友人や知人から「借金の保証人になって欲しい、絶対に迷惑はかけない」と頼まれたとしても、絶対に受け入れてはいけません。
保証人をただなんとなく「返せなくなったときに借金を肩代わりすることになる人」というイメージで考えている人は少なくないかと思いますが、その考えは正確ではありません。
実は保証人には単なる「保証人」と「連帯保証人」があり、「保証人になって欲しい」というお願いはよく調べてみるとたいてい「連帯保証人になって欲しい」というものです。
連帯保証人は単なる保証人と比べて様々な権利が制限されており、実質的に債務者と同じ立場に立たされるものです。連帯保証人になるのは非常に危険な行為であり、何が何でも断るべきです。もちろん、単なる保証人も危険ですが、連帯保証人と比べればだいぶマシです。今回の記事で連帯保証人の恐ろしさを理解していただければと思います。
目次
保証人制度の仕組み
保証人とは、民法によれば、「主たる債務者がその債務を履行しない場合に、その履行をなす責任を負う者」とされています。
少し複雑な書き方になっていますが、要するに債務者が借金を返済しなかった場合に、代わりにその借金を返す義務を負うことになる人のことです。保証人制度があることによって、債権者は安心してお金を貸すことができる、というわけです。
そして、多くの債権者は債務者に対して「連帯保証人」をつけることを要求してきます(カードローンなどの場合は保証人不要なことも多いです)。単なる「保証人」を要求することはあまりありません。連帯保証人のほうがより確実に債権を回収できるからです。
保証人にあって連帯保証人にない「3つの権利」
保証人に与えられ、連帯保証人には与えられない3つの権利についてお話します。3つの権利とは
- 催告の抗弁権
- 検索の抗弁権
- 分別の利益
のことです。
催告の抗弁権
催告の抗弁権とは、債権者が保証人に対して債務の履行を要求してきた場合に、「まずは主たる債務者に請求しろ」と主張し、支払いを拒絶できる権利です。
言い換えれば、債務者が債務の履行がないことが明確になったときに、初めて保証人が支払うということです。債権者が主たる債務者に対して請求をしなかったときは,保証人は債権者がただちに請求すれば弁済を得られた限度で責任を免れられます。債権者がすぐに請求すれば回収できた金額は払わなくて良い、ということです。
この権利自体は大して大きなものではありませんが、検索の抗弁権と組み合わせることによって力を発揮します。
検索の抗弁権
検索の抗弁権とは、債権者が保証人に対して債務の利用を要求してきた場合に、「まずは主たる債務者の財産を執行しろ」と主張し、支払いを拒絶できる権利のことです。
債権者が主たる債務者に対して執行をしなかった時は、保証人は債権者がただちに執行すれば弁済を得られた限度で責任を逃れられます。債権者がすぐに請求すれば回収できた金額は払わなくて良い、ということです。
ただし、検索の抗弁権を行使するためには、保証人が主たる債務者に執行が容易な財産があることを証明する必要があります。
分別の利益
分別の利益とは、保証人が複数いる場合、主たる債務者の債務の合計額を、保証人の頭数で割った金額しか責任を追わなくて良い、という権利のことです。例えば、主たる債務者の債務が300万円で、保証人が3人の場合、それぞれの保証人は100万円ずつだけ責任を負えばよいということになります。
連帯保証人には分別の利益がないため、全額保証が求められます。(もちろん全員が全額支払いをするというわけではありません。保証人同士で債務の押し付け合いをするだけです)。
根保証でいつのまにか増える借金
保証人制度の一つに、根保証というものがあります。根保証とは、借金の極度額(保証責任の対象となる借入の限度額)というものをあらかじめ定めておき、その範囲まではいくらでも借りたり返したりできる制度です。
頻繁に借り入れを行う企業が事業資金や運転資金を借りる際によく使うこの制度を使うことによって、何度も審査をする必要がなくなるため、企業も金融機関も手間が省けます。
仮に主たる債務者が極度額を500万円に設定していた場合、保証人は500万円まで責任を負う事になります。最初に主たる債務者が借りた金額が100万円であっても、その後400万円の追加借入を行った場合、500万円を背負わされる可能性があるということです。
しかも、追加借り入れに際して、主たる債務者は保証人に対して報告する義務がありません。勝手に借り入れても問題ないわけすが、もちろん保証人の立場から見れば大問題です。
なお、根保証には契約期間があります。契約期間が終了した場合、主たる債務者は新たな借入はできなくなります。しかし、根保証の契約終了時になお借金が残っていた場合、保証人はそれについても責任を負う事になります。
連帯保証人になって欲しいと頼まれた時の対処法
連帯保証人には上記の3つの権利がないため、実質的に主たる債務社と同じ立場に立たされることになります。当然、連帯保証人になるべきではありません(もちろん、保証人にもならないほうが良いです)。連帯保証人になって欲しいと頼んできた相手が誰であろうと、絶対に断らなければなりません。たとえそれが世界一の大親友であってもです。
そもそも親友だと思っている相手に連帯保証人になってほしいなどとは頼まないはずです。もし親友が連帯保証人を頼んできたら、相手はあなたを親友だとは思っていないということになります。きっぱり断り、将来の付き合いについても少し考えたほうがいいでしょう。
保証人を断る際には「なれないものはなれない」で押し通すのが一番です。余計な理由付けをしても話がこじれるだけです。
仮にあなたが相手のことを全面的に信頼していて、どうしても力になりたいという場合は、自分がその債務を肩代わりする前提で、自己の責任に基づいて判を押してください。
もしすでに保証人になってしまっている場合はどうすればよい?
もし現時点で保証人になってしまっている場合、残念ですがそれを辞める方法はありません。一応債務者が「保証人を辞めていいですよ」と言ってくれた場合は話は別ですが、まあそんなことはまず期待できないでしょう。できることは、主たる債務社が真面目に債務を履行してくれることを祈るくらいです。
主たる債務者が返済できなくなった場合は?
主たる債務者が返済できず債務整理を行う場合は、保証人が債権者に対して支払いを行います。
保証人が主たる債務者に変わり債務を履行した場合、保証人には債務者本人に全額を請求できる「求償権」が与えられます。肩代わりした借金はもちろん、支払いにかかった費用(弁護士費用など)もあわせて請求できます。
ただし、あくまでも請求する権利があるだけであり、請求したとおりに回収できるとは限りません。いくら求償権を行使しても、主たる債務者に支払い能力がなければ意味がありません。
また、主たる債務者が自己破産をして、裁判所から免責を受けた場合、求償権を行使できなくなります。求償権を行使したいのならば主たる債務者の自己破産を止める必要がありますが、債務者の自己破産を止める方法そのものは存在せず、事実上不可能といえます。やはり、そもそも保証人にならないのが一番の防衛策と言えます。
求償権の時効
求償権には時効があります。主たる債務者と保証人の両方が個人だった場合、時効は10年間です。どちらか片方、もしくは両方が法人だった場合、時効は5年間です。時効を迎えてしまうと、求償権そのものが消滅してしまいます。求償権はできる範囲で早めに行使しなければなりません。
口頭で請求してもおそらく効果はないので、内容証明郵便を送るといいでしょう。内容証明郵便とは、郵便局側がその内容を公的に証明してくれる制度です(どんなことが書いてあったかを証明するものであり、その書いてある内容が正しいことを証明するものではありません)。
ただし、内容証明だけだとあとで「そんな郵便は受け取っていない」としらばっくれられる可能性がありますので、合わせて配達証明も利用するといいでしょう。配達証明は相手が書面を受け取った証拠になります。
まとめ
- 連帯保証人には3つの権利が与えられず、非常に危険
- 連帯保証人になることは債務者と同じ立場に経つようなもの
- 連帯保証人になる場合は自分が債務を肩代わりすることを前提にしたほうが良い
- 保証人は主たる債務者に対して求償権を持つが、時効がある
連帯保証人になるということは非常に危険なことです。現時点で連帯保証人になって欲しいと頼まれている方には、悪いことは言わないのでやめておくことをおすすめします。