もはや現代人の国民病といってもいいであろううつ病。この病が原因で休職・失職に追い込まれる人は少なくありません。
うつ病をの治療に特効薬はなく、長期の休養を取るのが一番とされていますが、実際のところ仕事をほっぽりだして長期休養を取るというのはかなり不安なものです。
経済的な事情で休職したくてもできないという方も多いのではないでしょうか。
しかし、心配する必要はありません。今の日本はうつ病患者に対する経済的なセーフティネットが充実しています。それは欧米の話で日本はそういうことに関しては後進国である、というのは誤ったイメージです。
多くの人が知らないだけで、日本にも様々なセーフティネットがあるのです。
しかし、これの制度は自ら申請しないと利用できないものがほとんどです。制度を早めに把握しておけばいざという時の申請がスムーズにでき、結果として身を守ることにつながります。
うつ病になるとお金がなくなる!
うつ病になるとお金が無くなります。なぜなら、収入が減って支出が増えるからです。
うつ病になる前に十分な金融資産を築いていた人はそれで乗り切れるかもしれませんが、ただでさえカツカツの暮らしをしていた人がうつ病になってしまうととても大変です。
働けないからお金はない、しかし治療でお金は出ていく……こうした循環の中で借金をしてしまい、最終的に債務整理にまで行きつく人も少なくありません。
もちろん、債務整理は人生再起の手段であり、悪いことではありませんが、できることならば避けたいものですよね。
うつ病の人のためのセーフティネットは豊富にある!
今の日本にはうつ病の人のための様々なセーフティネットが用意されています。にもかかわらずそのような制度を無視して借金をしてしまい、さらに苦しむ人が後を絶たないのは、そうした制度を知らないためです。
では、具体的に我々はどのような制度で守られているのでしょうか。一緒に見ていきましょう。
有給休暇は労働者に認められた権利である
会社員がうつ病で休職することになった場合、まずは残っている有給休暇で対処することがほとんどです。現在の労働基準法では、有給休暇の最低限の日数は以下のように定められています。
継続勤務日数 | 付与日数 |
6か月 | 10 |
1年6か月 | 11 |
2年6か月 | 12 |
3年6か月 | 14 |
4年6か月 | 16 |
5年6か月 | 18 |
6年6か月 | 20 |
この数字はあくまでも最低限であり、会社側がもっと多く有休を設定することもあります。詳しくは会社の就業規則をご確認ください。
なお、ある年に使用できなかった有給休暇は、次の年にのみ持ち越すことが可能です。たとえば、継続勤務年数が10年で、ある年に有給休暇を5日しか習得できなかった場合は、次の年は35日取得することができます。
傷病手当金は報酬の3分の2が受け取れる強力な制度
有給休暇を使い果たした場合は、次に傷病手当金を受け取ります。傷病手当金は働けなくなった人に対して国がお金を補てんする制度です。業務外の事由による病気(うつ病含む)が支給の対象です。
業務内の事由による病気(うつ病含む)の場合は、いったん傷病手当金を申請した後で、労災認定を受けてください。
労災認定は時間がかかるので、それまでのつなぎ資金として傷病手当金を使うことができます(労災が降りたら返さなければなりません)。
支給期間は連続して働けなかった日数(有休をとった場合も含む)が4日を超えた時点で開始となり、1年6か月が経過するか、仕事に復帰するまで続きます。支給額は今までの給料の3分の2です。
傷病手当金は、休職しながらもらうこともできますし、退職して国民健康保険に入りなおしてからもらうこともできます。
うつ病になってしまった人は一時の感情から勢いで退職してしまいがちですが、個人的にはなるべく休職することをお勧めします。うつ病の人が再就職するのは簡単なことじゃないですからね。
それからもう一つ大切なことがあります。傷病手当は、申請しなければ受け取ることはできません。受け取りにあたっては
2.事業主と医師の両方に記入してもらい
3.保険者に申請書を提出する
必要があります。会社が申請書を準備してくれない場合は、従業員(患者)が自分で用意することもできます。
会社に原因がある場合は労災認定を受けよう
うつ病が労災と認定されるのには通常、半年から1年程度の時間がかかります。
そのため、すぐにお金が必要だという場合は、たとえ会社に原因があったとしても傷病手当金を申請することをお勧めします。
その後労災が認定された場合、傷病手当金は返済しなければなりませんが、労災のお金で賄えるので問題ありません。
労災の支給額は給料の80%と、傷病手当金の3分の2(66%)を上回っていますが、うつ病をはじめとする精神疾患の労災認定率は40%とあまり高くありません。
当てにしていたら労災が結果もらえなかった、では困るので、必ず傷病手当金を申請しておきましょう。
また、医療費が無料になるというおまけもあります。条件を満たしている限りはずっと給付が続くのも大きなメリットです。労災が認定してもらえるならそれに越したことはありません。
しかし、労災認定に当たっては一つ大きなハードルがあります。労災を申請するということは会社と明確に対立するということでもあります。
うつ病の人にとってはかなりの覚悟が必要なことですが、あなたをうつ病に追い込んだ会社に対して情けなどかけてやる必要はないでしょう。もらうものはきっちりともらっておきましょう。
ただし、そうはいってもうつ病の原因が会社にあると証明できなければ。後で会社側にしらばっくれられても困らないように、パワハラ、セクハラなどの証拠は確実に残しておきましょう。
映像があればベストですが、職場で映像を取るのは難しいでしょう。その場合はICレコーダーに録音した会話でもOKです。
また、メモ書きも証拠として認められることがあります。ただ一人でコツコツとメモをためているだけでは証拠としてもらえないことが多いので、書くたびに家族や友人などに送付しておくといいでしょう。
ほかにそのメモの内容の正しさを証明してくれる人がいれば、労災認定率はぐっと上がります。
なお、労災の申請は会社を通さずに従業員(患者)自身が申請することも可能です。その間に退職を迫られても、無視していればOKです。従業員には退職勧告に応じる義務などありません。
退職勧告がしつこくて困っている場合は社労士などの専門家に相談するのも手段の一つです。
うつ病でも失業手当がもらえることがある
失業手当の目的は「失業状態の人(失業者)を、再就職させるためのもの」と定義されています。失業者とは簡単に言えば、「現在職がなくて、なおかつ就職する意思があり、就職できる状態にある人」のことをいいます。
うつ病の人は就職できる状態にないので失業手当を貰えないようにも思えますが、実際には必ずしもそうとは限りません。
その人が失業者=「就職する意思があり、就職できる状態にある人」であるかどうかを判断するのはハローワークの職員です。ハローワークの職員は精神疾患の専門家ではないので、その人がうつ病かどうかを見抜くことはほとんどできません。
うつ病の人間でも、就職する意思があり、就職できる状態にあるならば、失業者として認めてもらえます。
ただし、失業者として認められた以上は就職活動を積極的に行わなければなりません。これを怠ると失業者の資格を失ってしまうことがあります。
いちおう、受給期間の延長(支給時期を後ろにずらす)制度がありますが、日常生活もままならないような重度のうつ病の方にはあまりお勧めできない方法です。無理して就職活動するともっと体調が悪くなる可能性がありますからね。
自立支援医療制度で医療費負担が1割に
自立支援医療制度は、うつ病を含む精神疾患の医療費が従来の3割から1割になる制度です。
1か月あたりの負担の上限も決められているため、医療費を抑制することができます。ただし、通院のみが対象となっています(入院は対象外)。また、保険がきかない治療も対象外です。
手続きは簡単で、主治医に相談して診断書などの書類をもらい、身分証明書などとともに市区町村役場の窓口で申請するだけです。有効期限は1年で、1年ごとに更新が必要ですが、2回に1回は診断書なしで大丈夫です。
障害年金は金額も大きいがハードルも高い
障害年金はその名の通り、障害がある人に対して支給される年金です。
うつ病は精神障害の一種なので、障害年金の対象となります。
ただし、うつ病患者が全員障害年金をもらうるわけではありません。うつ病は重さの数値化が難しく、審査は厳しいとされています。
障害年金には障害基礎年金と障害厚生年金があります。障害基礎年金は国民年金加入者、障害厚生年金は厚生年金もしくは共済年金加入者が対象となります。
会社員の場合は両方を、自営業者などの場合は障害基礎年金のみを受給できます。障害基礎年金は等級が1級もしくは2級、障害厚生年金は等級が1級、2級、もしくは3級の場合に受給できます。
ちなみに、1級から3級の区分は以下のようになっています。
1級 | 気分(感情)障害によるものにあたっては、高度の気分、意欲・行動の障害及び高度の思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり、ひんぱんに繰り返したりするため、常時の介護が必要なもの |
2級 | 気分(感情)障害によるものにあたっては、気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したりまたはひんぱんに繰り返したりするため、日常生活が著しい制限を受けるもの |
3級 | 気分(感情)障害によるものにあたっては、気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、その病状は著しくないが、これが持続したりまたは繰り返し、労働が制限を受けるもの |
医療費控除でお金が返ってくる
医療費控除は医療費を1世帯、1年間で10万円以上払った場合に、一部が還付される制度です。医療費控除は入院、通院、治療、検査などの他、病院までの交通費、入院時の食事代なども対象になります。
なお、医療費控除を受けるにあたっては確定申告が必要になります。領収書も必要になるので、必ず保管しておきましょう。
最後の砦「生活保護」
資産ゼロ、貯金一切無し、働けない、家族からの支援も期待できない……こうした場面では、生活保護を利用するしか手がありません。しかし、「うつ病で働けない」という理由だけでは、生活保護を受給することはできません。
生活保護を受給するにあたっては、以下の条件を満たす必要があります。
資産がない
働けない
今の収入が最低生活費を下回っている
たとえば両親と生活している場合は両親が扶養できると解釈されるので条件を満たさないことになります。また、貯金や土地などの資産も厳しくチェックされます。もっと細かい資産、たとえば車などはケースバイケースですが、近年の審査は厳しいです。
そのほか、診断書の提出も必須です。かなり条件が厳しいので、正直あまりお勧めはできません。生活保護しか手段がなくなる前に、上記の様々な手段を用いて生活防衛を行うことを強く推奨します。
うつ病からの借金で首が回らなくなったら
うつ病でどうしようもなくなり、借金まみれになった場合は債務整理をすることをお勧めします。本来はそこに行きつく前にほかのセーフティネットを利用することが理想なのですが、なかなか世の中は理想通りにいかないものです。
セーフティネットの存在を知らないまま借金を重ねてしまう人も少なくありません。そうした場合は潔く債務整理をして、きれいな身になってから新たな人生を歩み出すのも立派な手段といえます。