「長く間住み続けてきた家だが、老朽化が激しいので増改築じゃなくて新しい家を建てたい」
「現在の居住用住宅を解体して、新しく業務用の事務所を建てたい」
こうした、建物の建て替えを考えるタイミングで問題になるのが、建て替えを行う場所が「借地」である場合です。借地での建て替えでは自己所有の土地で建物の建て替えを行う場合とは異なり、「貸主からの承諾」や関連する法律の遵守といった特有の手続きが必要になります。
具体的にどのような点に注意して建て替えを行えばいいのか、確認しておきたいポイントをご紹介しましょう。
借地での建て替えは所有地の場合とどう違う?
借地での建て替えが所有地での場合と大きく違うのは、貸主と借主という2人の関係者が存在することです。借地で建て替えを行う場合は、以下のようなポイントに注意してください。
貸主から建て替えの承諾を得る
借地では、借主は貸主から「土地の使用権」を借りているにすぎません。しかも、契約によって「どのような建物をどのような目的で使うのか」といった部分まで定められています。従って、建て替えを行うにあたっては事前に貸主から建て替えの承諾を受けなければいけません。
条件変更の有無を確認し承諾料を支払う
貸主に建て替えの趣旨を説明し、承諾を貰った際に「承諾料」を支払わなければいけない場合があります。承諾料は法律で定められたものではありませんが、次に示すような金額が相場です。
借地条件変更ありの建て替え工事:更地価格の10~15%
「借地条件の変更」とは、「借地契約を行うときに定めた契約条件の変更」のこと。たとえば、「木造住宅を建てて、居住用に使う」という条件で借地契約を結んでいたとしましょう。老朽化などにより建て替えが必要になったとして、契約時の条件と同じ「木造住宅」に建て替える場合は「借地条件の変更なし」とみなされます。
一方、木造住宅の代わりに鉄骨造や鉄筋コンクリート造の住宅に建て替えるような場合は、建物の種類が変わってしまうことになるため「借地条件の変更あり」となるわけです。
ほかにも、「居住用という条件で土地を借りていたが、賃貸住宅など事業用の建物を建てて使いたい」というようなケースは「土地を使う目的」が契約時と変わってしまうことになるので「借地条件の変更あり」に該当することになります。
借地での建て替えは融資が受けにくい?
借地は所有地とは異なり、借主が土地に関する権利を100%有しているわけではありません。この点が問題になるのが解体工事や建て替えにかかる費用を融資で調達する場合です。
所有権のある土地での建て替えであれば、土地を担保にして金融機関に融資を依頼するという方法が使えますが、借地は借主の土地ではないのでいろいろな制限が生じてしまいます。
融資を受けられる金融機関を確認する
所有地の場合は問題なく融資を受けられる住宅ローンも、借地となると状況が変わってきます。抵当権がなく土地を担保に入れるのが難しい分、融資を受ける条件が厳しくなってしまうのです。
「用途や事由に関係なく借地に対する住宅ローン融資は全面的に禁止」としている金融機関もあれば「条件付きで認める」としているところもあります。とはいえ、どちらにしても所有地に比べて融資は受けにくいと考えておいたほうがいいでしょう。
融資条件を確認し、貸主からの承諾を得る
すでに述べたとおり、借地への融資条件は金融機関によってさまざまです。
たとえば、「貸主が借主の直系親族の場合のみ融資を認める」という条件を定めているところもあります。このようなケースに該当するのは、「親が子へ土地を貸し出している場合」が一般的でしょう。
ほかにも「土地の地上権(建物を自由に建てたり、他人に譲渡したりできる権利)」を抵当に入れる」といった条件を定めているところもあります。
融資を受けるためには、これらの条件を確認した上で「融資承諾書」に貸主からの署名押印をもらわなくてはいけません。もちろん、条件次第では署名を拒否されるケースもあるでしょう。
そうなれば、ほかの資金調達方法を考えなければいけなくなるので、状況次第では建て替えを中止せざるを得なくなってしまうかもしれません。
以上のように、借地での建て替えにあたって所有地の場合と大きく異なるのは建て替えと融資に関して貸主の承諾が必要になる点です。これらは建て替え成功のための重要なポイントなので覚えておいてください。
借地で建て替えを行う際の注意点
借地で建て替えを行う際は、次のような点に注意するようにしましょう。
資金調達の方法が決まってから承諾料を支う
ご説明したように、借地での建て替えでは貸主に対する承諾料の支払いが必要です。しかし、「貸主に建て替え自体は許可してもらったが、金融機関が示す融資条件は受け入れられず建て替えが中止になってしまった」という事態にあることも考えられます。
このようなとき問題になるのが、承諾料をすでに支払ってしまっている場合です。
建て替えが中止になったわけですから、本来であれば承諾料の返金を求めたいところですがそう簡単にはいきません。「資金が集まらず建て替えができないのは借主側の問題」とみなされ、貸主が承諾料の返金に応じないケースも有り得るからです。
こうした事態を防ぐためにも、承諾料の支払いは必ず資金調達の目処が立ってから行うようにしましょう。
貸主から建て替えの承諾が得られない場合もある
資金調達の話を抜きにしても、貸主が建て替えに応じず承諾書にサインしてくれないといった事態も十分に考えられます。このようなケースでは建て替えの趣旨を貸主によく説明し、説得力のある説明を行って合意にこぎつけなければいけません。
建物の種別が変わってしまうのが良くないのか、それとも居住用から事業用へ変えるなど「使用目的」が変わってしまう点がダメなのか、貸主とよく話し合ってみてください。
ときには貸主があなたとの契約を打ち切って、「別の方法で土地を活用したい」と考えている場合もあるでしょう。そのようなときは建て替えの計画を修正しても貸主の考えを変えるのは困難かもしれません。別の土地を借りることを考えるなど建て替え以外の選択肢を検討した方がいい場合もあるでしょう。
「定期借地権」による借地契約ではないことを確認する
借地契約は、契約時期によって適用される法律が変わります。最初の契約日が平成4年8月以前のものに適用される法律が旧借地法、それ以後に適用されるのは借地借家法という法律です。
このうち、新しい方の借地借家法という法律には「定期借地権」という権利についての定めがあります。定期借地権とは「●●年後には建物を解体し、更地の状態に戻して貸主に返却する」という、いわば期限付きの借地権ともいえるものです。
土地を借りたときに結んだ契約が、この定期借地権による契約になっている場合、せっかく建て替えで新築にしても「契約終了時には解体しなければならない」という可能性もあります。
建て替え費用をムダにしないためにも、契約期間や契約書の内容は事前によく確かめておいてください。
場合によっては、契約更新(存続期間変更)の手続きをしておいた方が良いです。
地主が承諾しても建て替えられないケースがあるってホント?
借地での建て替えにおける注意点はほぼ貸主との合意と契約内容に関する問題ですが、仮にそれらが解決したとしても建て替えられないケースもあります。次のように、関連する法律に建て替え後の建物が適合できないような場合は建て替えを行うことはできません。
既存不適格建築物の場合
建て替えができないケースのひとつは「既存不適格建築物が建っていた土地に、同じ仕様で建物を建て替える場合」です。既存不適格建築も、リフォームや建て替えを行うこと自体は可能です。
ただし、建て替え後の建物は現在の法律に適合する要件を満たしていなければいけません。分からない場合は、弁護士や建築家などの専門家に相談してみてください。
接道義務を果たしていない場合
建築基準法には、「建物内の敷地が幅4m以上の道路に2~3m以上接していなければいけない」という定めがあります(地域によって異なる場合があります)。
これが建物の「接道義務」です。接道義務は各自治体が指定する「都市計画区域・準都市計画区域」にある建物に適用されます。
なぜこうした定めがあるのかと言えば、救急車や消防車などの緊急車両が通行したり、災害時に十分な避難経路を確保したりするためです。適用を受ける区域では接道義務を果たさない限り建て替えは認められません。
ただし、「敷地内に十分なスペースを確保できるケース」などでは例外として建て替えが認められることもあります。事前に借地が接道義務の適用を受ける区域にあるか、接道義務を満たせる状態にあるか確認しておいてください。
まとめ
借地での建て替えは、「建て替えを行う人(貸主)が土地の所有者ではない」という点が特徴です。そのため、「建て替えについて所有者から承諾を得る」という特有のプロセスが必要になります。
建て替えにあたっては事前に貸主から承諾を得て、住宅ローンなど費用の調達も滞りなくできる体制を整えておきましょう。所有地での建て替えと比べて融資条件も厳しくなります。
また、建て替えてすぐに建物を手放さなければならないはめにならないよう、契約内容も確認しておいてください。
貸主の承諾と資金調達で問題がなくとも、法律上の問題から建て替えができないケースもあります。確認を怠ると、法律に適合しない危険な建物ができてしまう可能性も否定できません。自
分が借りている土地では建て替えにどんな制限が加えられるのか、適用される条件をよくチェックしてから建て替えを計画しましょう。