年金受給者は自己破産できる?破産後も年金は貰い続けられるの?

自己破産は債務整理の中では唯一借金を帳消しにできるというメリットがある反面、高額な財産は債務の弁済のために没収されてしまうというデメリットもあります。

そこで気になるのが、年金をもらっていても自己破産はできるのか、仮にできるとしたら年金は没収されてしまうのかどうかということですが、結論から言えば心配は無用です。

年金をもらっていてももらっていなくても自己破産はできますし、自己破産で年金受給権が没収されることは原則ありません。

年金をもらっていても自己破産は可能

老夫婦
まずは自己破産の基本的なルールを確認しておきましょう。自己破産は借金を整理する債務整理の中でも唯一、借金を帳消しする制度です。

その他の債務整理(任意整理や個人再生など)は借金を減らすだけなので手続き後も借金を返していく必要がありますが、自己破産ではその必要はありません。そのため、定期的な収入がない人でも自己破産ができます。もちろん、定期的な収入がある人でもできます。

従って、年金を受給しており、それだけで生活している人も、年金を受給しており、なおかつ給与所得や事業所得を得ている人でも自己破産はできます。なお、ここでいう年金とは主に以下のものです。

  1. 老齢基礎/厚生年金
  2. 障害基礎/厚生年金
  3. 遺族基礎/厚生年金
  4. 付加年金
  5. 寡婦年金
  6. 死亡一時金
  7. 老齢給付金
  8. 脱退一時金
  9. 小規模企業共済の受給権

老齢基礎/厚生年金はいわゆる年金として知られている年金ですが、それ以外にもいろいろな種類のものがあります。(参考:自己破産大全!メリットデメリットからチャラになる借金の統計まで

免責不許可事由とは

ただし、どんな人でも必ず自己破産が認められるわけではありません。自己破産を認めてもらうためには返済が不可能であると裁判所に認められた上で、なおかつ免責不許可事由に該当しない、という条件を満たさなければなりません。

免責不許可事由とは、読んで字のごとく免責が不許可となる自由です。免責不許可事由に該当してしまった場合、原則として免責が認められません。主な免責不許可事由には以下の様なものがあります。

  1. 債権者を害する目的で財産を隠匿、破壊する
  2. 特定の債務者を利する、もしくはと他の債務者を害する目的で、一部の債務を優先
  3. 的に返済する
  4. 浪費や賭博、射幸好意などで著しく財産を減少させるか、債務を増やす
  5. 破産手続きで行われる調査で説明を拒むか、虚偽の説明をする
  6. 破産管財人(債務者の財産を管理する人)の業務を妨害する

これらの事由に該当した場合、年金をもらっている・いないに関係なく、原則として自己破産はできなくなります。

実際にはたとえ該当していても裁判官の裁量で免責が下りることが多いのですが(これを裁量免責といいます)、免責不許可事由に該当しないに越したことはありません。(参考:借金での自己破産で免責不許可事由って?ギャンブル・株・FXではダメ?

非免責債権とは

非免責債権とは、たとえ免責が認められても帳消しにならない借金のことです。前述の通り自己破産をすると原則として借金が帳消しになりますが、幾つか例外的に帳消しにならない借金もあります。これを非免責債権と言います。主な非免責債権には以下の様なものがあります。

  1. 租税などの請求権
  2. 罰金等の請求権
  3. 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権

要するに税金、罰金、一部の損害賠償請求権などは自己破産が認められても消えない、ということです。

未納の年金保険料の取扱

未納の年金保険料がある場合、自己破産してもその支払い義務が消えることはありません。未納の年金保険料は前述の非免責債権の「租税等の請求権」に含まれるからです。

年金保険料が支払えないという場合は、年金事務所に相談をした方がいいでしょう。場合によっては分割払いが認められることもあります。

自己破産時の財産の処分方法

本の整理

自己破産をする場合、原則として財産は没収され、換価を経た上で債権者に配当されます。

こうした業務は本来裁判所が行うべきものですが、裁判所に十分な人手があるわけではないので、実際には裁判所が選任した破産管財人と呼ばれる人(弁護士)が財産を管理、換価、配当します。

ただし、すべての財産が没収されるわけではありません。没収されるのは原則として時価が20万円以上の財産、もしくは99万円以上の現金です。これを超えない部分については原則として没収されません。

例えば時価10万円のパソコン、時価18万円の中古自動車などは、自己破産後も持ち続けることができます。一方、時価1000万円の住宅などは原則として没収されます。

20万円以上でも差し押さえられない財産

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また、たとえ時価が20万円以上であっても差し押さえられない財産もいくつか定められています。これを自由財産と言います。自己破産をしても債務者が自由に利用、処分できるので自由財産です。

自己破産時に作られる債務者の換金可能な財産のあつまりを破産財団と言いますが、破産財団に組み込む財産はその時点で所有している財産でなければならないと定められています。

つまり、破産手続開始後に所有していない財産、破産手続開始後に得た財産(新得財産)は、それがいくら高額な財産であろうが没収されないわけです。必然的に、事故破産手続開始後にもらえる年金も没収されないことになります。

また、破産手続開始時に持っていた場合でも、法律で差し押さえてはいけないと定めれている財産(差押禁止財産)は没収できません。

例えば債務者の生活に必要な衣類や服などは、金額にかかわらず差し押さえてはいけないことになっています。没収したことによって生活できなくなると困りますからね。前述の通り、20万円以上の財産や99万円以上の現金も没収されません。

そして、各種年金の受給権も差押禁止債権に含まれています。そのため、自己破産をしてもその後の年金がもらえなくなることはありません。ただし、民間保険の個人年金は差押禁止債権ではないので注意が必要です。

すでにもらった年金は差し押さえられる可能性あり

すでにもらった年金はもはや「年金の受給権」ではなく「現金、預金」に含まれる財産なので、その金額が一定以上の場合は没収されてしまうこともあります。

前述通り現金は99万円まで持つことができますが、預金はそれ以外の財産なので20万円までしか持つことができません。預金口座に年金がある場合は、それを現金に変えておいたほうがいいでしょう。

私的年金の取扱

的年金の受給権は原則として差押禁止債権に含まれていますが、私的年金の受給権は差押禁止債権ではありません。したがって、その債権が20万円を超える場合、その超過分は没収されてしまうと考えたほうがいいでしょう。

自己破産の方法は2種類ある

悩む男性

自己破産には同時廃止事件と管財事件の2種類があります。同時廃止事件は、破産者に換価して債権者への弁済に当てられる財産がないときの手続きです。

一方、管財事件は破産者に換価して債権者の弁済に当てる財産があるときの手続きです。年金を受給していても、換価できる財産がない場合は同時廃止事件と鳴ります。

自己破産は破産者の財産を換価して債権者に配当することを原則としていますが、処分するべき財産がないにも関わらず破産管財人を専任して手続きするというのも無駄です(破産管財人に対する報酬は破産者が支払わなければいけません)。

そこで、破産法では、債権者の弁済に当てられる財産がないときは、破産管財人を選任しない同時廃止を選んでもいいよ、とい定められています。

理念上は管財事件が原則で、同時廃止はあくまでも例外に過ぎないということになっていますが、実務上は同時廃止事件のほうが多く選ばれているようです。多くの自己破産者は債権者の弁済に当てられるような財産を持っていない、ということですね。

まとめ

通勤する女性

年金受給者が自己破産をしても年金受給権や手続き開始後にもらえる年金が没収されることは一切ありません。そのことを考えると、自己破産手続きはなるべく早いうちに済ませてしまったほうが得です。自己破産をするかしないかでお悩みの方は、まずは弁護士に相談するところから始めましょう。