加えたもの)をマネーストックといます。

マネーストックは時代によって増えたり減ったりしますが、基本的にはお金の流通量が増えるとそれだけ物価が上がります。一体なぜでしょうか。

経済の大原則は「供給過剰な物は価格が下がり、需要過剰なものは価格が下る」です。お金の流通量が増えているということは、お金の供給が増えているということです。お金の供給が増えれば、供給過剰が発生します。

供給過剰となったお金は価格が下がります。お金の価格が下る、と言うのはちょっと理解しづらいかもしれませんが、要するにお金自体の価値が下がる、1円あたりの重みが小さくなる、ということです。お金の価値が小さくなれば、それだけ物価は上昇します。

日銀の物価安定策

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物価が急激に変化するのは、国民生活にとってあまり望ましいことではありません。そこで日本の中央銀行である日銀は、物価の急激な変化を防ぐための仕事を常にしています。

まず、物価が上昇しているケースについて考えます。物価が上昇しているということは、お金の流通量が増えている、ということです。

従って、日銀は増えすぎたお金の流通量を減らすための操作をします。その中でも代表的なものが「売りオペレーション」です。これは日銀が持っている国債などを、民間の金融機関に買い取ってもらう政策です。

民間の銀行に国債などを買ってもらえば、その代金は日銀の金庫に入ります。一方、民間の銀行は国債などの金融資産を手に入れた代わりに、現金を支払うため、貸出があまりできなくなります。すると市場のお金の流通量は減り、物価上昇が止まる、というわけです。

逆に物価が下落している場合は「買いオペレーション」を行います。これは売りオペレーションとは逆に、民間の金融機関が持っている国債などを日銀が買うことによって、民間の金融機関にお金を渡す政策です。

代金の分だけ民間の金融機関の資金が増え、それが貸し出しに回されるのでお金の流通が増え、物価下落が止まる、というわけです。

二つ目の政策は金利政策です。物価が上昇している場合は、金利を上げます。金利を上げると企業はお金を借りづらくなります。企業がお金を借りづらく慣れば、世の中のお金の流通量が減って、それに伴って物価上昇はともあるはずです。

逆に物価が下落している場合は金利を下げます。金利を下げれば企業がお金を借りやすくなるのでお金の流通量が増え、物価下落が止まるはずです。

三つ目の政策が支払準備率操作です。民間の銀行は、預金者の払い出しの欲求に備えて、予め一定額の現金を用意しておく必要があります。この用意しておかなければならない金額の割合を支払準備率と言います。

支払準備に当てるお金に関して、民間の金融機関は無利子で日銀に預けなければいけない、という決まりがあります。

物価が上昇しているとき、日銀は支払準備率を引き上げます。支払準備率が高くなれば、民間の金融機関はより多くの金額を日銀に預けなければならなくなるため、お金の流通量が減り、物価の上昇が止まるはずです。

逆に物価が下落しているときは、民間の金融機関はあまり日銀にお金を預けなくて済むのでお金の流通量が増え、物価の下落が止まるはずです。

インフレ率を予め決めておくことは有効か

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前述の通り、日銀は様々な制作によって物価を安定させようと努めています。それはある程度成功しているのですが、もちろん完璧というわけではありません。

過去にはものすごい物価上昇が発生したこともありますし、逆に物価が全然上がらなかったこともあります。物価上昇率が年によって大きく異なるのは、望ましいことではありません。

そこで最近議論されているのが、インフレターゲットです。これは、政府や日銀が物価上昇率の目標を定めて、それに会うように様々な政策を行うことです。例えば、最初に「インフレ率2%を目指す」と決めて、そうなるように前述の3つの政策を行います。

一般的にインフレターゲット政策は、行き過ぎたインフレを抑制するために行われることが多いですが、日本の場合はデフレ脱却を目指す意味合いが強いです。

これまで日本でインフレターゲット政策が取られることは殆どありませんでしたが、アベノミクスの中にはしっかりと入っています。

さて、このインフレターゲット政策が仮にうまく言ったとして、どんなことが起こるのでしょうか。

賃金は上がる?上がらない?

インフレターゲットを推進する人は、物価が上昇して企業の利潤が増えればそれだけ人々の所得が増えるとしています。人々の所得が増えると需要が旺盛になり、日本全体が好景気になります。

一方、インフレターゲットに反対する人は、物価が上昇して企業が利潤を増やしても、それが賃金には反映されずに企業の内部留保が増えるだけだ、と主張する人もいます。そうなれば物価は上昇したにも関わらず賃金は減るので、今よりも変えるものが少なくなってしまいます。

資産は減る?減らない?

インフレとは物価の上昇、つまりお金の価値の下落です。お金の価値が下落すると、貯金の重みも、借金の重みも減ります。つまり、現段階で貯金がある人にとっては不利な事態に、借金がある人にとっては有利な自体になるわけです。

国がインフレターゲット制作に乗り出したのも、自身が持っている借金を減らすためという意味街が強いです。インフレに慣ればそれだけ国債の支払いが楽になります。

一方、貯金の価値が小さくなってしまうのですから、当然富裕層は反対します。このあたりの政治的な力学が、インフレターゲット政策を難しいものにしてしまっています。

インフレに備える投資

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人類の経済史を長い目で見れば、確実に物価は上がっています。ときにはデフレが起こることもありますが、それはごく限られた期間にしか発生せず、デフレ率もせいぜい数%程度です。

過去にハイパーインフレと呼ばれる急激なインフレは様々な国で発生していますが、ハイパーデフレと呼ばれる急激なデフレが発生した国はありません。

この傾向が将来も続くと考えれば、物価は上昇し続け、貯金や借金の重みは小さくなるはずです。

これまでのように貯金をメインにして老後に備える、と言うのは有効な手段ではなくなってくるでしょう。

デフレが長きに渡って続いてきた日本ではとりあえず余ったお金は貯蓄に回すという人が多いようですが、インフレが発生してしまえば実質的な資産は目減りしてしまいます。

借金の重みが小さくなることは大量の国債を発行している日本政府や、借金を抱えている企業の経営者、あるいは住宅ローンを組んでいる人にとっては望ましいことですが、貯金で将来に備えている人にとっては望ましいことではありません。

インフレ率と同じだけ預金金利が受け取れれば良いのですが、実際にそのようなことが起こるはずはありません。

インフレに備えるためには、インフレ率以上の利回りを得られるものに投資をしなければなりません。例えば、インフレ率が2%でも利回りが2%なら実質的な資産は据え置きになりますし、利回りが5%なら3%資産が増えたことになります。

インフレ率以上の利回りが期待できる投資としては、以下の様なものが考えられます。

債券はインフレにはあまり強くないが、ものによっては高利回り

債券とは利回りが予め決められている金融商品の一つです。例えば、国が発行している債券を国債と言いますが、国債を買うと一定期間ごとに利息を受け取ることができます。

そして国債に記載されている満期日(償還日)まで国が破綻しなければ、元本を返してもらうことができます。国債以外にも、地方自治体が発行している地方債、企業が発行している社債など、様々な種類の債券が存在します。

債券は予め利回りが決められているので、急激なインフレに対する耐性はあまりありません。しかし、予め高い金利が設定されている債券に投資すれば、インフレ率を上回る利回りを得ることができます。

では、債券の利回りは一体どのように決まるのでしょうか。基本的には、その発行元の信用リスク(倒産リスク)の大小によって決まります。

債券を発行する機関は国、自治体、企業など様々ですが、こうした機関の信用リスク、つまり当初予定していたとおりに利息は元本が支払われない可能性の高さはまちまちです。

信用リスクが小さい、つまり当初のとおりに利息や元本を支払う可能性が高い機関の債券ほど、購入したがる人が多いため、利回りは小さくなります。

逆に信用リスクが大きい機関の債券は購入したがる人が少ないため、利回りは大きくなります。つまり、大きな利回りを得るためには、信用リスクが大きい機関の債券を買う必要があります。

信用リスクが大きい機関とは具体的に言えばデフォルトを起こしそうな国、財政破綻しそうな自治体、倒産しそうな企業などです。こうした機関は健全な他の機関よりも利回りを高く設定しないと債券を買ってもらえないため、高い利回りを受け入れているのです。

逆の立場から考えると、債券の利回りが高い機関は、信用リスクが高い機関であるともいえます。日本の国債の利回りは世界でも最低水準ですが、これは日本政府の信頼が高いことを示しています。

なるべく信用リスクが低く、なおかつそれなりの利回りを得たいという方にオススメなのが社債です。社債は一企業が発行する債券にすぎないため、国債や地方債と比べると信用リスクは大きいですが、その分利回りも高いです。

信用リスクが高いと言っても、それなりに有名な企業ならば急に倒産することはほとんどありません。

ただし、満期日までの期間が長い債券はおすすめしません。満期日までの期間が長ければそれだけ社会情勢が変化し、その期間中に倒産する可能性が高くなるからです。

社債は一応満期日を迎える前に債券市場で売却することも出来るのですが、債券市場は小さく、スムーズに売却できない可能性が高いです。

株式はインフレ耐性が非常に高い

株式は債券と比べるとインフレ耐性が非常に高いです。その理由を考えてみましょう。

まず、インフレに慣れば物価が上昇します。物価が上昇すると、企業の売上が増加します。企業の売上が増加すれば、企業の利益も増加します。企業の利益が増加すれば、株価も上昇します。

つまり、物価が上昇したとしても、それだけ株価が上昇するので、インフレのデメリットを打ち消せるというわけです。

問題は物価の上昇率と株価の上昇率、どちらがより大きいかということです。たとえ物価が5%上昇しても株価が10%上がれば問題ありませんし、逆に株価が3%しか上がらないのでは問題です。

過去の日本の資料を見てみると、戦後から1990年頃までは株価上昇率が物価上昇率を超えた年がほとんどでしたが、1990年以降は株価上昇率が物価上昇率を越すことは少なくなってきています。

ただ、日本経済がインフレに転じれば再びこの関係性は逆転し、株価上昇率が物価上昇率を超える可能性が高いです。それに備えて株式を仕込んでおくという選択肢は、十分に有力であるといえます。

とはいえ、株式投資は債券投資と比べるとリスクも高いので、何の考えもなしにお金を突っ込んではいけないものであるのも確かです。

特に株式投資では「ちょっと利益が出たので利益を確定させたら、その後更に株価が高くなった」「損失ができたのでそのままにしておいたら、更に株価が下がってしまい大損した」という自体が起こりがちです。

まるで株式市場に自分の行動を監視されているような感覚に陥ることもしばしばあります。特に損切に失敗して大損をしてしまうのはいけません。何%値下がりしたら、絶対にその時点で損切りを行うというマイルールを事前に作っておき、それに従って行動することが大切です。

貴金属の金やプラチナは意外とインフレ耐性が強い

株式や債券と比べると金融商品としてはややマイナーに感じられるかもしれませんが、実はこれらの貴金属は意外と高いインフレ耐性を持っています。

金やプラチナというのは、現金、株式、債券などと違って発行元というものを持ちません。金やプラチナ自体に価値があるのです、発行元がないということは、発行元が倒産するリスクがないということです。

従って、発行元の国や企業などが不振に陥っているほど、つまりは不景気なほど需要が高くなり、それに引っ張られて価格が上昇します。逆に好景気なときは株式や債券に人が流れるので金の価格は安くなります。

このように金やプラチナは株式や債券とはまた別の値動きをするので、両方を持っておくとより強固なインフレ対策になります。

反面、金やプラチナにはデメリットもあります。株式には配当金、債券には利息という収入があります。このように、資産を持っているだけで得られる利益をインカムゲインと言います。

しかし、金は実物資産ですから、インカムゲインを得ることができません。金やプラチナで利益を得るためには、価格が上昇しなければならないのです。

金を使った投資には金塊、金貨、純金積立などがあります。また、金そのものではなく、金鉱株や金に連動する債券を通じて間接的に金に投資する手法もあります。

不動産はインフレ耐性が強く、インカムゲインも狙える

不動産もインフレ耐性という点では強力です。不動産も金と同じ実物資産の一種であり、インフレ時には相対的に価格が上昇します。また、金と違って家賃収入というインカムゲインを狙える点もプラスです。

この賃料収入というのは大きな魅力であり、これを目的に不動産投資を始める人も少なくありません。しかし、不動産投資には多額の初期投資費用がかかるうえ、空室リスクや災害リスクなど、他の投資には存在しないリスクも有るため、気軽に参戦するのは危険です。

不動産投資に興味はあるけど、実物の不動産を買うのは怖い、という方にオススメなのが、不動産投資信託(REIT)です。

REITは投資信託の中でも不動産に特化したもので、投資家から資金を集めてそのお金で不動産を購入し、得られた賃料収入や売却益を投資家に分配する、というものです。

不動産投資と違って少ない金額で始めることができ、多くの資産を動かすため複数の不動産を買うことができリスクの分散が図れるなどのメリットがありますが、一方でREITを運用する投資家に報酬を支払わなければならないなどのデメリットもあります。

外貨預金は国内のインフレに強い

国内でインフレが起こると、通常は円安が進行します。物価が高くなり、円の価値が低くなるからです。円高のうちに外貨を手に入れておき、インフレで円安になってから売れば、利益を得られます。一方で、読みが外れて円高になってしまった場合は損失が発生することもあります。

また、外貨預金ではその外貨に見合った利息を受け取ることができます。殆どの国の外貨は円よりも金利が高いため、為替レートの変動がなければより高い利益が得られます。

分散投資でリスクを減らそう

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ここまでインフレ対策になる投資を色々と紹介してきましたが、大切なのはこの中の一つに集中的にお金を投資するのではなく、なるべく分散させることです。

一つの投資にお金を集中させてしまうと、その投資で失敗したときにリカバリーが効きません。複数の投資に分散させれば、一方で損失が出たとしてももう一方でカバーすることが可能になります。

重要なのは、値動きの法則が異なる金融資産を持つことです。例えば、一般的に株式と債券は逆の値動きをすると言われています。好景気のときは株式価格(株価)が上がり、相対的に債券投資への需要が低くなるので債券価格は下がります。

また、金やプラチナへの投資は株式とも債券とも違った動きをします。こうした金融資産を複数持つことによって、万が一の際のリスクを減らせます。