市街化調整区域の遊休地を賢く活用する方法6つ

市街化調整区域にある土地は、市街化区域にある土地と違い、原則として新規建物の建築が認められていません。必然的に、市街化調整区域の土地は、土地活用の手段も大幅に制限されてしまいます。

しかし、だからといって土地活用を諦めてしまうのは非常にもったいないことです。

建物がなくても土地活用は可能ですし、市街化調整区域であっても例外的に建築が認められることががあります。最初から活用をあきらめるのは合理的な判断とはいえません。なにより、土地は所有しているだけでもコストがかかります。金食い虫の市街化調整区域の土地にお悩みの方は、ぜひ活用を検討してください。

そもそも市街化調整区域ってどんな土地?

市街化調整区域について知るためには、まず日本の都市計画制度について知る必要があります。日本政府は、国土の無秩序な開発に伴う都市環境の悪化を防ぐために、土地の所有者に完全に自由な開発を行う権利は与えず、一定のルールに従う義務を課しています。

例えば住宅街に工場を立ててはいけないですとか、周辺の日照を過剰に遮るような高い建物を建ててはいけないですとか、様々なルールがあるのです。都市計画に関するルールは都市計画法という形でまとめられており、都市計画法の中でももっとも重要な制度が都市計画制度です。

都市計画制度においては、各都道府県が都市計画区域を指定します。都市計画区域は一体の都市として総合的に開発すべきとされる区域です。

都市計画区域は市区町村の線引きとは必ずしも一致しません。なので例えば1つの市区町村が複数の都市計画区域に分けられることもありますし、逆に複数の市区町村が1つの都市計画区域にまとめられることもあります。

日本の面積は約37.8万キロ平米で、そのうち約10万キロ平米が都市計画区域に指定されています。面積の割合的には30%にも届きませんが、全人口の95%が都市計画区域に住んでいます。それだけ狭い地域に人が集まっているということですね。

都市計画区域は必要に応じて、さらに市街化区域と市街化調整区域に分けられます。

市街化区域は市街化を優先させるべき区域

市街化区域とは、すでに市街地を形成している、もしくは今後10年以内に優先的・計画的に市街化を図るべき区域のことです。

簡単に言えば、都道府県が建物を建てることを容認、もしくは推奨している区域のことです。ただしもちろんどんな建物でも建てていいというわけではなく、用途地域による制限などを受けます(参考:市街化区域と市街化調整区域の違いは?どちらの土地が使いやすい?)。

市街化調整区域は市街化を抑制する区域

市街化区域調整区域とは、市街化区域とは対象的に、市街化を抑制すべき区域です。簡単に言えば、都道府県が建物を建てることを抑制、もしくは制限している区域のことです。あくまでも抑制・制限であって、全く建物を建ててはいけない区域ではないのですが、原則的に建物を建ててはいけないことも確かです。この規制が、市街化調整区域の土地活用を極めて難しいものにしています。

市街化調整区域で建物を建てるには役所との協議もしくは許可が必要

市街化調整区域に建物を建てる場合は、必ず事前に役所に連絡し、協議を行うか、個別の許可を得る必要があります。都市計画法においては、以下のように定められています。

協議と届け出によって建築可能な建物(許可は不要)

  1. 農業、林業もしくは漁業用の建築物またはこれらの業務を営む者の住宅
  2. 社会福祉施設、医療施設、幼稚園、小中高校などの公益上必要な建築物
  3. 通常の管理行為、軽易な行為その他の行為で政令で定めるもの

個別の許可を得ることによって建築可能な建物

  1. 周辺住居者の日常生活に必要な物品の販売・加工・修理等の業務用の店舗、事業所等
  2. 市街化調整区域内の鉱物・観光等の資源の有効利用上必要な建築物
  3. 農林漁業用建築物、市街化調整区域で生産される農林水産物の処理・貯蔵・加工用建築物
  4. 都道府県が国または中小企業事業団と共同助成する中小企業の事業の共同化、工事、店舗等の集団化に寄与する事業用建築物
  5. 市街化調整区域内に現存する工場の事業に密接に関連する事業で、事業活動の効率化のため市街化調整区域に必要な建築物
  6. 火薬類の貯蔵・処理用の火薬庫、火薬類の製造所
  7. 円滑な道路交通の確保のための適切な位置に設けられる給油所等
  8. 地区計画内における、当該地計画に適合している建築物
  9. 市街化調整区域編入の際の土地所有者等が編入時から5年以内に行なう自己用の建築物等
  10. 前各号に掲げるものの他、あらかじめ開発審査会の議を経たもの

非常に難しい書き方をされているので何を建てて良いのかわかりづらいのですが、簡単にまとめると、以下の条件に当てはまるものは建ててもいいということになります。

  • 農林漁業用などに関連した建物
  • 公益上必要な建物
  • 周辺住民の日常生活を支える建物
  • 地域産業を支える建物

市街化調整区域でも取り組める可能性が高い土地活用6つ

市街化調整区域で土地活用をする方法は大きく2つにわけられます。1つは役所に事前に連絡して協議を行うか許可を得て建物を建てるという方法。建てられる建物は限られてしまいますが、市街化調整区域のような人口が少ない地域だからこそできる土地活用法もあります。具体的には、以下のような活用法が考えられます。

  • 高齢者向け施設(有料老人ホームなど)
  • 医療施設(診療所など)

もう一つは建物を建てずに土地活用する方法。面倒な役所への連絡が不要になるのが最大の特徴です。具体的には、以下のような活用法が考えられます。

  • 資材置き場
  • 駐車場
  • 墓地・霊園
  • 太陽光発電システム

高齢者向け施設(有料老人ホームなど)

高齢者向けの施設は、一般的な賃貸マンションやアパートと比べると公益性が高く、市街化調整区域でも比較的建築が認められやすい施設であるといえます。

加えて、高齢者施設の住人は賃貸マンションやアパートの住人と比べて体に不自由を抱えているケースが多く、外出機会が少ないため、市街化調整区域のような、いわゆる「田舎」であることがあまり大きなデメリットになりません。むしろ人が多すぎる都市部の環境を嫌って、田舎に移ることを希望してやってくる入居者も少なくありません。

高齢者向け施設には色々ありますが、比較的許可がおりやすいのは「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」と「有料老人ホーム」の2つです。

サ高住とはその名の通りサービスが付いた高齢者向けの住宅です。サービスは事業者によって異なりますが、見守り(安否確認)と生活相談はすべてのサ高住で提供されています。

施設によってはそれ以外にも健康管理や食事の提供などがついてくることがあります。高齢者の中でも建康で独立した生活を送れる人~比較的要介護度が低い人を入居者の対象としています。

将来増えると思われる比較的元気で独立したいと考えている高齢者の受け皿になる可能性が高い施設でるうえ、建設に自治体から補助金が出る場合もあるなど、将来性に優れています。

有料老人ホームは主に民間企業が運営する高齢者向けの施設で、介護が必要な人向けの「介護付」、比較的要介護度が低い人向けの「住宅型」、健康な人向けの手厚いサービスがある「健康型」の3つがあります。

ただ、健康型は現状20施設程度しかなく、これから増えそうな気配もない(健康ならば比較的割安で過剰なサービスがないサ高住の方がいいと考える人が多いため)ため、実質的には「介護付」「住宅型」の二択になるといえるでしょう。

サ高住も有料老人ホームも、一般的な賃貸住宅よりも単位面積あたりの賃料が高くなりやすいため、うまく入居者を集められれば安定した収益を生む建物になってくれるでしょう。

一方、サ高住も有料老人ホームも建物を建設することになる上、ある程度の規模が必要(小規模なサ高住や有料老人ホームは経営効率が悪くなりやすい)ため、開業にあたっては十分な需要があるかを慎重に見極める必要があります。

医療施設(診療所など)

医療施設とは簡単に言えば病院、もしくは診療所です。医療施設のうち、入院施設が20床以上のものを病院、19床以下のものを診療所といいます。「○○クリニック」「○○医院」などと名乗っているところは通常診療所です。

近年、地方で働く医師の都市部流入が続いています。勤務が厳しい割にたいした給料も出さない地方病院で働くよりも、都市部で働いたほうが自分にとって利益になるからです。都市部の人間にとっては地方の優秀な医師がたくさん来てくれるのでありがたいことですが、一方で地方では医師不足が問題になっています。

医師不足が問題になっているということは、言い換えれば医師の需要に対して供給が少ないということです。供給が少なければ「医師の価格」は当然上昇するはずです。そのため、一部の医師はあえて都市部に出ず、地方で開業します。そうした医師に適切な医療施設を貸し出すことができれば、安定した利益を得ることができるでしょう。

資材置き場

資材置き場とは、その名の通り資材を置いておくための場所です。資材とは簡単に言えば木材や建材などの材料のことです。基本的には土地をほぼそのままの形で貸し出すことになりますが、場合によっては簡単な倉庫を建てることもあります。倉庫は「農林漁業用などに関連した建物」扱いになるため、市街化調整区域でも問題なく建てられる場合が大半です。

資材置き場の一番のメリットは、初期費用がほとんどかからないことです。サ高住や有料老人ホーム、あるいは医療施設などは建物が必ず必要になるため、その建設費用が大きな負担となりますが、資材置き場はほぼ何の準備もせずにそのまま貸し出せるため非常に楽です。

また、資材置き場は資材を置くためのスペースで、人が住む場所ではないので、土地の形状や広さ、立地もほとんど問われません。

資材が置ければ土地が三角形だろうがひし形だろうがL字型だろうが問題ありません。資材はトラックで運搬することがほとんどなので、駅からの距離も問われません。

そして、資材置き場にすると貸借人(借り手)が土地を管理してくれるようになるため、自分で管理する必要がなくなります。土地が遠い場所にある場合は、コレが大きなメリットになります。

一方で、土地を資材置き場として貸し出した場合の賃料は非常に低くなりやすいです。この辺は田舎の土地ですから仕方がありません。それでも眠らせておくよりはよっぽどマシです。

駐車場

駐車場には青空駐車場と立体駐車場がありますが、青空駐車場の場合は基本的に建物が必要ないため、市街化調整区域でも経営できます。駐車場のニーズがある地域ならば、少なくとも固定資産税・都市計画税を補って余りある程度の売り上げは見込めるはずです。

具体的な業務は管理会社に任せられますので、手間もかかりません。仮に失敗しても建物を建てないため、被害は最小限で済むはずです。

なお、駐車場には1ヶ月単位で契約する月極駐車場と、数十分~数時間程度の短いスパンで貸し出すコインパーキング(時間貸し駐車場)があります。市街化調整区域には商業施設があまりなく、コインパーキングの需要には乏しいため、基本的には月極駐車場を経営することになります。

時間あたりの賃料は少なくなってしまいますが、1ヶ月単位で契約するうえなかなか人が出ていかないので経営が安定しやすいのがポイントです。(参考:月極駐車場経営は少ない初期費用で実質利回り50%超え!?

墓地・霊園

墓地・霊園はこれから来るであろう団塊の世代の寿命に伴う墓地の需要増加にマッチした土地活用法の一つです。建物を建てる必要もなく、インフラもほとんど必要ないため、初期投資費用が少なくて済みます。

市街化調整区域のような地域はむしろ市街化区域と比べて墓地の経営に向いているとすらいえます。市街地に墓地を作ろうとすると近隣住民の反対に会いますが、近隣住民が少ない市街化調整区域ならばそのような心配も殆どありません。

一方、デメリットは一度その土地を墓地にしてしまうと、もうその他の土地活用法はほぼ選べなくなることです。別に以前そこに墓地があったからと言ってどうなるわけでもないのですが、墓地があった場所に建てられたマンションやアパート、駐車場などはおそらく稼働率が低くなるでしょう。

なお、墓地・霊園の造成は個人では行えないという決まりがあります。それができるのは公益法人や宗教法人、社会福祉法人等の「法人」に限られます。従って、土地を墓地・霊園として活用するためには、役所の許可を得て自ら法人を設立するか、既存の法人に土地を貸しだして経営を任せるかする必要があります。

ただし、自ら法人となるためには法人の設立のみならず、役所との交渉、近隣住民への説明などが必要になります。特に近隣住民との交渉は大変で、素人が自ら行うのはほぼ不可能と言っても良いでしょう。墓地・霊園のオープンをサポートする業者も存在してますので、そちらを使ったほうがいいでしょう。

法人に土地を貸し出す場合は、借地契約を結ぶだけでOKです。運営自体は法人の方が行うため、前述の役所との交渉などの面倒な準備は全て不要になります。ただし、一般的な不動産会社では運営法人が見つからないことがあるため、墓地・霊園専門のマッチングサイトを使うことをおすすめします。

太陽光発電システム

太陽光発電システムは、田舎に最もマッチングした土地活用方法の1つといえます。

太陽光発電システムの収益性は、日本全国どこでも余り変わりません。強いて言えば赤道に若干近い南側や、晴れる日が多いのほうが収益性が高くなりますが、そこまで大きく差がつくわけではありません。

局所的に見た場合、東京23区の中心部である千代田区や中央区でも、中心から少し離れた世田谷区や練馬区や江戸川区でも、更に離れた東京都立川市や神奈川県川崎市や埼玉県川越市でも、もっと離れた東京都檜原村でも神奈川県南足柄市でも埼玉県秩父市でも、得られる収益はほぼ一緒です。つまり、地価と収益性が比例しないわけです。

逆に言えば、地価が低い所=田舎で太陽光発電システムを導入したほうが、土地代に対する収益=利回りは高くなるわけです。

また、太陽光発電は賃貸アパートや賃貸マンションと違い、建物を建てないので、入居者管理も必要ありません。太陽光発電システムのメンテナンス等は必要ですが、管理を委託しても費用が小さく、コストがかからないのも魅力です。

しかし、太陽光発電の一番のメリットは、固定買取価格精度が存在していることでしょう。固定価格買取制度は、電力会社が予め提示した価格(固定価格)で発電した電力を買い取ってくれる精度です。

10kW以上は原則全量買取、それ以下の場合は余剰買い取り(家庭内で消費されて余った分を買い取る)ことになります。全量買取は導入時に20年間、余剰買取には10年間の固定価格での買い取りが保証されます。

なお、太陽光発電システムの導入費用が下がってきているのに合わせて、導入時の買取価格は毎年少しずつ下がってきています。いつ始めても年間利回りがおよそ10%になるように調整されています。

一方、太陽光発電システムの大きなデメリットは、期間の運営とともに周辺環境が変わってしまう可能性があることです。その土地が市街化調整区域から市街化区域に変わってしまった場合、周辺に新しい建物が建ち、それが太陽光を遮ってしまう可能性があります。

また、太陽光発電システム自体が周辺環境を買えてしまうこともあります。特に見過ごされがちなのが太陽光パネルからの反射光です。太陽光パネルの位置や角度などを工夫して、周辺住民への影響を極力抑えるようにしましょう。

まとめ

  • 市街化調整区域は市街化を抑制すべきと行政が定めている地域
  • 市街化調整区域では原則として建物が建てられない
  • 市街化調整区域の土地を活用する場合は、駐車場や太陽光発電など、建物がいらない活用
  • 法がおすすめ

市街化調整区域の土地であっても、適切に活用すれば収益は上がります。大儲けという訳にはいかないでしょうが、固定資産税を補い、黒字になる程度は稼げるケースも少なくありません。現時点で土地を眠らせている方は、まずは色々な活用法を考えて見るところから始めてみましょう。